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【現在、ザリバン高原地帯18時00分】


 あたりも暗くなりかけて来た。

 特に、この谷は山の影になり薄暗い。

 まだ敵があの山の稜線に居るとしたら目に入る明るさの違いで、この谷は俺たちが感じる以上に暗く見えるはずだから、俺たちを発見するのは困難だろう。

 それよりも問題なのは茂みに潜んでいるジェリー伍長たちだ。

 彼らは確実に俺たちの足音に気が付くはず。

 間違えて撃たれでもしたら堪らないし、それが稜線に潜む敵に察知されると、担架を担いで悠々と谷を下るなんてことは難しくなる。

「ジム、歌は歌えるか?」

「歌は好きですが、なにか?」

「歌ってくれ」

 ジムは驚いた顔を見せた。

 それは当然のこと。

 もし敵が潜んでいた場合、その歌声は敵に俺たちが来たことを知らせることになる。

 だが、その逆も考えられる。

 歌に何も反応がないという事は、敵が居ないということ。

 もしも敵に気が付かれず上手くジェリー伍長たちも発砲してこなかったとして、トムを担架に乗せて運んでいる最中に潜んでいる敵意見つかった場合、俺たちは何もできない状態から敵の先制攻撃を先ず受けてしまう。

 危険は伴うが、いま手ぶらなうちなら、直ぐに反撃は出来る。

「俺は歌が苦手だから代わりに歌ってくれ。ただし今まで以上に周囲の警戒を怠るな」

 ジムは少し考えて、それが茂みに潜むジェリーとトムへの迎えに来た合図だと悟り、小さな声で『聖者の行進』を歌い始めた。

 体に似合わずナカナカ歌が上手い。

 だがジムには申し訳ないが、その歌を聞いている余裕なんてない。

 音のするものなら蝶の羽の音、動くものなら蟻でさえ見逃さないように辺りを警戒して進む。

 もう少しで茂みと言うところで、何かの音に気が付いてジムの歌を止めさせて耳を澄ますと、微かに聞こえて来たのは『アメージンググレイス』

 屹度この歌はジェリー伍長だ。

 そう思ったが、警戒を解かないで茂みに進む。

 そーっと茂みに近付くと、やはり警戒して銃を構えていたジェリー伍長が居た。

「救出に来た。怪我は?」

「トムは骨盤と胸をやられていて動けない。俺は足首を捻挫しているが何とか歩けないことは無い」

「みせてみろ」

 ブーツを脱がして足首を見る。

 内出血で腫れた足首をそっと動かすと、ポキポキと引っ掛かりのある音がした。

 捻挫ではない。

 恐らく崖から落ちたトムを助けるために飛び降りた際に、その衝撃で複雑骨折をしている。

 無理に歩かせると、神経をやられて後遺症が残るレベルだ。

「いいか、良く聞け。担架を持ってきているから、先ずはトムを連れて行く。その間お前はここに残れ。トムを運び終わったらまた戻って来る」

「いや、歩けるから一緒に行く。またここへ戻って来るのは、今回のように安全ではない可能性がある」

「駄目だ。君の足は折れている。無理に歩けば国に帰ったあとに、後遺症が残る可能性がある」

「しかし……」

「戦場で戦う事が君の人生の全てではないだろう。一時の気持ちに惑わされず、自分のこれから先の人生をよく考えろ」

「でも……」

「俺たちは、今、一瞬の君たちを助けに来たのではない。君たちのこれからを助けるために来たんだ」

 ジェリーは渋々「分かりました」と言った。

 トムを担架に乗せて持ち上げた。

「直ぐに迎えに来る。もしも敵が崖から降りて接近して来ても銃はなるべく使うな。銃口から出る火花で場所がバレる」

「では。どうやって……」

「なるべく横方向の遠くに、手榴弾を投げろ。手榴弾ならこの暗さでは、そうそう場所も特定できないし、敵は先ず手榴弾の爆発地点近辺を探すはずだ」

「分かりました」

「また迎えに来る」

 最後にもう一度そう言って、ジムと担架を持ち上げた。

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