【現在、ザリバン高原地帯16時40分】
まだ、その他の味方の応援は来ない。
敵が少しずつ押されてこちらに戻ってきているので、もうこの一帯にヘリを寄こすことはしばらくないだろう。
俺たち三人では、この輸送機を守ることは出来ない。
「ジム。キャビンの中央にヤクトシェリダンを入れてくれ」
「了解! でも、なんで?」
「ビックリ箱を作る」
「?」
ゴードンにレーション(携帯食料)の在庫確認を頼み、確認したものは一か所にまとめておくように指示した後、ジムに武器・弾薬の在庫確認を指示し、俺はヤクトシェリダンに乗り込みチョッとした細工を施した。
派手に撃ちまくったため、重機関銃と軽機関銃の弾丸は僅かしかないが、小銃弾はまだ沢山あった。
それに手榴弾も。
その手榴弾を使って、各入り口付近にトラップを仕掛けておいた。
そして二人をコクピットに呼ぶ。
「これから、どうする?」
二人が聞いてくる。
「とりあえず、寝よう」
「寝る?」
「ああ、まだ先は長そうだ」
そう言って、横になった。
銃声は、まだ遠い。
どのみち、さっきの少尉も直に戻ってくるだろう。
そして、ここはまた戦場に戻る。
いつまでも神経を尖らせていては、本当に必要な時に必要な行動はとれない。
だから、休めるときに休む。
1時間ほど過ぎたころ、割と近い距離の銃声が聞こえた。
さっきの少尉たちが向かった方向から、直線距離にして約1キロと言ったところか。
銃声の特徴としては、かなり速いスピードでこっちに向かって来ている。
おそらく敵の部隊と鉢合わせして、慌てて逃げかえって来ているのだろう。
「ジム、すまないがトラップを外して正面のシェリダンⅡの重機関銃に弾を補充して待っていてくれ」
「ゴードンは軽機関銃を持って俺と散歩に行く」
「了解!」
なんだか二人とも、少し楽しそうに見えた。
この輸送機に帰って来るにしても、本来ならギリギリまで森を進み一旦奥の岩場に迂回して来るのが妥当なルートだろうけど、聞こえてくる銃声からするとかなり慌てている。
屹度、無茶にこの正面の草原を突っ切って来るはず。
そうなると輸送機からの射撃は遠すぎて、彼らをただの十字砲火の真ん中に置くだけのことになり、威力の強い重機関銃以外ほとんど意味をなさない。
狙撃以外で有効な射撃は、大体草原の真ん中付近まで。
それを突っ切ろうとして逃げる彼らは、敵にしてみれば格好の的だ。
ゴードンと俺は、敵の作ってくれた遮蔽物を逆向きに利用して、2丁の軽機関銃を構える。
おそらく軽機関銃用の銃弾は、この援護射撃で使い切ってしまう。
だから、背中にはHK416も担いできている。
しばらく待っていると、あの捕虜の居た見通しのいい場所から、真っ先に少尉が飛び出してきた。
それに続いて、真ん中に足を負傷した兵士を挟んで抱えるようにして走る2人の兵士。
続いて、後ろを気にしながら銃を構えて2人。
その2人と、ポジションを入れ替えるように出て来た2名。
そして、銃を撃ちながら出て来た1人……こいつは負傷している。
負傷しながらも、待っていた2人に走るように指示を出す。
「さあ、そろそろ来るぞ!」
ゴードンに、そう声を掛けたとき、ちょうど少尉がその傍を通った。
「おかえりなさい。急いでどちらへ?」
ゴードンが通り過ぎる少尉にそう声をかけると、俺の方を振り返って笑った。
続いて負傷兵を抱えたグループが通り過ぎようとしたので、「ここに伏せておけ!」と声を掛ける。
一瞬担いでいた二人が戸惑った顔を見せたので「好い的になってしまうぞ、輸送機にはあとで俺が連れて行ってやる」と言うと、素直に伏せた。
負傷しながら銃を撃っていた1人が、もう一発喰らい、それを助けようとした者も倒れた。
もう一名は、その場で伏せて応戦していた。
二人が倒れたのは、遮蔽物のない場所だったので、俺の近くに居た海兵隊員に「敵が出てきたら、俺の代わりにこれで応戦しろ」と言って倒れた2人に向かって走って行った。
先ず応戦している奴のケツを叩き協力を求めて、負傷した2人のベルトを掴んで銃弾の陰になる場所まで運んだ。
俺の周りには3人の負傷者を含めた8人の兵士が集まり、そして敵が出て来た。
2丁のM249軽機関銃が火を噴き、飛び出してきた敵を一網打尽にした。
残りの敵は木の幹などに身を隠して、応戦して来る。
しかしそれもジムの撃つM2重機関銃の12.7mmが、木の幹ごと敵を薙ぎ倒した。
ジムに射撃の中止を合図して、ゴードンとアイコンタクトを取り、銃声の納まった森に向かって2人で突撃した。
戦意を失いかけている敵に追い打ちをかけることで、戦意を更に削ぐのが目的。
追いながら何度も威嚇射撃をして、蹴散らした。
これで当分、戻っては来ないはずだ。
森を出て、3人の負傷兵をゴードンと他の者で急いで輸送機に運ばせて、俺だけはその搬送が終わるまでさっきまで応戦していた位置に残って警戒にあたっていた。




