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【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㊺】


 裏口を開けてみると、確かに高い塀があった。

 ハンスの肩を借りて、覗くと傍らにはサビだらけの農業用のトラクターに何人かの兵士がAK47を肩にぶら下げているのが見えた。

 そして目の前には石を積み重ねて作られた古い倉庫、かなり老朽化して所々に穴が開いているが、暗くて中までは見えない。

 外の警備をやっつけてしまったので時間がない。

 怪しまれる前に、問題を片付けなければならない。

 そこで俺は直ぐに食堂に戻りった。

 厨房にあった瓶を開けて、そこに料理用の油を注ぎ布を詰めて入れ即席の火炎瓶を何本か作って再び外に戻り、塀の崩れた穴に向けて投げ入れた。

 ガソリンや灯油、アルコールという燃焼力の強い物が有ればあれ良かったのだが、ここは暖かい北アフリカ。

 それにイスラム教の国なので、調理用のアルコールもない。

 調理用油を詰めたガラス瓶が割れてしまえば、ガソリンを詰めた火炎瓶のように燃え広がることは無く直ぐに火は消える。

 見えない場所に放り込んだ即席の火炎瓶が、上手くカモフラージュ用の綿花に燃え移ってくれるのを祈るのみ。

 武器の上に積んであるのだろうから、確率的に言えばかなり高いはず。

 少し待つと、どうやら綿花に火が付いたようで白い煙がトタンの屋根の隙間から上がり始め、隣の敷地内が騒々しくなりだした。

 長らく放置して乾燥した綿花は直ぐに物凄い勢いで燃え始め、こっちにいた兵士たちも気が付いて騒ぎ出すようになった。

 倒した兵たちをバラクの部屋に集めてから、騒ぎに乗じて館を飛び出した。

 爆発の恐れがあるので皆が慌てて、どうしたら良いのか迷って右往左往している。

 この様子からすると、副官は不在のようだ。

 副官が不在という予想外の展開に、俺はバラクの猿ぐつわを解いて指示を出すように言った。

 屹度、バラクなら人道的立場に基づいて確りとした指示が出せるだろう。

「武器庫に火が付いた!大爆発の危険性があるから、消火は諦めて皆ここから直ぐに離れろ!多国籍軍に捕まってしまうから逃げるとき武器は置いて民間人に成りすませ!そしてこの言葉を皆に伝えろ!」

 バラクの言葉を聞いた兵士たちは、素直に武器を捨てて各々が「武器を捨てて逃げろ」と叫び出した。


「イワン!」

 バラクは逃げ出す兵士の中から一人の男を捕まえた。

 頬に十字の傷のある男。

 その男は、まだ武器は持っていた。

 バラクと初めて会った日、久し振りに出くわしてしまったヤザから逃げるように、裏通りに迷い込んだ俺に絡んできた男の中の一人だ。

 その頬の傷は、俺を助けてくれたヤザが、生き残るための“おまじない”を掛けて刻んだもの。

「俺の居た館に6人縛られている。何人かで連れて行って、助けてやってくれ!」

 十字傷のある男は直ぐにバラクが手を縛られていることに気が付き、その傍らにいる俺たちに鋭い目を向けて銃を構えた。

 仲間を呼ぶために叫ばないという事は、迷っている証拠。

 俺は直ぐに顔を覆っていた布を外して素顔を見せた。

「おっお前は、あの時のヤザの娘!?」

 やはりこの男は、初めて会った時の事を覚えていた。

 俺は、あの日のヤザのように言った「迷ったときは、その傷口を触って何が最良なのか考えろ」

 男は頬の傷を触ると、直ぐに武器を落して行動した。

「おい!そこの5人、俺に付いて来い。館に取り残された仲間がいる!」

 そう言ってイワンと言う男は仲間と6人で館の中に入って行き、直ぐに手を縛られた6人を連れて出て来た。

「さあ!俺たちも」

 そう言って駆けだすと、直ぐに小さな爆発の音が鳴り始めた。

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