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【現在、ザリバン高原地帯14時25分】


 ジムは戦車兵だから、この岩場の戦闘は慣れていない。

 海兵隊員のゴンザレスなら、突撃はお手の物だろう。

 だから、ジムに狙撃を任せることにして伝えた。

「でも、この部隊で一番の狙撃手は軍曹だ。だから軍曹がここで狙撃するべきだ」

 一般的に女性兵士が実戦部隊に配備されないのには理由がある。

 男には、常に女性を守ろうとする心理が働く。

 例えば拠点を占領するための突撃で、男性隊員が敵の真っただ中で負傷して動けなくなった場合、その隊員は目的を拠点占領から後方支援と自己防衛に切り替える。

 もちろん負傷した男は、仲間が再び戻ってくるまで、その場に置いてけぼりだ。

 しかし負傷したのが女性隊員だった場合、男性隊員の誰かが必ずその女を守るために落後してしまい、部隊は戦力を一気に二つ失う。

 これはいくら教育しても難しいこと。

 つまり子供を産む女性を守ることは、男の本能だから。

 俺は二人に聞いた。

「作戦の目的はなんだ」と。

「二門のRPGの破壊もしくは確保。それに、そのほかにRPGを持っていないかの確認」

 二人は明確に答えた。

「もしも作戦途中で負傷、もしくは死亡しても、その場に置いて行く。敵に取り囲まれていようと、屍がさらし者になるのが分かっていようが今は敵のRPGを排除して、救援ヘリをここに呼ぶのが最大の任務だ。俺が撃たれて倒れたらゴンザレスが、そしてそのゴンザレスも撃たれて倒れたらジムがやる。いいな」

 二人とも少し驚きはしたが、作戦の重大さを理解しているので素直に返事を返してきた。

 突入する俺たちが負傷して動けなくなった場合の合図と、乱射やRPGの支援を依頼するときの合図、それとジムの周囲に敵が近づいていることを教える合図を確認し、ジムに2門のRPGを渡す。

 合図がなくてもRPGを撃つのは自由とし、俺たちはその独特の発射音で在庫の確認をして判断する。

 それからジムには、たまに穴から出て、身の回りの安全を確認することを伝えた。

 袋小路で格好の狙撃位置だが、それだけに左右後方の視界はないから。

「では、行ってくる」

「お気をつけて」


 俺とゴンザレスは、いきなり突入はしないで、なるべく発見されないように身を隠しながら近づいた。

 距離がまだあるので、早く発見されると近づけない恐れもあるし、発見されないまま辿り着くことが出来れば、この上ない。

 身を低くしながら時には這って、焦らずに接近する。

 しかし目標まであと50mまで近づいたとき、左側の敵に気付かれた。

 ちょうど左側からの攻撃に対する遮蔽物のない場所。

 直ぐにジムに合図して左側への攻撃を指示した。

 その間に銃弾が当たらないように、地面に這いつくばって耐える。

 近くの岩に、無数の銃弾が当たり、跳弾が直ぐ傍を通る。

 後方からバシュっという発射音。

 さすがに戦車兵だけあって、大物を躊躇なく使うのが頼もしい。

 白い煙が上がり一旦左側からの攻撃の手が緩んだ隙を見て、前に走る。

 10mほど走ると窪地があり、そこに一旦身を隠し後方のジムを確認した。

 RPGを撃ったことで場所を知った右側の敵の拠点から2人が、ジムの隠れている岩場に向かっていたので、それを撃つ。

 2人共仕留めたので、ジムにそれを知らせた。

 ゴンザレスと二人で手りゅう弾を手に取って、爆発と同時に走ることにして、ジムにも援護の合図を送った。

「行くぞ!」

 投げた手りゅう弾が爆発して白い煙が上がり、俺たちは岩場から飛び出す。

 しかし、どうしたことかジムの援護がない。

 乾いた岩場に、もうもうと白煙が立ち込めて敵の姿が確認できないが、それは敵にとっても同じ事。

 意外に上手くいきそうだと思った矢先、横に並んでいたゴンザレスが付いてこなくなったのに気が付いたが、今は構っちゃいられない。

 無事を祈るだけだ。

 煙が薄くなった左側から俺を狙う四人の敵の姿を確認し、応戦した。

 2人倒したところで、別の2人が岩陰に隠れて銃だけを出して滅茶苦茶に乱射してきた。

 左側の敵に応戦している隙に、右側からも少し離れて3人が俺を狙っていた。

 気付くのが少し遅れた。

“やばい!”

 そう思った瞬間激しい爆発音と煙が右側を遮った。

 ジムの放ったRPGだ。

 直ぐに左側の岩に隠れた敵に向かって手りゅう弾を投げると爆発音と共に、正面からの銃声は沈黙した。

 正面の岩場にたどり着くと、そこに2人の死体が転がっていた。

 おそらく最初の手りゅう弾で命を落としたのだろう。

 2門のRPGも、そのまま。

 まだ確認はしていないが、右側の3人はジムのRPGで、そして左側の4人は俺が銃と手りゅう弾で倒したはず。

 合計9人。

 ……1人足りない。

 俺の頭をかすめるように一発の銃弾が飛んだ。

“敵!?”

 振り返ると、伏せたまま銃を構えているゴンザレスの姿。

 銃口からは白い煙。

 背中を向けていた岩の上から、銃が落ちてくる。

 それは、上から俺を狙っていた敵の銃だった。

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