【現在、ザリバン高原地帯19時00分】
無事ジェリー伍長とトムを救助して、森の端にあるタコツボに到着したが、いよいよ戦闘は輸送機にまで及んでいた。
「何をやっているんだあの少尉は、このままじゃ逃げてくる敵に呑み込まれてしまうぞ」
ゴードンの言う通り、このままじゃ危ない。
そこで俺たちは、一旦陣地を森と輸送機の中間点まで移動して、輸送機の救助に向かうことにした。
「ゴードンはここに残って見張りと援護。ジムは俺に付いて来い!」
ジムの怪力なら担架の必要はないから、もしも負傷者が増えていたとしても何とかなるだろう。
俺たちが輸送機まであと50mほどまで近づいた時に、輸送機から脱出して来る影が見えた。
「ようやく逃げて来てくれましたね」
垂直に立つ影は6つ。
そのうち4つの影は担架を担いでいるはずで、合計8人が脱出に成功したかたち。
と、なると1人足りない。
「ジム。俺に命を預けろ!」
「言われなくたって、ズット軍曹に預けてますぜ!」
逃げてくる一団に陣地の位置を教え、誰が残っているのか聞く。
「少尉が残って援護しています!」
「あの馬鹿!」
思わず口から出てしまった。
輸送機の入り口まで辿り着き、ジムにここから後部ハッチの方から来る敵を撃つように指示して、俺一人で中に突入した。
「少尉!」
敵と間違われて撃たれないように、中に入った途端大声を上げると、向こう側の入り口にもたれ掛かるようにして銃を撃つ少尉の姿が見えた。
「少尉! はやく脱出しろ!」
「俺はもう逃げない。仲間が安全な場所に着くまでは、ここで敵を止める。軍曹、お前こそ早く逃げろ!」
少尉は既に腕の2カ所に傷を負っていた。
後部ハッチから3名の敵の影。
そのうち2名はジムが倒し、1名は俺が倒した。
「ジェリーたちは!?」
「ああ、無事救出した」
後方の入り口から登って来る敵を倒す。
「あの時、俺は咄嗟に逃げてしまった。俺のミスだ。だからここだけは強い意志を持って逃げないと誓った」
直ぐ真下に来た敵が銃を構えたので、それを倒した。
「馬鹿野郎! 頭や感情に任せるな! 逃げるタイミングは全て経験だ。お前はまだ浅い。だから部隊には経験の豊富な軍曹が必ず付いている」
「軍曹に習えと? 士官の俺が?」
「経験を積むまでは仕方が無いだろう。意地を張っている場合じゃない。部隊全員の命が掛かっている」
また後ろの入り口から1人と後部ハッチから2人が中に入って来た。
「軍曹! もう、ここは危ない。回り込んで来る奴ら迄現れた!」
ジムが珍しく緊迫した叫び声を上げた。
「さあ、行くぞ!」
「それは命令か!?」
「そうだ。新米士官に対する軍曹からの命令だ。従うかどうかは君の勝手だがな」
「分かった。素直に従うよ」
「リモコンは?」
「右のポケット」
「その手では、難しいだろう」
「その手?」
少尉は、そのとき初めて自分が負傷していることに気が付いた。
俺はポケットからリモコンを取り出して自分のポケットに突っ込んだ。
「ジム! 今から出る!」
「OK!」
少尉を肩に担いで、入って来た入り口からジャンプして外に出るとき、背中越しに多数の敵が後部ハッチから機内へなだれこんでくるのが見えた。
もう一瞬遅ければ、あの渦に呑み込まれていただろう。
少尉をジムに預け、俺は後ろの様子を見ながら走った。
そして大方の敵が輸送機に乗り込んだのを確認して、リモコンのスイッチを押した。
爆破装置じゃない。
ただ天井に吊るした砲弾のワイヤーを外すだけの簡単なもの。
外れた砲弾の落ちる先には、まだ充分燃料の残っているヤクトシェリダンがいて、そこに落ちて炸裂した砲弾が火のついたガソリンを機内の隅々へとばら撒く。
“ドンッ”
一瞬の爆発音。
殆どの敵は爆風で死ぬ。
そして残ったものは火に呑まれる。
何名かの敵が、火だるまになって、輸送機から零れ落ちるように地面に落下していた。




