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【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㉚】


「拳銃どうします?一応携帯しますか?」

 倉庫を前にして、もう一度クリーフが聞いた。

「いや、重りになるだけだ。必要な時は相手の者があるだろう」

「了解」

 そう言ってクリーフは、拳銃をダッシュボードに仕舞いカギを掛けた。

 ムサの言い分も見事だが、それに素直に従うクリーフも大したものだと思った。

 倉庫の大きな扉は閉められていた。

 最初から開いているとは思ってもいない。

 その、正面の大きな扉の横に、人が出入りするだけの扉が一つ。

 他に扉は裏に二か所あったが、俺たちは二手に分かれずに、その中の一つの扉から入ることにした。

 俺がピッキングでカギを開ける間、クリーフが持ってきていた浸透性のある油を扉の蝶番に入念に塗っていた。

 港の倉庫。

 深夜とはいえ船の音は聞こえるが、かなり静かな時間帯。

 もしも扉を開けたときに、軋む音がすれば直ぐに侵入者があることが分かってしまう。

 ムサは扉に耳を付けて、中の物音をうかがう。

 顔を見上げると、どうやら大丈夫らしい。

 カチャリと最後に音がして、鍵が開いたことを知らせる。

 ゆっくりとノブをまわし、扉を引くとクリーフの塗ってくれた油の効果で扉は文句も言わずに開いた。

 薄暗い室内には幾つかの木箱とコンテナが積まれている。

 先ずは状況確認のため俺とムサが入り、外の空気が入らないように直ぐ扉を閉めた。

 注意深い奴なら、外の空気を感じて侵入者があることに気が付く。

 俺は裸足。

 革靴だと歩く音が出るから。

 ガラスや金属を踏んだ時に怪我をする恐れはあるけれど、これが一番足音がしないし、床の状況が掴み易い。

 ムサを扉の前に残して、ゆっくりと薄暗い中を進む。

 水煙草の匂いと、話し声が聞こえて来た。

 長いコンテナの先端まで進み。ポケットから化粧用のコンパクトを取り出し、足で確り挟み床ギリギリの高さにしてその先を伺う。

 4人の男が、小さな木箱を囲み何かしている。

 手前には後ろ向きに寝そべっている男が一人。

 その向こうには手で顔を覆って横になっている男が二人。

 そして、その男たちの手前に椅子に縛られて、俯いている男が一人。

 この男がエージェントだとしたら、敵は7人ということになる。

“おかしい……”

 寝ているのが3人というのが引っかかる。

 起きているのが4人なら、寝ているのも同数が普通のような気もするし、隊長が居て総勢九人とも考えられる。

 そんな気がして、他に居ないか探した。

 コンパクトを手に持ち替えてコンテナの上を探るが、他の荷物が邪魔をして、見通しが利かない。

 ムサにこの長いコンテナの後ろ端で来て待つように指示してコンテナの上に手を乗せて、ゆっくりとその上に登るとようやく倉庫内の全容が見えた。

 捕まえたエージェントの近くで水煙草を吸いながらカードゲームを楽しむ4人と、その回りで寝ているのが3人。

 手前で木箱に背を持たれて目を瞑っている1人と、その木箱の上に寝そべっているのが1人。

 銃はその木箱に立て掛けてあるのが4丁と、木箱の上に2丁、それとカードゲームをしている4人の傍に4丁。

 銃が1丁多い。

 敵がもう1人いる……もしくは、俯いているエージェントが偽物なのかの。どちらかだ。

 時間は掛かるが、今は待つしかない。

 待って確かな答えを見つけるために。

 エージェントが敵だった場合は、完全に罠だ。

 突入はおろか、ここにこうして居ることさえ危ない。

 一応の状況を伝えるために、コンテナを小さくたたいてムサに信号を送る。

 同じコンテナに居る者ならば、この微かな振動に気が付くはず。

 まして彼は元教官という肩書も持っていたはず。

 コツコツと指で微かにコンテナを叩きモールス信号を打つ。

“ジョウキョウカクニンチュウ・エージェントラシキオトコカクニン・テキ9ニンカクニン・10チョウノジュウカクニン・ジュウトヒトノカズアワナイタメシバラクヨウスヲミル・イジョウ”

 伝わったかどうか確認するため、耳をコンテナの鉄板につけた。

“リョウカイシタ・ネンノタメクリーフニ・モウイッポウノドアヲサグラセル・イジョウ”

“ソウネガウ・イジョウ”

 上手く連絡が取れた。

 あとは、クリーフからの連絡を待つだけだ。

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