【現在、ザリバン高原地帯23時20分】
ここへ来た時に、死体を調べた。
状況的には、敵に取り囲まれた格好だが、どうも腑に落ちない。
第一に、取り囲むのであれば、時間的にはもっと早い時間から囲めたのではないかということだ。
敵からしてみれば、少々位置がずれたと言っても、大凡の降下ポイントは分かっている。
そして、どこに向かうのかも。
だったら、もっと早い時期に取り囲み、アメリカ軍を全滅させてから他の部隊へ応援に行く方が効果的なはず。
第二は、その時間。
19時45分にLéMATが輸送機の所へ到着する5分前に、アメリカ軍の交信は途絶えた。
しかもその場所は、ここに来たときの着陸位置。
敵に押し戻されて、ここまで退却したにしても、死体の位置関係から考えると交戦範囲が狭すぎる。
アメリカ軍は数時間も掛けて、僅か3~400mしか進んでいないことになるが、ここの地形から見てそれは有り得ない。
膠着状態になるとしたら、この西にある崖……。
「軍曹、アメリカ軍本部から返信来ました! 一部モールス信号で解読できませんでしたので書き留めてあります」
ハバロフからメモを渡された。
メモを読むと俺たちが渡した認識票の他にも、まだ7名のアメリカ軍兵士の行方が分からない事と、衛星携帯電話の発信記録がある事が書かれていた。
“……やはり”
「ブラーム、崖の下を捜索する」
俺の予想が正しければ、崖の下に6名の戦死者が居るはず。
そして行方不明の一人は裏切者。
約1時間の捜索の結果、5人の戦死者が新たに見つかった。
行方不明者は、隊長のノリス大尉とエリアン一等兵。
この2名のどちらか、それとも両方かが裏切って衛星携帯電話で情報を漏らしていたに違いない。
おそろくアメリカ軍部隊はここに到着後、裏切者の偽の情報をもとに本来向かうべき道をそれて崖の下へ導かれ、ヤザ達が到着するまで身動きを封じ込まれたに違いない。
そして崖の下の敵と、上の森から出てくるヤザ達との挟み撃ちに合う。
これで漸く分かった。
この作戦での敵のトリックが。
ヤザ達は東の村から来たんじゃない。
わざわざ東の村から来たように見せかけるために、東の端で俺たちの輸送機が上空を通るのを待ち構えていたのだ。
もしも攻撃に失敗したとしても、その位置にザリバンの大部隊がいることが分かれば、新設した前線基地から尾根伝いに攻撃に向かう。
そして敵の本拠地が俺の予想どうり、この付近だとしたら、途中の何処かで挟み撃ちに出来る。
「ハバロフ、直ぐにモンタナに戦える者を連れて、ここへ来るように伝えろ。それから……その後は俺に無線を貸せ」
まだ仮説であり証明は出来ない以上、カナダ軍まで呼び寄せることは危険だ。
その代り、明け方に来るであろうはずのアメリカ軍部隊と前線基地に、俺たちが崖を降りることを暗号で知らせておいた。
名目は、2名の捕虜の救出と、崖の下に敵の大部隊が潜んでいる可能性があること。
「一旦崖を降りて、あとから来るモンタナ達の安全を図る」
無線連絡した以上、敵にも聞かれた可能性がある。
アメリカ軍が、崖で身動きが取れなくなった二の舞は避けなければならないので、先に崖の下に拠点を築いた。




