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【2年前、リビア“Šahrzād作戦”⑳】




「やめてー!逆らわないから暴力だけはやめて!」

 エマが大声で叫ぶ。

 男の手が、俺の髪を触る。

 反射的に、その手を掴もうとしたとき、またエマが叫ぶ。

「やめて!アマルに何もしないで。私はどうなってもいいから!」

 エマの叫びが男に向けられているのではなく、俺に向けられているのは最初から分かっていた。

 でも、我慢が出来ない。

 再度エマに言われて、上げかけた手をもとの位置に戻す。

「こいつ白人だ」

「銀髪って言うのは初めて見たぜ」

 男が俺に顔を近づけて覗き込んできた。

「おい、見ろよ。こいつ左右の目の色が違うぜ」

 他の男も興味深そうに、俺の顔を覗き込む。

“こんな屈辱を受けるのは初めて。でも俺は我慢した。エマのため、そして作戦のために”

 心のどこかでハンスが来てくれないかと願っていたが、広い市街を巡回しているハンスたちが偶然この時間にこの場所を通りかかることは期待できない。

 仮にもし来たとしても、作戦以外の行動をとることもないだろう。

 そう思っている時に、走って来る足音が聞こえた。

“ハンス!?”

 6人の男たちも、その足音に気が付いて振り返る。

 夜の暗がりに映し出された、その足音の主はハンスとは違って、もっと横幅があった。

“モンタナ?いや違う。フランソワ?”

 しかし、そのどちらでもなかった。

 やって来たのはムサ。

「こら!お前たち何している!」

「なんだ、ジジイか。怪我をしたくなかったら、引っ込んでいろ!」

 男の一人がムサの声に答える。

「そうはいかん。その子たちはワシの店の大事な家族だからな」

 ムサは、男の声に動じることもなく近づいて来て、俺を男たちから離して道に座り込んでいるエマを抱き起し、かばうように俺たちと男たちの間に立った。

「ジジイ引っ込んでいろと言ったはずだ。もうろくして耳が聞こえないのか?」

 その声に男の仲間が、嘲るように笑う。

「おかげさまで、耳は達者だ。それよりもお前たちこそ痛い思いをしたくなかったら、とっとと帰れ。今なら見逃してやるぞ」

「なめんじゃねぇ!」

 リーダーらしき男がいきなりムサに飛び掛かるが、ムサは上手い事それをよけた。

「やろうっ!」

 次の男が飛び掛かったところ身をかがめてそれをよけ、ムサに覆いかぶさるように前のめりになったその男を、状態を素早く起こして宙に投げ捨てた。

 大きな動作をしたところを突かれて、ムサの頬にパンチが当たり、少しスウェー(打撃を避ける、または当たりを軽減させるために後ろに身を引く動作)したところを後ろに居た男に胴体をホールド(抱え込むように掴む動作)された。

 万事休すかと一瞬思う間もなく、ホールドを解いて逆にその男の後ろに回り込み腕を捻り上げながら正面から飛び込んできた男に突進して二人とも片付けた。

 残った三人がナイフを出す。

 危ないと思い加勢しようと動きかけたところ、エマが俺の手を掴んだ。

 振り向くとエマの目が “行くな” と言っていた。

 目を前に戻すと、ナイフを見ても動じもしないムサがいた。

 一人の男がナイフを横に振り回しながら襲い掛かる。

 ムサは男の腕を巧みに掴み、男の振舞わす方向に足を掛けで投げ飛ばした。

 投げ飛ばされたはずみでカラカラと路上にナイフが転がる。

“強い”

 俺が、そう思ったとき、どこからか合図の口笛が聞こえた。

「くそっ!覚えていろ!」

 残った二人の男が、倒れている仲間の手を取り逃げて行った。


「やれやれ、怪我はなかったか?この辺りも最近治安が良くないから、夜遊びは慎んだほうが良い」

 そう言うとムサは何事もなかったように、来た道を引き返して行った。

「カッコイイ♡」

 エマの目に何故かハートマークがついていた。

 確かに。

 元国軍の大佐で、リビア情報部付き特殊部隊教官だけのことはある。

 現役を退いて久しいはずなのに、この強さとは正直思いもよらなかった。


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