【さようなら蒼い空③】
バラクが死んだあの日から1か月が過ぎた日、前線基地の撤収が決まり部隊は元の基地へ移動することになった。
「いやー、これで夜勤のドライブからも解放されるって訳だ」
トーニが声を高らかに言った通り、あの日を境に街は穏やかな顔を戻していて、いつ何が起きるという緊張感もなく本当に夜のドライブを楽しむような毎晩だった。
何度か港の28番倉庫や、アジトにも立ち寄ったが、直ぐに残骸は撤去されて今はもう面影もない。
休日を利用してムサの店にも1度だけ足を運んだ。
セバも、もう確り店の切り盛りを手伝えるようになっていて、俺に軍隊なんか辞めて一緒に働かないかとまで言ってくれた。
正直、嬉しかった。
セバの事は嫌いじゃないし、普通の家庭に入れるなんて夢のよう。
だけど俺には、まだやらなくてはならないことがある。
それはヤザを見つけること。
平和になった、この地では、それは叶わない。
だから体よく断った。
復讐か? と聞かれれば、違うとは言えないけれど、そうだとも言えない中途半端な気持ち。
俺はヤザと合って、何がしたいのだろう……。
前線基地をスッカリ更地に戻して、国軍と一緒に長い隊列を組んでアンドレ大佐の居る基地へと向かう。
道中で急に“バンッ”と言う大きな音がして隊列が止った。
“残存部隊の破壊工作か!?”
一瞬緊張が走り、自動小銃を構えて車から降りてみると、国軍のトラックがパンクしているだけでホッとする。
のんびりと国軍の兵士がトラックのスペアタイヤを交換している中、空を見上げていた。
「空に何か見えるのか?」
ハンスの言葉に「うん」とだけ返事をした。
この蒼い空の向こうには、今は太陽の明るさで見えないけれど、星が瞬いている。
何光年、何万光年先に無限に広がる大宇宙。
そのどれか一つにだけでも、争いのない幸せな星があれば好いと思って見ていた。
そして、その星にバラクやハイファが生まれ変わって、また姉弟として暮らして欲しいと。
でも、そんなセンチなことは、傭兵部隊にいる限り言えない。
俺は男として雇われているのだから。
タイヤの交換が終わって部隊は再び走り出す。
ここへ来た時と違って、道に爆弾を仕掛ける者もいなくて安全な移動。
本来あるべき姿。
人が自由に、安心して通える道。
やがて基地が見えて来た。
遠くから見ただけでも、人だかりが待ち構えているのが分かる。
「軍曹、また大変ですね」
運転している俺の後ろからブラームが言った。
「たいしたことじゃない。別に命を狙われる訳じゃないんだから」
そう言って笑ってみせた。




