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【現在、ザリバン高原地帯17時50分】


 時間が遅くなれば、それだけ敵の戻って来る確率は高くなる。

 ジムは残せない。

 彼の体力なら、担架を担ぎながらでもジェリー伍長に肩を貸す事くらい出来るだろう。

 あとはゴードンと俺の、どちらが残るか……。

 俺は、こういった任務には慣れている。

 だが救助に行った先でも状況によっては高度な判断が必要となり、それを誤ると命取りにも成り兼ねない。だからゴードンに残ってもらうことにした。

「いいか、ここでの任務は見張りではないし、拠点の確保でもない。一番重要なことは敵の発見だが、それは哨戒でも偵察でもない」

「じゃあ、どうすればいい?」

「じっと耳を澄ませて、敵の気配を探れ。そして出来るだけ発砲は避けて、それを俺たちに知らせろ」

「でも、敵が一人なら撃ってもいいか?」

「駄目だ、その後に続いて来る者が居る可能性もある。この人数では、戦わずにやり過ごせたら、その方が良い」

「では、どうやって軍曹たちに知らせる?」

「敵に見つからずに、こっちに来い」

「それだけ?」

「ああ、それだけだ。だが決して油断せず判断を誤るな。もし敵が一人で、それが負傷兵だとしても自分が見つからない限りは発砲するな。そして拠点を離れるか残るかのタイミングも間違うな。早く拠点を離れてしまうと、それ以降は情報量が少なくなるし、遅くなると敵に気付かれる。くれぐれも注意しておくが、暗視スコープに頼るな。視力は聴力を奪う」

「分かりました」

 ゴードンも任務の重要性が分かったらしく、いつもの“了解”と言う返事ではなかった。

 三人で、もしも森に敵が進出してきた場合、拠点になる場所を確認した。

 そして、そこにリュックを置いた。

「では行く!」

 ジムの先導でガレ場を進む。

「敵が居ませんから、途中まではお散歩みたいなものです」

 緊張を和らげるつもりで、そう言ってくれたのは有難いが、それは違う。

 戦場に於いて、同じ道など存在しない。

 たとえ、まるっきり同じ道を歩いたとしても、ほんの数分違うだけで敵の居場所も変わるし、さっき行ったときは運よく地雷やトラップに掛からなかっただけなのかも知れない。

 ジャングルや森の中では、ゴリラやオオカミなどの獣に出くわすこともあるだろう。

 ここはではないが、イノシシや熊が居ないとも限らない。

 だが今はそれをジムに伝るのはよそう。

 人間と言うものは、それ程緊張状態を長く続けることはできない。

 緊張と緩和を繰り返さないと、次第に注意力が散漫になって行く。

 もちろん俺も同じ。

 ただ、生まれて直ぐ、戦争の真っただ中で銃を持って暮らしてきた事が、普通の人間より緊張状態に慣れているというだけ。

 他の人間は十代後半までは親や兄弟、それに友達に囲まれて殆ど命を晒すような緊張など味わっていないだろう。

 そういった意味で、ジムたちが羨ましく思えた。

 もっとも、言ったジムにしても緊張を解いている訳ではないのは分かっている。

 彼も気を使ってくれているのだ。

「いい道だ、これなら本当に散歩になるかも知れないな」

 俺は、ジムの言葉に明るく同意してみせた。

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