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【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㉝】


 明け方、タクシーで店に帰った。

 親切な運転手さんが、足に包帯を巻いて引きずって歩く俺の荷物を店の中まで持って入ってくれた。

 運転手はもちろんヤザ。

 店に入るなり、深く被った帽子と会社のジャケットを脱いで、セバと一緒に留守番をしていた仲間に渡す。

 仲間の男は、直ぐにそれに着替えて車に戻り、ムサは丁寧にその運転手さんを見送った。

「どうだった?」

 今まで黙っていたセバが聞いてきた。

「上々よ!」

 と、応えたエマがテレビのスイッチを入れた。

 画面に映し出されたのは、湾岸の倉庫が激しく燃えている画像。

 ナレーターが、何者かが倉庫に大量の武器らしき物を隠しそれが何らかの原因で爆発したと、歯切れの悪いコメントをした。

 そしてこの爆発火災による近隣の被害者は確認されていない事を付け加えたあと、まだ消化活動中だが倉庫内に人が居たとしても確認は難しいだろうと付け加えていた。

「やったぁ~作戦成功!」

 そう言おうとしたセバの口をエマが塞いだ。

「いい?アマルの怪我を見てもらうために私とアマルは今夜病院に行き、セバはムサと二人で帰りを待っていた。そして、これはニュース。それ以上の事を私たちは知り得ないのよ」

 エマがセバに話をしている最中に、ムサが張り紙を入り口のドアに貼る。

『本日、都合により休業します』

 そして俺たちの前に座り、怖い顔で言った。

「ここまで深入りしてしまった以上、全員隠し事はなしだ」と。

 先ずムサが、元情報部大佐と言う経歴を話し、セバがザリバンの募集に応じていることを言ったあと「まだ正式採用じゃないけれど」と付け加えた。

 エマは自分がフランスのDGSE(対外治安総局)の大尉であることを話し、その目的をザリバン掃討作戦と捕らえられたエージェントの救出であることを話した。

 この話にセバが驚いて、俺の顔を見て言った「アマルは、ただ付いて来ただけだよね」と。

「俺は同じフランスの傭兵。LéMATと言う特殊部隊の軍曹で、名前もアマルじゃなくてナトー。任務はエマと同じだ。騙す形になってしまってすまない」

「……そ、そんな。二人とも俺の敵だなんて」

 セバが、そう言ってガックリと首を垂れた。

「敵ではない」

 ムサがセバに言う。

「戦いになれば敵味方に分かれるが、ザリバンもフランス軍もまだ正式に武力衝突はしていないから、今の段階では考え方の違う組織に所属するというだけだから、友人にもなれる」

「でもそうなると爺ちゃんがアマル達としてきた、あのニュースの爆破事件は、屹度ザリバンの武器を狙ったものなんだろう?」

 ムサが姿勢を正して俺に向き直す。

「さてその件だが、誰に頼まれた?セバのような下端は勿論そんな所に武器が隠されているなど知らんが、相当上の者でもない限り知り得ない情報だと思うが、こうなった以上今度はお前に情報を流した者の身が危うい」

 俺は少し迷ったが、正直に言うことにした。

「バラクだ」

「バラク!!」

 エマとセバが飛び上がるほど驚いた。

「バラクに会ったの?どこで?そしてなんでバラクは見ず知らずのナトちゃんに、そんな重大な秘密をばらしたの?」

「詳しくは何も話せない」

 これは俺の生い立ちに関する事につながる。

 おれの正体が明るみに出ると、今ある全ての者が失われるのだ。

 何故なら、子供の時のこととはいえ俺は中東時代に政府軍や多国籍軍の兵士を大勢殺して、その首に多額の懸賞金を掛けられた“GrimReaper”だから。

「まあいい。隠し事はなしだと言ったが、それは任務についてでプライベートなことまで話せとは言わない。バラクはザリバンの中でも賢くて優秀な指揮官だ。おそらくは、この戦争の仕組みに気が付いたのかも知れんな」

「戦争の仕組み?」

 その言葉に、セバと俺が聞き返した。

「カダフィーを、どう思うかね?」

「インチキ野郎の独裁者」

 セバが真っ先に答えた。

 そのインチキ野郎に、お前の父とこのワシが雇われていたんだぞ。

「爺ちゃんも、父ちゃんも知らなかったのさ、軍人だったから」


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