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【現在、ザリバン高原地帯18時40分】


 若いオオカミは俺に寄り添うように目を瞑っていた。

「寝ているのか?」

 そう小さく呟くと、耳だけがピクンと動いた。

 口の周りにある白い毛の一部分が赤い。

 屹度、死んだ敵兵の肉でも食って腹がいっぱいになったのだろう。

 そう思うと、あらためて沢山の敵を殺してしまった罪悪感と、その死が無駄ではなかったのではと思う気持ちが芽生えて来た。

 戦わなければ殺されていたから仕方がないといっても、我々を守るために我々の人数を優に上回る敵兵を殺してしまった。

 だけどその屍はこのオオカミの餌になっただけでなく、多くの鳥や虫たち、そして木々や草花の栄養になるだろう。

 これが自然。

 自然界に於いて人間だけがお互いを殺し合う。

 しかも意味もなく大量に。

 俺たちも敵たちも、お互いが何のために殺し合わなくてはならないか真剣に考えてはいない。

 敵が撃って来ると思うから、撃たれる前に撃つ。

 自分が殺されるという前提で、殺される前に敵を殺す。

 ただ、それだけ。

 正当な理由もなければ、個人的な恨みもない。

 オオカミの横顔を見つめていた。

 こしていると大きな犬のようにも見えて可愛い。

 平和な暮らしが出来るようになったら、犬を飼おうと思った。

 このオオカミのように、逞しい犬を。

 そんな日は俺に訪れるのだろうか?

 誰かと結婚して赤ちゃんを産み、その子と一緒に公園で犬と遊ぶ。

 全てが現実離れした夢にしか思えない。

 俺は屹度、俺自身が敵に殺されるまで、敵を殺し続けるに違いない。

 幸せな家庭など、永遠に築くことは無い。

 眺めている俺の頬をオオカミがペロリと舐めた。

 そして目を開けて俺を見て、笑うように口を開けた。

“可笑しいのか?”

 いつのまにか自然にオオカミを撫でていた。

 オオカミは気持ちいいのか、撫でられるまま薄目を開けておとなしくしていた。

 今、この場所で突然幸せが訪れたなら、俺は屹度君と過ごす事だろうと思った。

 突然オオカミが耳を正面に動かせて立ち上がった。

“ジムたちが戻って来たのか?”

 赤外線スコープを覗くと、ジェリー伍長を肩に担いでガレ場を降りてくるジムと、その周囲を警戒しているゴードンが見えた。

 迎えに行く時間。

 だが、オオカミは俺が動くことを許してくれるだろうか?

 立ち上がった途端にガブリと、やられるのは叶わない。

 そう思って再びオオカミの居たほうを振り向くと、もうそこにオオカミは居なかった。

 音もたてずにオオカミは去った。

 いや、ひょっとしたらオオカミなど最初から居なかったのかも知れない。

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