【現在、ザリバン高原地帯23時00分】
小休止の間、俺はズット地図を見ていた。
暗い夜の山道では、たった数メートル離れているだけで気が付かない事もある。
特に森にガレ場が混ざり、高低差の大きいここの地形では、なおさら。
しかも、相手はヤザ。
死と隣り合わせの世界で、生きていくために必要な“悪”を教えてくれ、幼かった俺に戦う本能を叩き込んだ男……。
そしてその戦場で、もう十五年も最前線で戦い、生き残っている男。
重要なことを見逃しているはず。
その鍵は屹度モンタナが見つけてくれる。
「軍曹、伍長から連絡が入りました」
「よし、替われ」
無線機を取ると、モンタナの大きく陽気な声が耳に響く。
「やあ軍曹元気ですか!? もう敵はやっつけちまったんですか?」
「いや、遭遇していない。それより捜索の結果は?」
「あっハイ。捜索中に軍曹たちがジェリーたちを助けた崖に潜んでいた敵兵を森で捕まえました」
「森で? こっちの森か?」
「そうです。おおかた帰って来ない味方を心配してノコノコ出てきたんじゃないかと思いますが、それとも腹が減ってお家に帰ろうとしていたかどちらがでさあ」
「闘ったのか?」
「いや、全然。どうやら腹ペコで戦意喪失していたみたいで、俺たちと出くわした途端直ぐに銃を捨てて降伏しました。何を言っているのかさっぱり分かりませんでしたが、俺たちがレーションを喰っているのを物欲しそうに見ているんで腹は減っているのは確かでさあ」
「捕虜と変われ」
「了解」
無線機の向こうから“俺たちのボスに正直に話をしたら飯を喰わせてやる”と言うモンタナの声が聞こえたあと、マイクを手に取る音がした。
「إلى أين أنت ذاهب؟ 」(どこへ行くつもりだった?)
『مكان صديق』(仲間のところ)
「ZARIBANهل هو؟من هو صاحبك؟.」(ザリバンの仲間か?)
『نعم』(はい)
「أين هذا المكان؟」(その場所は、どこだ)
『لا أستطيع أن أقول لأني أقسم بالله』(神に誓って、それは言えない)
「في مكان ما!」(それは、どこだ!)
『لا أستطيع أن أقول』(言えない)
「هل يوجد الكثير من الاصدقاء أنا أفهم」(わかった。……仲間は沢山居るのか)
『هناك الكثير』(沢山います)
「أكل الأرز والراحة ببطء فهم」(分かった。ご飯を食べてゆっくり休め)
『شكرا لك』(ありがとう)
「هل أبناء الله طيبون؟」(神の子は優しくしてくれるか?)
『نعم. إنه لطيف جدا.』(はい、とても優しいです)
「أيهما أفضل ، "يازا"؟」(ヤザと、どっちが優しい?)
『"يازا" أمر مخيف』(ヤザは怖い)
そう言って、捕虜の男は笑った。
再びモンタナに代って、彼らに飯を喰わせるように言った。
神に誓っている以上、彼らは仲間の居場所は教えない。
だけど、彼等の居場所には“神の子”、つまりザリバンの総帥『アサム・シン・レウエル』が居ることは確かなようだ。
すると、やはりここにザリバンの本拠地があるのか。
地図上に並ぶ、1号機と俺たちの機が墜落した場所、それと到着するはずだった前線基地にするはずの高地。
それらを結ぶと、1号機の墜落現場を一番西にして、東へ向かう一本の線になる。
東に向かうと、川があり、その先には小さな村がある。
ジェリーたちの小隊は、その手前にある1号機の墜落現場に向かおうとしていた。
おそらく今夜到着したカナダ軍も。
ヤザが俺たちの乗った輸送機を攻撃したポイントは、その村と墜落現場との中間点。
だが、この作戦の情報は予め漏れていて、敵は再三タクルガルの戦いを仕掛けてきている。
屹度、何か隠されている事実が有るはずだ。




