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【2年前、リビア“Šahrzād作戦”㉔】


 レイラを連れてお店に戻ると、そこにはセバも来ていた。

「爺ちゃん、無茶すんなよ。そういう時には直ぐ俺に連絡してくれれば飛んでくるんだからさあ」

 昨夜のことをどこからか聞きつけて、心配して様子を見に来たらしい。

 能天気なように見えても、ナカナカお爺ちゃん思いの好い青年なのだと少し見直すが、セバ一人……いや、あの五人の仲間と一緒でも昨夜の男たちには敵わなかっただろう。

 ムサが簡単に蹴散らしたように見えたけれど、あの6人は格闘技の訓練を受けている。

 ただのチンピラとは訳が違う。

「あら、なにかあったのかしら?」

 事情を知らないレイラがセバに聞く。

「ああ、昨日の夜。バーからの帰り道、アマルとエマがチンピラに絡まれたんだ」

「まあっ大変!」

 レイラが驚いて俺の顔を見て「お怪我は?」と聞いてきた。

「大丈夫さ。アマルの悲鳴を聞きつけた爺ちゃんが、直ぐに駆け付けて6人のチンピラどもをあっという間に片付けたから」

「まあっ6人も!オジ様すごいわ」

“俺の悲鳴ではなく、それはエマの悲鳴だ” と言おうとしたが、レイラのほうが先に喋ったので、我慢した。

「そりゃ強いさ、だって俺の爺ちゃんは、もと――」

 そこまで行ったときムサが大きな咳払いをして、話を止めさせた。

 情報部員とか特殊部隊に居た人間は、例えその任を解かれても元の所属を言わないと聞いたことが有る。

 おくゆかしい訳ではない。

 軍内部では超エリートでも、その作戦内容は退役後も極秘にしなくてはならないことも多く、それに一般の兵士に比べ世間や同じ軍人からも恨みに思われるような任務にもついているから。

 その昔、米軍最強のスナイパーとして有名になったSEALsのクリス・カイル兵曹長が退役後に元軍人によって射殺されたように、名前や顔が売れてしまったが故の事故も起こりかねない。

「まあ、表で立ち話もなんだから、店に入りなさい」

 そう言って中に入ると、ムサが緑茶を入れてくれた。

「あれ、エマは?」

「二階で寝ておるよ。張り切りすぎて疲れたのだろう」

「ちょっと様子見てくる」

 そう言って席を離れて二階に上がると、ベッドに座ったままボーっと外を眺めているエマが居た。

 なんだかいつもの陽気なエマとは違い、元気がない。

 でも、疲れている風にも見えない。

 強いて言うならば、心が疲れている風に見えた。

「ェマ……」

 小さく声を掛けると、ようやく俺の事に気が付いて振り返った。

「おかえり。楽しかった?」

 優しく微笑む。

 なんだか調子が抜ける。

「疲れたの?」

「――うん、少し。張り切り過ぎちゃったかな」

 そう言って、おちゃめな顔をして“てへっ” と笑う。

 嘘を言っているのは俺でも分かる。

 訓練を受けた者は、たかがお店を手伝ったくらいでは疲れたちしない。

 しかも国軍の将校としての訓練を受けた者ならば、二日くらい寝ずに戦えるくらいの気力と体力は持ち合わせているはずだし、それを維持するための定期的な訓練は受けている。

「なにがあった」

「なんにも……」

「――そうか」

 俺はエマの横に座ると、そのままその肩を抱いてキスをして、誘うように寝転んだ。

「珍しいのね、ナトちゃんの方から誘ってくるなんて」

 エマの柔らかな体は、抵抗することもなく俺の誘いに合わせて重なってくる。

「だって……」

 寂しそうにしているエマに元気を出して欲しかった。

 鼻が当たるように近いエマの顔。

 その濃いブラウンの瞳をジッと見つめて言った。

 だけど、それ以上の言葉は何も思いつかなくて、ただ瞳を見つめているだけ。

 言葉を知らない俺では、声を出して上手に勇気づけてあげることが出来ない。

 だからエマの好きなキスをするしか術がなかった。

 エマはそんな俺に優しく唇を合わせてくれ、俺は激しく何度も何度もその唇を貪るように求めた。

 やがて合わせた唇が激しく絡み合い、俺の白い肌が上気してほんのりと熱を帯びピンク色に染まる。

 せめて、この熱だけでも届いてくれればと思い、エマの体を強く抱く。

 エマは、その熱を漏らすまいとするように、強く俺の体を抱いてくれた。

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