【5年前、中東紛争地域郊外、赤十字難民キャンプ】※百合要素あり
お昼休みや夕方、そして休日を利用してサオリに護身術と言うものを教わっているが、大して力も強くない小柄なサオリに対して、いまだに勝つことが出来なくて悔しい。
この護身術と言うものは、私が経験した戦法の中では恐らく最強だと思う。
なにせミランのような大男を相手にしても、簡単に投げ飛ばすことが出来るし関節を捻じり上げて悲鳴を上げさせることも出来る。
そればかりか、技を掛けるこちらの方は殆ど体力を消耗しないという利点もある。
護身術は掴みかかってくる相手ばかりでなく、パンチやキック、背後からの攻撃からナイフや棒による攻撃など、いかなる場合でも相手が攻撃さえ仕掛けてくれば技を掛けて打ちのめすことが出来る。
だいぶ上達してきた私とサオリとの戦いは、その護身術同士の戦いになり、相手の技を掻い潜っていかに自分の技を成功させるかと言うゲームの感覚に似ていて面白い。
あるとき仕事が終わり、護身術の練習をしたあと、サオリに聞いた。
小柄なのに、どうしてそんなに強いのかと。
真剣に聞く私にサオリは優しく笑って、こう答えた。
“常に自然体でいるから”と。
「自然体?」
言葉の意味が分からくて聞き返した私に、こう付け加えてくれた。
決して気負わず、勝とうとせず、相手を恨まない、暑い太陽の日差しを背負いながら人々に木陰をつくる樹のように悠々とした気持ちを持ち続けることだと。
「だからナトちゃんは、私に勝とうと思って挑んでくるから勝てないのよ」
「でも、勝とうとしなかったら、どうなるの?それってただ負けるだけじゃない?」
「そうね、いまのナトちゃんなら屹度負ける」
「じゃあ結局、私がどう思っても勝てないじゃないの」
「ううん。でも最後にはやっぱり勝とうと思わないことが大切になって来るのよ」
「意味分かんない」
そう言って、爽やかに夜空を見上げて二人で笑った。
空には満天の星。
時折、人工衛星が飛んで行く夜空。
幾つもの星が時を越えて瞬き、それが世界の夜を素敵なものに代えている。
夕食を終え、予定表に従ってシャワーを浴びた。
難民キャンプでは水は貴重だから、いくら医師とはいえ毎日シャワーを浴びることが出来るわけではない。
今日はサオリと私の日。
水がもったいないから、狭いシャワー室にいつも一緒に入る。
ここに来たばかりの時は、私が小さかったから余裕だったけれど、大きくなった今では肌が触れ合う程になった。
嫌ではない。
寧ろ好きで、よくお互いに肌を触れ併せて遊ぶ。
石鹸に濡れたサオリの肌は、きめ細かく艶々して柔らかく触っていて気持ちいいから、私は良くサオリの体を洗って上げる。
お返しにサオリも私の体を洗ってくれて、シャワーでほんのりとピンク色になるところが可愛いと言ってくれる。
そして、お互いの体を洗い終わると、私はサオリにキスを求めた。
もともとは、お風呂に入る習慣の無かった私にサオリがくれたご褒美だったけれど、大きくなった今では余りサオリの方からしてくれなくなって、私の方から求める。
キスはスキンシップとして最も大切な行為だとサオリが言ってくれて、ここに来た時からズット続けている。
子供の頃はキスするのがただ単に楽しいだけだったけれど、最近ではドキドキして少し恥ずかしいけれど不思議に求めずにはいられない。
そして最近は、軽いキスでは物足らなくて私の方から長いキスを求めてしまうことも多くなり、サオリも最初はそんな私の衝動的な長いキスに戸惑っていたみたいだけど、何も言わずに優しく応じてくれている。
そして個人用のテントを与えてもらった今でも、寝付けない夜は時々サオリのテントに行き、そのベッドに潜り込んで体を温めてもらう。
子供の頃、そうしてもらっていたように……。
サオリとミランに大切にしてもらっている私は、その恩に応えたい一心で一所懸命仕事をして、そして寝る間も惜しんで勉強した。




