【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㊻】
混乱に乗じて上手くアジトを抜け出すことに成功したが、これから先、無事にニルスとブラームに合流することが出来るか……。
バラクとは反対の強硬派は倉庫の爆発現場の方に行って留守だったのだろうけれど、屹度この爆発を知り慌てて戻って来るだろう。
問題は、それだけではない。
アジトの方からも、俺たちを追ってくる者もいるだろうということ。
まんまと逃げ出すところまでは上手く行ったが、下手をすると武器を持たない俺たちは挟み撃ちに合う可能性がある。
何本か通りを過ぎた頃、直ぐに敵はやって来た。
恐らくこの近辺に屯していた連中だろう、人数は10人、武器はナイフだけ。
「縄を解いてくれ。俺も戦う」
「うるさい!黙れ!」
10人と言う多い人数を見て一緒に戦ってくれると言ってくれたのは有難いが、仲間を裏切ったことになるとマズいので、汚い言葉を投げつけて再び猿ぐつわをした。
ナイフを持っていると言っても、俺とハンスなら大丈夫だ。
「すまない。少しの間、気絶した振りをしていてくれ」
そう言ってバラクの腹を軽く殴った。
直ぐにバラクは倒れてくれて、これで気兼ねなく二人で戦える。
「さあ、やろうか!」
「楽しそうだな」
俺の言葉にハンスがニヤッと笑って言った。
「そっちこそ」
俺もニッコリ笑い返す。
実際に心が躍るような気持ち。
訓練以外でハンスと一緒に戦うのは初めてだった。
「どっちが多く倒すか勝負をしない?」
「いいよ。俺の勝ちは揺るぎないけれどね」
「あとで負け惜しみを言っても知らないから」
「その言葉は、そっくり返すよ」
最初の敵がナイフを突きつけて来たので、手首を取り、肘を中心に回転させて倒したところに膝を落して、その反動で直ぐに立ち上がる。
「ハイ1人!」
ハンスの方は低い姿勢で肩越しにナイフをやり過ごした状態から、体の向きを変えて豪快に投げ捨てた。
「俺の方が芸術点は高そうだな」
「だったら、これはどう?」
次の敵が付き出してきたナイフを持つ手首を内回し蹴りで外に捌き、その足を降ろすと同時に体を後ろ向きに反転させて、反動を付けた横回し蹴りで相手の延髄を蹴って倒した。
「ナカナカ良いね。でも、そんな技を使っていると格闘ゲームマニアから追いかけられるぞ」
そう言いながら、相手の懐に潜り込んで溝落ちに肘を打ち込んで、そのまま起き上がって大きく敵を投げた。
「あっ、それ初めて対戦した時の技に似ているね」
「お前の場合は、俺の顎に頭突きを当てようなどと大それたことを考えやがったから、もっと高く飛ばしてやったがな」
「大それたことなんて、酷いな」
「当たり前だ、あの時まともに頭突きを喰らっていたら、俺の顎は粉々に砕けちまっている。酷いのは、そっちの方だ」
話しながら、お互いが横から回り込んできた敵の腕を取り、大きく回してお互いに投げつけた。
ハンスから投げられて来た敵を俺は蹴りで、そしてハンスは投げで倒し、俺は蹴りの反動を利用してもう一人の敵に後ろ回し蹴りを当てて倒した。
「ほら、こっちはもう4人だぞ」
そう言ってハンスの方を見ると、投げた態勢から前転して相手に近付いて。起き上がりざまにアッパーをお見舞いして4人目を倒したところだった。
「こっちもだ」
残ったのは2人。
この残った二人の敵を独り占めにするのは難しい。
お互いに、そう思ったのか、ハンスと目が合った。
2人の敵は既に怯えている。
当然、もう戦ってはこないだろう。
俺とハンスが同時に飛び込むように一歩足を出すと、案の定2人は逃げ出した。
俺は2人の後ろ姿に向かって叫ぶ。
「ナイフを捨てないと、追いかけるぞ!」って。
逃げ出した2人共、俺の声を聞くなり持っていたナイフを道に投げ捨てて慌てて向こうに消えて行った。




