【現在、ザリバン高原地帯19時45分】
普通科分隊の方で死者4名と負傷者5名、LéMATでも3名が負傷し、敵の抵抗の激しさを物語っていた。
「あとの部隊は?」
「無線によると左翼のカナダ軍部隊は依然断続的な抵抗に遭っているものの、もうじき到着する見込みだが右翼のアメリカ軍部隊は激しい抵抗に遭っているらしく、今から約5分前に無線が途絶えました」
「無線が途絶えた!?」
「全滅したのか、ただ単に無線機が壊れたのかは分かりませんが……おいハバロフ、交信内容を軍曹に報告しろ」
「はい」
無線担当のハバロフによると、敵の激しい抵抗に部隊が二つに分断されて着陸地点まで押し戻されて、しきりに救助要請を出している最中に銃声しか聞こえなくなり無線が切れたということだった。
風が出てきている……しかも日も暮れている。
有視界飛行のヘリにとって、夜の山岳地帯での飛行は難しい。
そしてこの高原に吹く風も、谷や尾根などの地形により不安定になる。
常に墜落の危険を伴うから、二次被害を恐れて飛行許可が出せない。
もしも許可が下りるとしたならば、高度を充分に取った偵察飛行のみ。
やはり敵はタスクガルの戦いを仕掛けている……。
「ハバロフ。カナダ軍に連絡して、あと何分で到着できるかと、交戦している大凡の敵の兵力を確認しろ。ブラームとフランソワ、ジェイソン、ボッシュ、キースの5名は直ぐに夜間用の装備を整えて出発の準備に掛かれ」
「軍曹、俺たちも着いて行く」
ゴードンとジムが言ってくれた。
「いや、君たちはもう20時間も戦い続けているから駄目だ」
「軍曹だって同じじゃないか。いや軍曹の方が常に戦っていた。だから俺たちも行かせてください」
「ありがとう。しかしそれは無理だ」
「何故です!?」
「どこかで必ず眠気が押し寄せて、注意力が散漫になる時がくる。もしもその時に敵が隠れていたとしたら必ずお前たち自身か、それとも他の誰かが死ぬ」
「じゃあ、どうして軍曹は」
珍しくゴードンが執拗に迫ってきた。
「俺――いや、俺たちはLéMATだ。君たちアメリカ軍のSEALsと同じように、極限下での戦闘訓練は積んでいる」
「それに、もう分かっていると思うから言っておくけど、このナトー軍曹は女とは思えないと言うより、俺達でも全く敵わないほどのスタミナと根性を持っているから心配するな」
そう言ってモンタナが食い下がるゴードンの肩をポンと叩くと、ゴードンはスッカリ諦めたように「分かりました」と肩を落とした。
「軍曹! カナダ軍総勢22名は、あと10分ほどで到着予定だそうです。敵兵は塵尻に分散してその数は把握できていない模様との事ですが多く見積もっても10名もいない模様」
「よし、ハバロフも直ぐ支度しろ。5分後に出発する」
そして、改めてゴードンとジムの二人に向き合った。
「君たち二人をここに残して行くのは、もうひとつ理由がある。それは皮下の誰よりも、ここでの戦い方を知っていて地形に詳しいからだ。敵がどの方角から来たらどこで戦うか、あの尾根の先はどうなっているのか、あの岩場には何人かくれられるか――どんな優秀な兵士でも敵わない経験がる。今日一日で得た経験を生かして皆を守ってくれ」
「分かりました」
「モンタナもゴードンとジムの言うことを聞いて、皆を頼んだぞ」
「了解しました」
「ブラーム。準備はできたか?!」
「OKです! いつでも出れます」
「傭兵部隊一列に整列!」
モンタナが号令を上げると傭兵部隊に混じってゴードンもジムも、そして怪我をしたあの少尉もその列に加わった。
「では行く!」
モンタナに敬礼して歩き出す。
「アメリカ軍を救出に向かう軍曹たちに、一同敬礼!」
僅か十数名の列だったが、身の引き締まる思いがして、その列の横を抜け俺たちは高原を森に向かった。




