【Is Paris burning?(パリは燃えているか)⑧】
エマが真っ白な画面に文字をタイピングする。
“Paris is a calm day today”(パリは今日も穏やかな一日です)
「それ、作戦名?」
「うん。チョッと変かなあ」
「ううん。良いと思うよ」
エマが少しだけ恥ずかしがる少女のようにニッコリと笑い、再び画面に顔を戻し“派遣部隊”とタイピングした後、真っ先にLéMATと打った。
「LéMAT !?」
「嫌なの?」
「嫌じゃなくて、寧ろ嬉しいけれど、いいのか?」
「良い悪いじゃなくて、この作戦はLéMATにしか出来ないと思っているのよ」
「LéMATにしか出来ない?」
「そう……DGSE内で、ザリバンの復讐計画がサミットをターゲットに的を絞るだろうと言う意見が圧倒的なのは話したと思う。だからRAIDとCOSを総動員して封じ込めるのが、あっちの作戦。でも、こっちは街の中。しかも観光地。そしてターゲットがノートルダム大聖堂と一般市民だとしたらどう? 封じ込められるかしら?」
たしかに物々しい警備体制を取れば一旦は封じ込められるだろう。
しかしサミットは期間が決まっていて、その時間が経てば終わるが、パリの街は終わらない。
その日に何もなかったとしても、次の日、次の週、次の月にザリバンが潜伏さえし続けていたら、いつでもテロは行える。
「でも、なぜ?」
「そうね。あえて言うならばLéMATのチャランポランさ加減かな――」
エマが今度は思い出したようにキャッキャッと笑う。
「だってトーニなんて、どう見ても特殊部隊の兵士には見えないし、ターミネーターの真似をしてハーレーを乗り回す人も変だし、あとはモヒカンだったり見た感じ悪党にしか見えなかったり、見るからにフランス人じゃなかったり。一番まともそうなブラームだって兵隊というよりはアスリートだし、彼氏なんかパッと見にイケメンの不良学生そのものでしょ」
さすがにエマ。
いい所を突いてくる。
でも、そんな個性溢れる仲間たちだって軍服を着れば、誰がどう見ても立派な兵隊。
しかもトーニ以外は、見る者が見れば体格や身のこなしの良さで、特殊な訓練を受けている事なんて直ぐに分かるだろう。
そう考えていた俺の顔を、いつのまにかエマがジッと覗き込んでいて、こう言った。
「だから、軍服は着ないの」
「軍服を着ない?! じゃあ武器は?」
「拳銃くらいかな? あとはスナイパーライフル」
「それだけ??」
「そう、それだけ。LéMAT総出で“Šahrzād作戦”の続きをしてもらいたいの。今度はボスを捉えるだけじゃなくて、一網打尽だけどね」
「だけど、人数が……」
LéMATの隊員数は40名。
それとパリ市警察だけでは、どこから攻撃を仕掛けてくるか分からない敵に対応するには、数が少なすぎる。
「そうね、あとは私が何人かDGSEのメンバーを集めてみるわ。それと――」
「それと……?」
「RAIDきっての名狙撃手」
「サミットのメンバーから引き抜いて来るのか?」
「ううん。屹度メンバーには選ばれていなくて、今頃は――」
そう言うなりエマはガバッと席を立ち「行くよ!」と言って俺の手を掴んだ。
「行くって!?」
「彼に会いに」
「彼に?」
「そうRAIDきっての名狙撃手が迷狙撃手になる前にね!」
入って来たオフィスを来たときとは逆方向に、同じようにエマに手を引かれて駆けだした。




