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【Is Paris burning?(パリは燃えているか)⑩】


 カーテンの向こうに居る男の名は、ピエ-ル・ベルモンド。

 RIDOで一番の狙撃手と言われた男。

 だけど、今は昼間から呑んだくれている、ただの酔っ払い。

「また昼間から呑んでいるのね」

「ようエマ、久しぶりだな。リビアでは御活躍だったようだな」

「よしてよ」

 ミューレが差し入れだと言って、出来立てのマルゲリータを運んできた。

 ピザの香ばしいチーズの臭いとトマトとバジルのスッキリした香りが狭いVIPルームに広がる。

 エマがベルの隣に座り、用件を話し出したのをその隣に座って、おとなしく聞いていた。

「駄目だ駄目だ! 言っておくが俺は殺し屋でもないし、暗殺者でもない。狙撃銃h持っちゃいるが、ただの警察官だ」

「でもRIDO(フランス国家警察特殊部隊)だよね」

「RIDOは死刑執行人じゃない!」

「サミットの警備にはRIDOも総動員されるはずよ。もうすでに狙撃班は現地に下見に入っているわ。なのに何故あなたはここに居るの? そしてあなたの班も」

「そ、そりゃあパリで何かあったときのために残っているのに決まっているだろう」

「そのパリに何かあるかも知れないのよ」

「……」

「ねえ、お願いだから協力して」

「駄目だ」

「どうして?」

「……パリに何かあったとしても、俺が出て行くのは、その“何か”があった後だ」

「罪もない人が大勢巻き込まれるかも知れないのよ。それでもダメ?」

「駄目だね。帰ってくれ」

 ずっと2人の話を聞いていたが、ここで口を挟んでしまった。

「エマ、帰ろう。こいつは役に立たない」

 そう言って席を立つ俺をベルは恐ろしい形相で睨み付けた。

「黙っていろ! たかが戦争屋の分際で何が分かる? 1世紀ぶりの女性隊員だか何だか知らねえがお前に何が分かる」

 ベルが酒瓶を投げようとした手をエマが止める。

「分かるさ、狙撃手はスコープを使う。その中にあるのは生きた人間の表情。しかし狙撃手が引き金を引いた途端、その表情から命が抜ける。死ぬ間際、稀に目が合ったと思うこともあるだろう。だが、それはただの錯覚に過ぎない。離れた場所からスコープ越しの狙撃手の目など見えるはずもないのだから。錯覚は全て自分自身の心の怯えだ。狙撃手の中には、その怯えに耐えられなくなって酒や麻薬に手を出して潰れて行くものも多い。それが今のお前」

「っち。知ったような口を利きやがって、この戦争屋が」

“パシン!”

 店内に平手打ちの音が響く。

 エマがベルを打ったのだ。

「馬鹿にしないで頂戴。こう見えても、この子は傭兵部隊のNo1狙撃手よ! 今迄黙っていたけれど、ナトちゃんの言ったことは正しいと私も思う」

「No1狙撃手……? ハンス・シュナイザーより上なのか?」

「この前はな……」

「面白い。 元オリンピック代表メダリストの俺と勝負して勝てば、無条件でこの話呑んでやろう。だが、もしお前が負けたら、その体を俺に食わせろ」

「――いいだろう」

「ちょっとナトちゃん、あのハンスだって過去に1度も勝ったことがないのよ」

 エマが心配して俺の体を支えるように抱く。

「いいの? 大切な彼のために取っておくんじゃなかったの?」

「関係ない」

「……わかったわ」

 なにかを決心したように、エマがベルと向き合っている俺の前に割って入り、ベルに言った。

「この子の代わりに、私がアンタの生贄になるわ」

“エマ!”

 しかしベルは驚く顔ひとつも見せずに言葉を返す。

「もう、お前は喰い飽きた」と。

 そのあと直ぐに店を出た。

 勝負の日取りは、後日エマが決める。

 店のVIPルームには、出来立てのピザを顔に投げられて溶けたチーズとトマトソースまみれになったベルが、何故かしらニヤニヤしながらそれを手ですくって舐めていた。

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