【さようなら蒼い空①】
前線基地へ帰ると、国軍と傭兵部隊が通路を二列に挟み並んでいて、その中央をハンスの運転する車に乗って悠々と通った。
まるで国賓待遇。
“捧げ筒”の状態で不動の姿勢を取っているパトロール部隊員とは対照的に、女性兵士などはまるで街頭に見物に来た人たちのようにキャーキャー騒ぎながら手を振って出迎えてくれた。
司令部前で車を降りると、前線基地司令官のミラー少佐が出迎えてくれた。
「やあナトー二等軍曹。よくやってくれた」
「有難うございます」
握手を求められ、敬礼をした後にそれを受けると、周りに集まった兵士たちが盛大にクラッカーを鳴らす。
まるでクリスマスみたいに。
夕食はみんなで集まって、いつもの質素なものではなくステーキや子豚の丸焼き、チキンを出されたが、俺はステーキとポークには手を付けずにチキンだけを食べた。
「ぃようナトー! 改宗か?」
俺がチキンしか食べていない事に気が付いたトーニが、そう言って揶揄ってきた。
「つい習慣でね」
そう答えたが、実際はバラク亡くなったこの日だけは戒律を守りたかったから。
食事中にブラームがきてバラクの事を聞いてきたので、亡くなった事だけを伝えた。
「すまない。俺がもっと注意していれば死なさずにすんだのに……」
落ち込んでいるブラームを見て、好い奴だと思った。
「仕方がないよ。もしも手を縛ったのが俺だったとしても、ナイフになっている付け爪などに気が付きはしなかっただろう。それよりも死んで良かったのかも知れない」
「良かった?」
「ああ。これから先、ザリバンのリビア方面軍司令官として捕虜になったバラクには非人道的な尋問や、人格を無視したような言葉が投げつけられるはず。そして、その全てが終わったあとは長い牢獄での生活が待っている。それが避けられただけでも俺は良かったのではないかと思う」
正直、そう思った。
復讐への執着心の消えたバラクに残ったものは、元々の優しい心。
決して、そのような試練に耐えられるような人でもなさそうだし、そのような試練を味わせてはならないとさえ思った。
もしもバラクがまだ生きていたとしたら、俺は部隊を抜け出してバラクを救出しに行くことになっただろう……。
「さてと、腹もいっぱいになった事だし。今夜は飲んで寝るか!」
トーニが、高らかに言って皆を笑わせた。
「馬鹿野郎! 俺たちはこれから夜のパトロールだ!」
モンタナが、その声よりも大きく応えた。
「だって、俺は昼間も街に行った」
「プライベートな事など知らん。Šahrzād作戦の終了が正式に通達されるまで、俺たちLéMATの任務は終わらない。DGSEに出向中のナトー以外は全員準備に掛かれ。出発は21時だ!」
今度はハンスが皆に言った。
「いや、俺も行く」
「ナトー。無理をするな」
「行かせてくれ。見ておきたいんだ」
「……じゃあ俺の車に乗れ。今夜は俺が運転してやる」
「すまない」
令式1号車にはモンタナ、トーニ、ハバロフ、ミヤン。
2号車には、ニルス、フランソワ、ジェイソン、ボッシュ。
「あれ、俺たちは?」
「だから、俺の車だと言っただろう」
そう言ってブラームと一緒に、ここまで乗ってきた白いバンに向かう。
「買ったの?」
「まさか。将校は公式な場に赴くこともある。そして、その中には軍用車両が不釣り合いな場合も有るから、そのときはこれを使う。もっとも俺個人の物ではないがな」
ハンスはそう言って車に乗り込むと、時計を確認した。
21:00
1号車の横に立っていたモンタナが、出発の号令を上げる。




