【現在、ザリバン高原地帯15時00分】
「ご苦労」
俺の前に来たのは、海兵隊の少尉。
背は俺よりも低く170㎝あるかどうか。
しかし体つきは、それなりに良い。
士官学校を出たばかり位の若い将校と言う印象。
「指揮官は、さっきのヘリで帰ったのか?」
「いや」
「じゃあ、誰が指揮をとっていた?」
「俺だ」
「お前が?まさか」
そう言って、若い少尉が笑う。
「いや、間違いないです。この二等軍曹の指揮のもと、俺たちは一人の死者も出すことなく戦い抜きました」
ゴードンとジムが、そう言ってくれた。
少尉は辺りに散らばる無数の敵兵の屍を眺めた後、言った「敵は素人集団だ」と。
「ふざけるな!軍曹のおかげで俺たちは無事で敵の攻撃を乗り切れたんだ!」
ジムが掴みかからんとする勢いで、そう言い、それをゴードンが止めた。
「将校に対して、不適切な発言は軍法会議ものだな。戻った後楽しみにするがいい」
そう言って少尉は、ゴードンに抑えられているジムの首を掴み、認識票を確認した。
「なんで残ったウォルトン・ジム一等兵。ここからは戦車は必要ない。戦車のない戦車兵など足手まといになるだけだと言うことさえ分からなかったのか? こんなゴミみたいな敵を倒して英雄にでもなったと思ったか」
「ゴミだと? 彼らだってよく戦って俺たちを苦しめたさ!」
ジムを抑えていたゴードンが、今度は少尉に食って掛った。
「やめろ」
俺が間に入り、それを止めた。
「この後の任務のために残って協力するよう要請してきたのは君たちの方だぞ、俺たちはまだ正式に少尉の指揮下に入ったわけではない。これ以上侮辱するのなら協力はしない」
「ふざけるな!貴様それでもアメリカ人か!」
「俺はアメリカ人ではないしアメリカ軍でもない傭兵だ。そして墜落したこの機の部隊に所属している生き残り。つまり多国籍軍第3特別混成部隊第2中隊の所属だから、この二人も海兵隊とは無関係ってことになる。ついでに言っておくが生き残った中で一番階級の高い俺は、二等軍曹の肩書の他に中隊長代理という看板が付いていることも忘れるな」
「ちっ。助けてやった恩も忘れやがって」
「君に助けて欲しいと願った覚えはない。それに戦場で仲間を助けるのに君の部隊ではイチイチ恩に着せるしきたりでもあるのか?」
「もういい。ついてきたくなければ、ここに居ろ!どうせ役には立たん。俺たちだけで、1号機の墜落現場に行く」
「ちょっと待て、ここはどうするつもりだ。今、他の部隊もここへ向かっているはずだろう?」
「他の部隊など待ってはいられない」
「なぜ?」
「それは、貴様には関係ない」
「今戦っている敵が、ここに先に取り付いてしまったら、このC237輸送機の残骸は俺たちがそうしていたように堅牢な基地となってしまうんだぞ」
「なら、燃やしてしまえばいいだろう」
「戻るところがなくなってしまうけど、いいんだな、それで」
少尉は、少し黙った後「知ったことか」と言って立ち去ろうとした。
俺は、その少尉の肩を掴んで聞いた。
「お前の受けた命令は、到着後直ぐに1号機の墜落地点に向かうことではないはずだ。本当は他の部隊の到着を待ち、それと合流して行くのではないのか?」
「黙れ! 敵がいない以上、待つ意味がない。それに君とこうして議論して充分俺たちは待った」
そう言って、少尉は部隊をまとめて歩き出した。
俺に協力を要請しにきた伍長がペコリと、すまなそうに頭を下げて、列に加わった。
「まったく、なんなんだ? あの少尉」
「ふざけやがって。戦車兵が要らないのなら、先に言えって言うんだよ!」
ゴードンとジムが口々にぼやく。
戦場に残されたのは、俺たちたった3人。
遠くではヤザたちの必死の抵抗に合っているのだろう、さっきまでの銃声の音は、いまだに近づいてくる気配はない。




