【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㉛】
しばらく待っていると、クリーフからの連絡が来た。
“ソノホカニ・テキ・ミアタラズ”
そうなれば罠の可能性が大きい。
どうする?
ずらかるなら早いほうがいい。
そう思ったとき、正面のドアが開く音がして、一人入って来た。
「よう、遅いじゃないか。いつまで小便してやがるんだ」
「いいじゃないか、小便くらい。どうせ暇なんだし」
「違ぇねえ」
「まったく、とんだ荷物番だぜ」
そう言うと、その男はカードゲームの輪に加わって座った。
これで敵の人数と銃の数が揃った。
俺はコンテナから降りて、ムサと一緒に一旦外へ出て作戦を練ることにした。
道端に石で線を引きながら、伝える。
ドアは三か所、それぞれに一人ずつ配置して敵の逃げ場を塞ぐ。
敵は用を足しに、正面のドアから外に出るとして、先ずは正面ドアから外へ出たものを片付ける。
裏のドアの二人は中に侵入しておいて、正面のドアから敵が出て1分後に作戦を開始する。
「敵の銃はどうする?銃が中央にある限り、こっちが取り付くよりも先に敵の誰かが、それを手にするぞ」
「それは、あらかじめ一人中央付近に侵入させておいて、それで開始と同時に武器を無効化してしまう」
「どうやって?」
「腕ずくで俺がやる」
「敵が用を足しに裏から出ようとしたら?」
「裏から出る奴は大丈夫だろう」
「なぜ?」
「そいつがするのは小便じゃないから、少しくらい戻ってこなくても誰も怪しまない」
「なるほど」
確認のためなのか、ムサが色々と聞いてくる。
「もしも、用を足しに出るのが一人じゃなかったら?」
「連れしょんはあるだろうな。でも連れうんはないから、それがあるとすれば正面の扉だけだろう」
「二人を相手に、声を出させずにノックアウトさせるのは難しいぞ」
「あんたなら、なんとかなるだろう」
ムサはクククと声を殺して笑い出して言った。
「面白い、乗った」と。
作戦の実行時間は相手任せ。
その前に、敵の応援が来れば、それまでだ。
しかし、今はまだ深夜。
夜明けまでには時間が充分あるし、それまでに敵は用を足しに出るだろう。
ムサ以外の三人は、倉庫の中に侵入した。
エマとクリーフは通路の脇にあるコンテナの陰に隠れ、俺だけがコンテナを上り、ゆっくりと音を立てないように中央のなるべく敵に近い位置まで忍び寄る。
一時間が過ぎ、それからまた30分が過ぎたころ、カードゲームをしていた5人が立った。
「おい。交代だ」
床に寝転んでいた3人と木箱の傍に居た2人が起き上がる。
「のんびり寝やがって、この野郎」
今起きたばかりの一人が、腹いせに縛られているエージェントを蹴った。
そして5人が正面のドアから出て行こうとする。
“5人はマズイ!”
いくらムサとはいえ5人に声を出させずに片付けるのは無理だ。
“どうする?直ぐ動くか?それとも作戦を中止するか?
「あっ俺は大の方だった」
そう言って5人のうち一人がクリーフの待機する裏のドアに向かって行った。
“しかし、まだ4人”
腹をくくって、敵の声がした瞬間を狙って決行するしかない。
幸い5人が銃を持たずに倉庫の外へ出てくれたということは、残った5人を俺たち3人で始末すればいいということだ。
ムサと争う声をじっと待つ。
ところが出て行った4人は、なんの音沙汰もない。
ムサが不利と見て、あえて戦わなかったのかも知れない。
戦わないのも良い判断だと思うが、そうすると、今ムサはどこに居る?
中か?
いずれにしても、外に出た4人が戻ってくる前に動かないとヤバイ。




