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【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㉞】


「さて、ここからは本題に戻そう。これからどうする?」

 バラクの居場所が分かった以上、その場所をフランス軍に連絡すれば俺たちの任務は全て終わる。

 当然、突入部隊との間に戦闘は避けられないだろうが、ザリバンと我々とでは装備と練度が全く違うから左程問題はあるまい。

 当然バラクを捉えるとなれば地上部隊の他に、ヘリによる航空支援も受けられるので、逃がすこともない。

 バラクの生死に関係なく、その身柄は確保できるだろう。

「バラクの居場所をアンドレ基地司令に連絡して、この任務は終了」

 軍人である以上、俺たちにはその選択肢しか残ってはいない。

「でも、これは任務を遂行するのが目的の軍人の考え方。私の所属はDGSE。言ってみれば情報部。状況を分析し新たな問題点が見つかれば、それに対処しなければなりません」

 エマが言った。

 つまり、DGSEは臨機応変な対応が出来ると。

「これは私の推測でしかありませんが、バラクと私たちを監視している者たちは別だと思います。もしもバラクが戦いを望んでいるのなら、エージェントを捉えている武器庫を絶対に教えはしないはず。そして私たちを監視しているグループは逆に私たちを疑い、いかなる情報も察知されないようにしているはずです。バラクはナトーを逃がし、彼らは捕らえようとした。つまりバラクは戦に慎重なグループで、監視者の方は好戦的なグループだと思います。これはアフガニスタンやイラク、シリアのように外国勢力が幅を利かせていない現在のリビアに於いてザリバンが進出する大義名分は薄いので、ザリバン内部でも意見が分かれていることが考えられます」

「では、その監視しているグループを潰すのかね?」

「いいえ、監視している者たちは下端ですから、彼らを捕らえたところで何も解決はしないでしょう。逆にフランス軍の脅威を裏付ける形になり、好戦派に大義名分を与えてしまう形になるでしょう」

「では、何もしないで待つか?」

「いいえ、当初の作戦通りバラクを捕らえます」

「それこそ、軍事衝突になって好戦派の思うつぼではないのかね?」

 ムサが身を乗り出してエマを睨んだ。

 エマは少し黙って、俺の顔を見て言った。

「私たちだけで、やります」

「お前たちだけで!?」

「そう私たちだけなら、仮に撃ち合いになったところで、テロ組織に逆にテロを企てる正体不明の民間人。好戦派の大義名分にもならないばかりか、司令官を守れなかったトップ連中はザリバン本部から更迭されるでしょう。なにせバラクにはそれだけの実績と貢献度がありますから」

「そして、トップを失ったザリバンも一旦撤退するしかなくなる。と、いうわけか」

「その通り」

「だが、武器も持たないお前たち二人で出来るのかね?」

 エマが「武器は、ある所に隠しています」と言って、俺にウインクして見せた。

「上出来だ。だが二人では心もとない。俺も一肌脱ごう、クリーフたちも喜んで手伝ってくれるはずだ」

 珍しくムサが上気した顔で言ったが、エマはそれを断った。

「お気持ちは有難いですが、あなたたちはこのリビアに住む人。外勢力同士の争いに巻き込む訳にはいきません」

「だが、リビアを守るためだぞ」

「いいえ、間接的にリビアを守る結果になるかも知れませんが、それは誰にも知りようのないことです。最初に言った通りこれはテロにテロで対抗するようなもの。言ってみればチンピラ同士の小競り合い。あなた方を危険に巻き込むこともできませんし、もし万が一加勢したことが人に知れたとしたら、リビア国内の反体制派から危険人物としてマークされるはず。折角今まで苦労して平和に暮らしていたことが台無しになり政府から“カダフィーの息子たち”として扱われることにもなり兼ねません」

 そう言ってセバを見た。

「ザリバンが撤退すれば、屹度セバは自ら付いて行かない限り置き去りにされるでしょう。そうなればセバは普通の市民として生きていけるのです」

 ムサはしばらく黙り、そして「分かった」とだけ言った。

「あなた方は何があっても、変な二人連れに宿を貸しただけの人でなければならない」

 正直、エマを凄いと思った。

 ただ銃や格闘技をつかって暴れ回る俺とは違う。

 さすがDGSEの大尉だけのことはあるし、一人の人間としても立派だと思った。

「さあ、ナトちゃん。二階で作戦をねるわよ」

 そう言って二階に上がるエマに着いて行った。

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