【2年前、リビア“Šahrzād作戦”53】
車の止まっていた道路を渡り、ホテル前の公園に入った。
ジョギングをする人や、犬の散歩をする人、ベンチに腰掛けて本を読んだり友達とお喋りをしている人たち。
その中に、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
レイラだ。
彼女はベンチに腰掛けて、ノートパソコンを見ながら携帯で誰かと話をしているようだった。
丁度、通話が途切れたので、声を掛けてみた。
「レイラ!こんな所で何しているの?」
「あら!? アマル。どうしたの? エマは?」
レイラは見ていたノートパソコンを閉じて、逆に聞いて来た。
「今日はエマとは別行動だよ」
俺が明るく答えると、レイラの視線が白いカンドゥーラで覆われたブラームにクギ付けになっている。
無理もない。
カンドゥーラ自体リビアではあまり目にしないのに、ブラームの姿と言えば覆面のように顔を隠してその上からゴーグルのようなサングラスを掛けていて、手と足には白い手袋と白い靴下で全く誰なのかも分からないのだから。
「誰!?」
「あー、この人はチョットした知り合いなの。訳があって今は素性を明かせられないけれど、悪い人ではないよ。それより何してんの?」
レイラはカンドゥーラの男を気にしながらも(これほどまでに全身を隠している男を、気にしない方が不自然なのだが)無理に平静を装うように仕事だと言った。
「仕事? こんな公園で?」
「ううん、違うの。本当はホテルのセキュリティーシステムに不具合が起きているみたいで、その対応をするために向かっていたのだけど他にも不具合が見つかって、いま他のスタッフとその対応について話し合っていた所なの」
そう言えばレイラの仕事はIT関係だと言っていた。
そしてニルスからは、監視カメラの映像が何者かによってハッキングされている事も。
ふたつを組み合わせれば、レイラの言っていることは正しいが、他にも不具合が発生したと言うのは何なのだろう?
まあ、コンピューターの事は左程詳しくないので俺には分からないけど「大変だね」とだけ言っておいた。
「アマル、これからどこへ行くの?」
「このホテルだけど」
「だったら一緒に行きましょ。サーバールームを見る前に、私はチョッと屋上にある通信アンテナを見なくちゃならないから直ぐに別々になると思うけれど」
「あら、俺たちも一緒だよ」
「えっ!?」
「こう見えてもこの白いカンドゥーラの人はお金持ちで、迎えの車が正面玄関に来てくれまで最上階のスウィートルームで、のんびり過ごすんだ」
「アマルも一緒に行くの?」
「そうさ。だからこうして一緒にいるのさ」
「だったら途中まで一緒だね。残念ながらアンテナが有るのは本館側の屋上だから、スウィートルームある新館とは途中で別れるけれど」
そう言うとレイラは、これからホテルに入る事を会社に連絡すると言って、携帯を持って少し離れた。
そして俺たちはホテルの正面入り口から堂々と入って行った。




