【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㊹】
気絶した兵士の服を剥ぎ取って、それを上に羽織った。
「裏口の外にも見張りはいるのか?」
「いると思う」
「ドアの傍か?」
「裏口から外に出たことは無いから分からないが、見通しはいいから、そばに居ないかもしれない」
ハンスと顔を見合わせた。
見通しのいい場所で、近くに居ないとなると難しい。
下手なことをすると銃で撃たれる。
ドアから外に出たときに、向こうから近づいて来てくれればいいけれど、そんな間抜けな奴は居やしない。
このドアの内側を守っていた兵士の事が気になるはずだから味方をすぐに呼ぶか、味方から見える位置まで下がって、その位置まで呼び出されるかのどちらかだ。
幸いここにはキッチンがある。
ここはひとつ厨房を借りることにする。
厨房に走ると、バラクが慌てて「仲間を傷つけるのなら協力はしない!」と言った。
「痛めつけるのはOKで、傷つけるのはNGって面倒ね。でも誰も殺さないから、安心していて!」
屹度私がナイフを取るとでも思ったのだろうけど、厨房にあるようなナイフは手で投げるには軽過ぎて服の上から一瞬で命を奪うことは難しい。
もっとも重いナイフが有ったところで、それを使う気など一切なかったけれど。
大きい炒め物用の鍋を取り出して強火にかけて、中に切り刻んだ野菜をどんどん放り込み、その上から油を少々かけた。
直ぐに油煙が上がり出し、放り込まれた野菜たちから蒸気が噴き出すが、それも直ぐに煙に変わる。
換気扇を回して、その煙を屋外に出して準備は終了。
あとは出来上がりを待つだけ。
直ぐに通路を駆けてくる2人の足音が聞こえ「料理が焦げているぞ!」と慌てて中に入って来た1人目の腕をハンスが掴んでハンマー投げのように振り回して俺の方に飛ばす。
俺は勢いよく飛んできた男の顔面を、持っていたフライパンで殴り倒した。
2人目の男は、勢いよく中に飛び込んでいった仲間につられて、入って来たところをハンスに投げられてOKされた。
火事になったら大変なので、直ぐに火を消し、元栓も閉めた。
「これで裏口から出られるわね。裏口を出た後は、どう行けばいい?」
「裏口の向こうには塀がある。塀の向こうには倉庫があって、そこにも警備の人間が何人も居る。塀を越えない場合は、どこをどう行っても正面の道に出てしまう」
「倉庫には何が置いてある?」
「武器と燃料だ。ただし見つからないようにカモフラージュはしてある」
「なにで?」
「綿花だ。もともと、こっちに建物は縫製工場だったからな」
「なるほど……」
俺は笑顔を向け「もう一つ協力してもらうわよ」言い終わるとハンスがバラクの手を取り、後ろで縛った。
「何をする。協力すると言ったじゃないか!」
少し驚いた様子でバラクが俺を見た。
俺は真剣な瞳を見せて言った「これは、貴方の安全と、この作戦のため」といって自分の首に巻いていた青いスカーフを猿ぐつわの代わりに巻き、その口を封じ見えないように布を巻いた。
もしも失敗した時にバラクが裏切ったと言う事になれば、バラクの命は勿論のことだけど、それを拘束していた反バラク派にとっては脱走の汚名さえ消えて一気にバラク派の力を弱めることも出来る。
だがこうしてバラクが拘束されて捕獲されたとなると、監禁していた反バラク派の失態と言うことになるだろう。
その場合、責任を追及された反バラク派の力は弱まり、逆にバラク派の力は盛り上がる。
つまり、ほんの少しロープを結ぶことで、俺たちの作戦が失敗した場合の保険になるってことだ。




