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【現在、ザリバン高原地帯02時00分】


 崖の下には、もう敵は居なかった。

 AN/PVS-22暗視スコープで調べてから降りたのだから居ないのは当然なのだが、まるっきり居ないと言うのはどうも腑に落ちない。

 ただ、そこに大勢の敵がいた事だけは、辺り一面に散らばった空薬莢の多さで分かる。

 森の中を偵察していると、木々の切れ間に小高い丘があるのを見つけた。

 丘の上は木々が生えているが、枝の様子や葉の向きに不自然なところがあり、近付こうとするボッシュを止めて、ほふく前進をして大量の木が盛ってある隙間から催涙弾を落してみた。

 強い夜風の中に微かに煙は上がったものの、人の居る気配はなかった。

 あとから登ってきたボッシュが「木で隠していやがる」と言って、木の枝に手を伸ばしたので腕を掴んでその手を止めた。

 ライトを照らして用心深く、盛ってある木を観察すると、何本かの木からワイヤーらしき物がブラ下っているのが見える。

「ボッシュ、ハバロフにテスターとペンチと白いビニールテープを借りて来てくれ.

それから本国へ応援要請!」

 木を除けるために持ち上げると、ワイヤーの先に付いている爆弾が爆発する仕掛け。

 だからワイヤーを切る。

 しかし、なにかしらそれだけではない嫌な予感がした。

「借りて来ました」

 ボッシュからテスターを受け取り、1本目のワイヤーに当ててビニールテープで留める。

 テスターの先を2本目のワイヤーに当てるが、これは何も反応しなくて3本目のワイヤーに当てると通電したことを示すピーっという音がした。

 テスターを外し、巻いていたビニールテープに、それぞれ①と記入して次のワイヤーにも同じようにテスターを当てていった。

 ワイヤーは結局7本あり、そのワイヤーのない隙間から、ソーっと頭を突っ込み、中を確認する。

 嫌な予感は的中した。

 1本のワイヤーはそれぞれ違う木に先端を結ばれていて、その真ん中に爆弾がブラ下っている。

 嫌らしいところは、そのワイヤーのそれぞれ1/3の所に短い木の枝が結ばれているところ。

 つまりワイヤーの結んである片方の木を持ち上げれば、爆弾は真ん中からズレて1/3の所にある短い木が結んである所で止まり、止まった拍子に信管のピンが抜けて爆発する。

 ワイヤーの片方を切ったときもそれは同じで、仮に一本のワイヤーを同時に切ったとしてもストッパーの役目をする短い木の枝が他のワイヤーに引っ掛かり、ピンが抜ける仕組み。

 中に潜り込んでリンゴの果実を摘むように、爆弾を外せれば良いのだが、木の枝は複雑に絡み合っているから万が一木々のバランスが崩れてしまったり、結んである枝が折れればそこで爆発してしまう。

 中から造作されたものだから、どこかに抜け道があるかも知れないが、この様な手の込んだ仕掛けを作った奴のことだから最後の1本は誰かに手で吊るしてもらった後、外に出てから結び逃げ道も潰しているに違いない。

 安全に除去するには、順番を間違えないように1本ずつ、ゆっくりと降ろしていくしかない。

 順番を間違えただけで俺たちは永遠に動くことが許されなくなる。

「ボッシュ、崖の上に居るブラームと交代しろ。そして認識票のチェーンと、通信機の配線修理用のワイヤーとニッパーを持って来させろ」

「了解ですが、俺だって逃げるわけにはいかねぇから戻って来て手伝うぜ」

「駄目だ。上で敵が来ないように確り見張れ。気持ちは有難いが、この作業はリーチの長い者じゃなきゃ駄目だからフランソワとブラームでやる」

「分かりました。幸運を祈ります」

「爆弾処理者に幸運を祈るだなんて、トーニが聞いたら大笑いするぞ」

「そりゃそうだ」

 フランソワが、そう言って笑う。

「背の高い者が重宝される場合も有るし、その逆の場合も有る。だから人間はみんな背丈や体格が違う。今回は俺やブラームが重宝される番だ。オメーが重宝される番が来たときには、オメーがどんだけ嫌だと駄々をこねても軍曹は許しちゃくれねーから、そん時までその気持ちは締まっておけ」

「分かったよアニキ。でも軍曹の命令なら、どんな命令でも俺は駄々なんてこねねぇぜ」

「いいぞ、ボッシュ。それでこそ俺の弟分だ」

 穴の中に頭を突っ込んだまま、2人の会話を聞いていた。

 なんて好いヤツたちなのだろう。

 だが、俺は決してお前らを死なせはしない。

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