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【Is Paris burning?(パリは燃えているか)⑯】


 どこで待ち伏せているか分からない。

 もしかしたら仲間が居るかも知れない。

 機械音に掻き消されてしまっている気配に集中して、慎重に進む。

 風が動いた気配を感じて立ち止まる。

 ここよりも少しだけ涼しい風。

 微かに金属の軋む音も聞こえた気がした。

 リズが機械室を出たのか、あるいは仲間が入って来たのか……。

 ワルサーP99 AS コンパクトを構えたまま、壁の方に進むと、そこには3枚の鉄の扉があった。

 1枚は向こうの端。

 そして後の2枚は、90度違えてほぼ隣り合っていた。

 俺の立っている向きから言えば、正面と左。

 微かに聞こえた音の向きから、向こうの扉ではないことは確かだから、リズの開けた扉はこの2枚のうちのどちらかだ。

 むろん、カモフラージュのために開けただけという選択肢もあるので油断は出来ない。

 ただ扉を開けて出て行ったとすれば、開ける扉を間違うだけで、この追跡は終わる。

“どっちだ?”

 天井を見上げた。

 幾つもの太い配管が左のドアの向こうの壁に吸い込まれて行き、正面のドアの方には細い配管が90度曲げられて伸びていた。

 配管の並びから、左のドアの向こうはここと同じ機械室だろう。

 だとしたら、このドアを開けても涼しい風は入っては来ないはず。

 入って来るのは同じ機械室の熱気で、同じ機械の音が大きくなったはず。

 リズが空けたのは、正面の扉だ。

 鉄の扉に耳を当てる。

 微かにコツコツと言う足音が聞こえる。

 リズの物か、それとも他の誰かの物か――。

 ドアノブをゆっくり回し手開くと、隙間から通路の向こうに消えようとするリズの後ろ姿が見えた。

 ドアを開けると、その裏には体格のいい男がいた。

“敵か!?”

 思わず蹴りそうになった足を止めた。

 男は、制服を着たガードマン。

「困りますねぇ、ここは立ち入り禁止と書いてあったたでしょ」

「すみません」

 ガードマンは、まだ何かを言いたそうだったが、リズを見失ってしまうので慌てて走った。

 通路には、もうリズの姿が無かった。

“見失ったか!?”

 そのときT字路になった通路の左側のドアが閉まる音が聞こえた。

 リズが出たのに違いない。

 慌ててそれを追い、俺もドアを開けた。

 もう追いかけっこは終わりだ。

 リズを捕まえて理由を聞いてやる。

 ドアの向こうはガランとした駐車場。

 だが、そこに居るはずのリズが居ない。

 近くには止めてある車も無かったので、車の影に隠れているのも考えにくいし、走り去る車もない。

“何処だ!?”

 不意に頭上から何かの動く気配を感じて、頭を下げた。

 被っていたウィックが何かに当たり、外れる。

 背中の方に誰かが着地したような音が聞こえ、振り向こうとした瞬間、俺の顔に向けて回り込んで来るように黒いシューズが襲い、避けようと身を捩ると眼鏡が飛んだ。

“リズ!”

 リズは俺を待ち構えるように、天井の配管にぶら下っていたのだ。

 第一撃は、そこから降りざまのキック。

 二発目は降りてからの回し蹴り。

 そして三発目も、また回し蹴り。

 スウェーして、それを避けると、同じ向きからの連続の回し蹴り。

 頭を低くして蹴りをかわし、リズの胸元に飛び込もうとした瞬間、今度はそのリズ自体が地面に腰が付くぐらいの姿勢から足払いを仕掛けてきたので慌てて横に飛んで避けた。

 流れるような蹴りの連続攻撃。

 しかも、ひとつひとつの動作が早い。

 カンフー使いか――。

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