【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㊸】
「僕たちを?」
「そう。あなたを助けることにより、あなたの同士も助けられる」
「それは、いったい……」
「協力してもらわなければ私たち3人は死ぬことになるでしょう。とにかく、あなたを連れてここから脱出します。裏口は?」
「裏口はこの通路を右に曲がった奥の食堂にあるが、そこにも衛兵はいるぞ。しかも、広いから不意打ちなんて出来ない。僕が囮になるからナトー、君たちは逃げてくれ」
「ハンスいい?」
バラクの言葉をいったん無視して、今倒した4人に猿ぐつわを付けて、身動きできないように縛っていたハンスに確認を取り、それからバラクに向き直る。
「大丈夫、信用して。私はハイファの子よ」
そう言ってバラクの右の頬にキスして食堂に向かう。
追いかけようとしたバラクの手をハンスが取って止めた。
通路を右に曲がると直ぐに通路の向こうに食堂が見え、そこにも2人の衛兵が居て直ぐに俺に気が付いた。
食堂の傍には化粧室があると思っていたのが当たり、衛兵に笑顔を向けて手を振り「お手洗いを貸してください」と悪びれずに言って中に入る。
もちろん衛兵も立場上見逃すはずはないが、その表情は緊迫したものではなく緩く、一人が面倒くさそうに近づいて来るのが見えた。
トイレのドアは閉めて、用を足す。
男が入ってくれば、そこで仕留めるつもりだったが、なかなかマナーが良くて入ってこなかった。
トイレから出て鏡に向かってノンビリお化粧を直しながら携帯を見ていると、遅いことを不審に思った男が入って来たので「携帯の調子が悪いのだけど、分かりますか?」と携帯を見せると、男が手を出したので渡す。
「9のキーが押せないの。たしか9のキーを長押しすれば、ロックが解除されるはずだったんだけど……」
男は手に持った携帯電話の9のキーを押し、そしてそのまま俺の方に体を預けに来た。
そう、9キーの長押しは携帯自体に高圧電流が流れる仕組み。
男から携帯を取り上げて、控えめにキャーと悲鳴を上げた。
もう一人の衛兵が慌てて走って来る。
気絶した男を抱えながら、俺はその男に襲われている哀れな女を演じてみせる。
片方の手は携帯を持ったまま突き出してバタバタともがく。
血相を変えて入って来た衛兵が、その光景を見て呆れた表情に変わり、気絶した男の肩に手を掛けようとしたところで携帯を当てた。
押したキーは0。
二人の男が俺にのしかかり、俺は穴から抜け出すように、トイレから出た。
「いいぞ!」
直ぐに、ハンスがバラクを連れて来た。
「殺したのか!?」
「いいえ、スタンガンで気絶してもらっただけです。怪我をしないように、倒れるところは私が支えました」
バラクは膝をついて、脈を診て言った。
「分かった、君たちを信じよう」と。




