【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㊼】
「ナトー。君たちは、いったい……」
猿ぐつわを解くなり、バラクが言った。
DGSEは高度な情報収集のプロ集団だが、その多くは非軍事化されていて戦闘のプロ集団ではないから、今の俺たちの戦いぶりを見て不思議に思うのも無理はない。
「俺たちはフランスの傭兵特殊部隊LéMATだ」
「軍人なのか」
「まあ軍人だが、心配は要らない。今日は非番で、遊びに来て事件に巻き込まれているだけだ。そうだろ?」
そう言ってハンスを見ると「俺は、夜から勤務だがな」と笑って言った。
軍人として動くには、先ず命令書が要るし、報告書を上げる義務もある。
ここでバラクを救出するために戦ったとなると国を巻き込んでの戦闘となるので、徹底的に戦う必要がある。
そうなるとザリバン対フランス軍に留まらず、駐留しているアメリカ軍や政府軍も巻き込み、もちろん報道関係も動くことになりザリバンも引くに引けない形になる。
劣勢に立たされたザリバンは各地から応援を呼び寄せて、街は戦場になる。
無理に追い込めば、中東で頻繁に行われた自爆テロも仕掛けてくるだろう。
そうならないために、敵を追い込まずに、ただの騒動に押さえておきたい。
幸い武器庫は2つとも潰すことが出来たから、弱体化されたザリバンも、この地から自然消滅的に撤退してくれる可能性も高いだろう。
だが、その前に立ちはだかるのが強硬派の奴等――噂をすれば、なんとやら。
正面から、今度は拳銃を持った奴らが3人こっちに向かって走って来る。
「この角を曲がろう!」
いくら格闘には自信があったとしても、銃には敵わないので道を変えて逃げることにした。
GPS機能付きの腕時計をしているから、逃げていてもエマの方で探して迎えに来てくれるはず。
しかし、ここはまだアジトの近く。
曲がった先にも、今度はAK47を持った敵が2人居た。
距離が離れているので、戦えない。
こんな所で乱射されたら、たまったものじゃない。
慌てて民家の脇の細い道に飛び込む。
“もしも、この先が行き止まりだったとしたら、民家の窓を壊して中に入るしかない”
悪い予感と言うものは、よく当たるものだ。
入った道の先を左に曲がった先が行き止まりになっていた。
横には窓ガラスがある。
壊して中に入るか?
一瞬息を潜めて考えていると、家の中から赤ちゃんの泣く声が聞こえてきて、直ぐに母親らしき優しくあやす声も……。
この家に入るという事は、この家庭を巻き込むことになる。
“狭い壁伝いに屋根に上るか?”
しかし時間的には壁に昇っている最中に、敵がここまで辿り着く可能性の方が高い。
“どうする?”
人ひとり通れるのが、やっとの狭い通路。
敵だって一人ずつしか来られない。
俺は二人を奥にして、壁際にしゃがんでを待つことにした。
突き出された銃を下から持ち上げるようにして奪う。
殺すことになるだろうが、仕方がない。
敵の近づいて来る足音に耳を澄ます。
タイミングを少しでも間違えば、俺たちに与えられた時間は止まる。
……しかし、一向に敵の足音は聞こえてこない。
この路地に入ったのは見えていたはず。
“おかしい”
バッグからコンパクトを取り出して、角の先を映してみた。
敵は居ない。
ハンスに残るように合図して、そーっと様子を見に行くことにした。
相手の足音、いや呼吸をも聞き逃さないように、ゆっくりと歩く。
もしかしたら俺たちが出てくるのを待ち構えているのかも知れないから、時間が掛かっても、ここは慎重に行く。
通りの角まで来た。
さあ、ここから、どうする……。
右に居るか、左に居るのか、それともその両方なのか?
敵が来た位置のままだとした場合、右には拳銃を持った3人、そして左にはAK47を持った2人。
近接戦闘の場合AK47を持ったほうは銃が重くて大きい分、取り回しが遅いし、銃口を掴みやすい。
だが、拳銃の場合はゼロ距離でも素早く発砲できるメリットがある。
拳銃を持った相手が1人なら迷わず右の拳銃を持った奴を狙い、それを奪って戦えるが、3人居たのでは運よく2人を倒したところで3人目そしくはAK47の銃弾を喰らうことになる。
待ち構えているとしたら敵は壁際に横に並んでいるはず。
左に飛び込んで、1人目は無視して2人目のAK47を狙おう。
そして、その銃を奪い連射できれば、なんとか切り抜けられる。
拳銃の種類にもよるが、2人を盾として使えば運が良ければ被弾を避けられるかも知れない。
あとは運に任せて、低い姿勢から通りに飛び出した。




