【2年前、リビア“Šahrzād作戦”52】
ニルスからは出発前に、携帯を直ぐに聞けるようにしておくようにと言われたので、あまり気は進まなかったがイヤフォンを付けて出発した。
ひとつ目の角を曲がろうとしたときニルスから連絡が入った。
「ナトー聞こえる? 今君のいる路地を真直ぐ住むとT字路になるから、そこを右に回ると、その先に拳銃を持った2人がいる。そして左に曲がると一旦通りに出るけれど、その道の向こう側に停まっている黒いセダンにAK47を持った奴が2人居る」
「なるほど。水先案内人ってわけだ」
「どう?有難いでしょ」
「たしかに」
「当然ここは、右に曲がって拳銃の2人をやっつけてから行くよね」
「いいや、迂回して左に回り込む」
「迂回するって――おいおい、そっちは方向が違うよ。もしもし!ナトー、聞いている?」
俺は通話を切った。
どうせ、どこかで必ず敵に見つかってしまうはず。
そのときに、この自動小銃を持つ奴らも必ず応援にやって来る。
ホテル内で、強力な火器をぶっ放されたら堪ったものじゃないし、ヘリで脱出する時にもその威力と射程は脅威になる。
一旦来た道まで戻ると、ついさっきまで居た所にはエマとバラクの姿はもうなかった。
こっちの方も、屹度ニルスが敵にも見えているはずの監視カメラには映らないように、安全に誘導してくれているはず。
俺たちは遠回りして大通りを越え、黒いセダンに近寄った。
ニルスの言った通り、2人の男が通りの向こう側に建つ白いホテルを見ていた。
膝の上に隠し持っているのは、AK47。
俺たちが迂回して、後ろから近づいて来ていることには気が付いていない。
そっと近寄ってドアノブに手を掛けるとロックが掛かっていなかった。
ブラームに目で合図して、片手をルーフに掛けてもう一方の手でドアノブを持った。
“1、2、3!”
2人で一気にドアを開けルーフに掛けた手で上半身を支えるようにして伸びあがり、ちょうど鉄棒で逆上がりをするような体制で、そのまま思いっきり足から車内に突入した。
強く蹴り出された足が驚いて振り向いた男の顎を捉え、そのまま窓ガラスにぶつかる。
持っていたAK47は、向きを変えることも出来ずに床に転げ落ちた。
もっとも、この狭い車内で迅速に小銃の向きを変える事自体困難だから、無理もない。
目立つのを恐れたとはいえ、車内の見張り員に自動小銃を持たせたのは、不意打ちを想定していなかった敵のミスだろう。
敵のAK47のレバーをセーフティーの位置にして、その隙間にナイフを刺しこみ一気に折った。
これで撃とうと思っても、ペンチでもない限り、レバーを切り替えることはできないから撃つことはできないが、用心のためマガジンは抜いてゴミ箱に捨てておいた。




