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【現在、ザリバン高原地帯14時50分】


 まだ何人か残っている敵が銃を撃ってくるが、小銃弾を通すほどヤクトシェリダンの装甲は薄くなく、俺たちは銃弾を跳ね返す音を聞きながら悠々と戦場を後にした。

 輸送機に着くと直ぐに負傷したゴンザレスを下ろして、レイの所に向かう。

「救援ヘリは!?」

「連絡したので、もう直ぐ来ます」

「そうか。これで楽が出来るな」

 そう言って負傷していないほうの肩を軽くポンと叩いた。

 ヤクトシェリダンの弾は残り1発。

 負傷していないのは俺を含めて3名だけ。

 このまま夜が来れば、完全に負けると覚悟していた。

 耳をすませば遠くの方から銃声が聞こえて来た。

 かなり離れた所でヘリを降りた部隊と、ヤザたちの戦闘が始まった音。

 しばらくすると近づいてくるヘリの音も。

 みんなで空を見上げていると、ついに待ちに待ったヘリが2機やってくるのが見えた。

 標高の高い地域独特の、どこまでも抜けるような青い空を超低空で駆け抜けてくるシルエットの違う2機。

 1機はUH-60 ブラックホーク。

 そしてもう1機は大型のCH-53Kキングスタリオン。

「さあ!最後のひと仕事だ。みんな締まって行こう!」

 ヘリからの銃撃でパニックになった敵兵が、輸送機のほうに走って来るとも限らないので、闘えるもの全員に呼び掛けた。

 ヘリのローター音に混じって、頼もしいミニガンの音が響き、草原に築いた即席の遮蔽物に隠れていた敵兵が逃げ惑う。

 逃げる者もいれば、向かって来る者もいる。

 とにかく見える敵は一人残らず撃った。

 警戒と制圧のため2機のヘリは交互に何度も周囲を行き来し、そしてついに降りて来た。

 輸送機から歓声が上がる。

 先ず降りて来たのはUH-60 ブラックホーク。

 着陸するや否や直ぐに11名のアメリカ海兵隊員がヘリの周囲を固め、そのうち一人の伍長が俺の所に来て負傷兵の収容と、この後の任務のために協力できる兵士を募るように要請してきた。

 できれば全員返してやりたいと思ったが、一応ゴードンとジムにその事を伝えると、残ると言った。

 ブラックホークのキャビンは、そう広くないので、重傷者と下半身の負傷者はスペースをとってしまうから、上半身を負傷している者を乗せた。

 そして彼らを乗せるとUH-60は直ぐに飛び立ち、入れ替わりにCH-53Kが降りて来た。

 こっちはキャビンが広い。

 貨物室の構造は通常の輸送機とほぼ同じで、座席もあればベッドにもなる。

 だから重傷者を中心にして、残りは足の負傷者を乗せた。

 既に意識不明に陥っているキムには“急性硬膜外血腫の疑いがあり”と書いたメモをぶら下げておいた。

 そして同じ将兵部隊所属で、重症のフジワラも別れを惜しんでいたが、確り直してまたフランスで会おうと言って励まして送り出した。

 ゴンザレスは元気だから残ると言っていたが、銃弾が貫通した位置が動脈に近い場所だったのでヘリに乗ってもらう。

 また、英語の話せない捕虜の首にも、戦闘を終わらせる為の情報をくれたことと、裏切り者扱いせないこと、国際法にのっとった処遇をすることを書いたメモをぶら下げて送り出した。

 最後にレイと握手した。

「君が通信機を直してくれたおかげで、助かることが出来た。ありがとう。そして負傷させてすまなかった」

「負傷は俺のミスだから気にしないでください。軍曹みたいにプロじゃない。どうしても通信兵だから銃撃戦の感が鈍くて迷惑を掛けました」

 そう言ってから「フランスに行ったときは、寄らせてもらいます」と言ってヘリに乗り込んだ。

 これで残ったのは、志願したゴードンとジムの二人だけ。

「ジム、本当にいいのか、君は戦車兵だろう?」

「軍曹が嫌じゃなけりゃあ、俺は残ります。……嫌ですか?」

「嫌じゃない。むしろその怪力は頼もしいと思っている」

「じゃあ問題ない」

「ゴードンは? 今ならまだ間に合うぞ」

「なに言っているんですか、山岳歩兵の俺がここで帰ってどうするんです?それに軍曹からまだ狙撃の極意を盗んじゃいませんから、帰ろうにも帰れません」

 そう言って二人は快く、残ってくれた。

 ローターが早く回りだし、いよいよ共に戦って負傷した仲間たちともお別れ。

 窓のないCH-53Kだけど、お互いの気持ちは通じるはず。

 そう思って俺たち三人は、高く舞い上がって行くヘリに手を振っていた。

 37人残った、仲間のうち34人を死なせずに基地に返すことが出来てホッとした。

 あとは俺たち残った俺たち三人が、任務を全うして、無事に基地に帰るだけだ。

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