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【2年前、リビア“Šahrzād作戦”55】


 ニルスからそろそろ時間だと連絡が入ったので、ブラームが先導して屋上に通じるエレベーターに乗った。

 レイラには申し訳なかったが、あらかじめ車が迎えに来ると伝えておいたので、殆どの敵は下に降りていて何の障害もなく屋上に上がることが出来た。

 真正面には丁度ヘリコプターが着陸して、エージェントが2名降りてくるところだった。

 手には用心のためベレッタM92Fを構えている。

「DGSEのエマ大尉だ! ザリバンリビア方面軍司令官のバラク・アサールと、副司令官のレイラ・ハムダンの2名を確保したので、今から連れて行く」

 エマが声を掛けて前に進む。

 その後に俺がバラクを連れて、ブラームがレイラを連れて続いた。

 ブラームはエージェントにレイラを渡して「じゃあな!」と言って戻って行った。

「ああ、ありがとう。また部隊で会おう」

 ブラームが引き返して行くのを見送って、バラクに話し掛けた。

「後悔はしていないか?」

 バラクに聞いた。

「後悔はしていない。むしろ昔の俺になら後悔はするけれど、今は清々しい気持ちだ。ナトーありがとう。君のおかげだ」

「これからキツイ取り調べが待っているぞ」

「かまわないさ。人を殺さない生活に戻れるなら、それもまた我慢する」

「立派だな。さすがハイファ……」

 そのとき俺たちを抜いて前に回ったレイラが縄を解き、エージェントの持っていた銃を取るのが見えた。

「裏切者!」

 その声と同時にパンと言う銃声が響いき、バラクが重く俺の肩に崩れて来た。

 レイラは次に拳銃を肩に上げ自分のこめかみを撃とうとしたが、一瞬早くエマのキックが、その拳銃を高く蹴り上げて再び拘束された。

「一体何が」

 戻ったはずのブラームも、慌てて引き返してきた。

「すまない。でも、どうして?」

 エマは項垂れているレイラの手を取って「付け爪よ。この付け爪の一つがナイフになっていたの」

 と、それを剥ぎ取った。

「バラク大丈夫か!?」

 止めどなく流れる血が、ヘリポートの床を赤く染めていた。

「僕は大丈夫だ」

 腹を撃たれていて大丈夫なわけがない。

「行先変更! 直ぐ近くの病院へ飛んで頂戴!」

 血の流れるバラクを乗せて、慌てるようにヘリは離陸した。

 弾は腹から背中にかけて貫通していて、その両方から止めどなく血が流れている。

 俺は必死にその栓を塞ぐように手を押し付けているが、止まらない。

 席の向かい側ではレイラが泣いていた。

「なあ、ナトー。僕がどうして心変わりしたか分かるかい」

「バラク。いまは喋っちゃ駄目!」

「答えはこの碧い海さ。ほら僕たちの居た所には砂漠しかなくて、海が無かっただろ。ここへ来て、この碧い地中海を見て思ったんだ。どんなに空が青くても、それを映す鏡が汚れていてはこの海は碧く映らない事を。それで僕自身の心が汚れている事が分かった。姉さんを殺されて、復讐のために人を沢山殺した。でも、そうやって殺された人たちの家族は、どうだろうって。殺された家族もまた復讐のために人を殺したとしたら、復讐の連鎖は止まらない。だから誰かがどこかで、勇気をもって止めなくちゃならないんだ」

 バラクの手が、俺の髪を撫でる。

「ハイファ姉さん、もう夜だよ。地中海がもうこんなに暗い」

 貧血と記憶の混乱。

「寒くなって来たね。姉さん僕のことを確り抱いて……寒いよ。姉さん、こんなに寒い冬は初めてだ」

 もう血を止めるのは諦めてバラクを強く抱いた。

「ナトーと合ったよ。ナトーは姉さんに似て綺麗で優しい子に育っていて僕の事を助けてくれたんだ。お腹の居たくなった僕をひょいと持ち上げて車に乗せてくれたよ」

“ああバラク、死なないで”

 俺はバラクの顔を抱き何度も頭を摩って、そう願った。

「ねぇ……姉さん。僕、死んだら地獄に落ちるの? そうだよね、沢山人を殺してしまったから……」

「いいえ、おまえは沢山人を殺したかもしれないけれど、最後には沢山の人を救ったから神様も屹度許してくれるはずよ」

「ほんとうに?!」

「そうよ。神様は過ちは許して下さるの。そして良い行いは覚えてくれるのよ」

「姉さんいろいろ有難う。もう外は真っ暗だ。僕はもう眠たい。でも明日起きたら4人で海を見に行こうよ。ヤザとナトーと僕たちで。海は綺麗だよ。そしてヤザに教えてあげるんだ。何で海が綺麗に見えるのか」

 俺の肩に乗せられた手が力なく垂れ下がる。

「うみはね……うみは、あお・い・・そ・ら・を・・・う・つ・・・す」

 バラクの首がグッタリと俺の肩に沈んだ。

「バラク!バラク―!!!!」

 キラキラと輝く碧い海の向こうにバラクは旅立っていった。

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