【さようなら蒼い空⑦】
朝、目が覚めて見ると、俺のシーツの上には猫ちゃんがまだ寝ていて、昨日脱ぎ散らかした衣服をエマが畳んでくれているところだった。
床に落ちたカップもない。
「あ、エマごめんなさい、俺がやるから」
「いいのよ。ナトちゃんは、のんびりしていなさい。疲れたでしょ」
「ううん。それより今日、出発でしょ」
「もう準備は出来ているから」
時計を見ると、もう7時。部隊に戻らなくては。
「あっ。そうそう、空港まで送って行ってくれる?」
「そうしたいけれど、部隊に戻らなくちゃ」
「大丈夫よ、ハンスにはもう言ってあるから」
相変わらず、根回しが早い――ってか、本人に相談なし??
「時間は?」
「お昼過ぎの便だから、たっぷり余裕あるよ」
そう言って、ベッドの横に座り子猫を抱きよせた。
子猫は気持ちよさそうにスリスリして甘えだし、それに応えるようにエマも優しく撫でていた。
「すっかり懐いちゃったね」
「だってネコだもの」
「?」
言っている意味が分からなかったけれど、それは言わずに「そうね」とだけ相槌を打つ。
「あっ、そう言えば猫の籠も買わなくっちゃいけない。ナトちゃん少し早めに出て買い物に行こうよ」
「いいよ。じゃあ着替えてくるね。軍服じゃなんだから」
「おっと、その前に朝食、朝食」
軍服を着て食堂に向かうと、ちょうどトーニがジェイソンたちと話しているのが聞こえた。
別に聞くつもりじゃなかったが、話し声がデカイから、おのずと聞こえてしまう。
「なあジェイソン。オメーはナトーとエマのどっちが好い?」
「どっちか選べって言われると困るが、遊ぶんなら、より巨乳のエマかなぁ~」
「おい、ナトーだって軍服で隠しているけど、結構な巨乳だぜ。しかもモデル並みのスレンダーな体つきに張りのある巨乳なんて、そうそう居るもんじゃねぇ」
「トーニ。お前見たのか?」
「いや、見たことはねえ。俺の想像だが、これだけは自信がある」
「ボッシュ。オメーは、どっちだ?」
「俺は断然ナトーだな。あの細身の体に隠された巨乳もそうだけど、格闘戦の訓練の時に掴み合うだろ。そしたらお互いの顔と顔が直ぐ目の前だ。あのエメラルドとアクアマリンの目で睨まれた日にゃあ、それだけで天に昇っても良いくらい興奮しちまう」
「それでオメーは、いつも投げられているんだな。確かにあの目は、いけねえ。俺でも見つめられちまうと小便ちびりそうになっちまう。ミヤンはどうだ?」
「エマってDGSEの大尉だろ。あの美貌とスタイルにも憧れるが、頭の良さにも憧れるなぁ」
「なに言ってんでぃ! ナトーだって結果的には軍曹止まりだけど、入隊試験は士官の試験もパスしているくらい頭が良いの知らねーな。ハバロフ、オメーは?」
「隊律がなかったら俺は絶対にナトー軍曹ですね。エマは遊ぶのには良いけれど、嫁に取るには不安がある。だけどナトー軍曹は一途だから好きな人と結婚して家庭に入っても屹度スーパー軍曹のまま良い奥さんになりそう」
「ハバロフ、オメーは天才だぜ! その通りなんだ。ナトーの好い所は巨乳でもオッドアイでもねぇ、あの一途な所が最高に――」
「誰が巨乳で、オッドアイなんだ?」
トーニの肩を掴んだあとボッシュの肩を掴んだ。
「今度の格闘技訓練で、本当に天に昇らせてやろうか?」
「あっ! いけねぇ。もう集合時間に遅刻しちまう! じゃあなナトー、エマ大尉を無事空港まで送り届けろよ!」
逃げるようにトレーを抱えて出て行くトーニたちを見送っていたエマが言った。
「あのトーニって言う隊員、心底ナトちゃんのこと好きなんだね」
「馬鹿な、揶揄っているだけだよ」
「そうかしら私には、そうは見えないけれど……ハンスも良いけど、どう?」
「兎に角、隊内で俺は女じゃない。やめてくれ」
まだ言い足りなさそうなエマに背を向けて、俺はトレーを取った。




