【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㊿】
「チョッと待った! 俺は死んでも良いのかよ!?」
いきなりトーニが俺の手を掴んで叫んだ。
「なんだ。生きていたのか」
「なんだ、生きていたとは何なんだ? 死んでいたら、どうするつもりだった? やっぱり置いて行くつもりだったのか??」
「だって、血の匂いもしない死体なんて珍しいなぁと思ってはいたんだ」
「血の匂いもしないって、ぶつかった衝撃で、ぽっくり首の骨を折るやつだって居るだろう?」
「えっ? LéMATに、そんな軟な隊員っていたっけ?」
そう言って振り向くと、モンタナは苦笑いを浮かべて「この程度の衝撃で首がおかしくなるようなら、基礎訓練のやり直しだな」と言って、まだブツブツ文句を言っているトーニの首を叩いた。
叩かれたトーニは「いや平気。言ってみただけっていうか、構ってもらいたかっただけです」と、怯える振りをして笑わせた。
「さあ、グズグズしていられないぞ! これからあとは、エマ大尉とナトーに任せる。俺たちは、あまり表立って行動する訳にはいかないから、ここまでだ。あとはDGSEに雇われたニルスとブラームに任せるから、はやくバラクを連れて、そこへ行け!」
「了解! さあエマ。バラクを連れて行くよ!」
口では元気に言ったものの、ハンスとここで別れてしまうのは正直寂しい。
ホテルまで一緒に着いて来てくれると思っていた。
しかしプライベートとはいえバラクの引き渡しには大使館や国軍も立ち会うだろうから、そこで部隊がザリバンの攻撃を受けていたとなると、後々厄介なことになるのは目に見えている。
軍事力を使わずに物事を解決するということは、もしかしたら軍事力を使うよりも難しい事なのかも知れない。
エマとバラクを連れて車を降りる。
後ろを振り返ると、もうハンス達の影は見えなくて、その代りに1台の車が猛スピードで近づいて来ていた。
“少し話をし過ぎたか……”
前を向いて、逃げ道を探すが、良さそうな逃げ場が見つからない。
正面から野太い排気音が聞こえ、反射的にそれを見た。
音の正体はハーレーダビッドソン。
そして、それに乗る金髪にサングラスを掛けた革ジャンの大きな男。
まるで映画の『ターミネー〇―』に出てくるシュワちゃん。
そして男が肩にかけたショットガンを手に持ちブッ放すと、追ってきた車は避けるように俺たちの乗ってきたワンBOXの後ろにぶつかって止まった。
通りを向こうに過ぎて行くハーレーのライダー。
その後姿の手が肩まで上がり、親指を立てていた。
“フランソワ。ナカナカやるな……”




