【現在、23時02分、ザリバン山岳地帯の高原】
どうやら機は胴体着陸に成功したらしい。
激しかった振動もようやく収まり、安全ベルトを外す。
立ち上がる前に、左側の男を見ると、居なくて空のシートだけがあった。
好い奴だと思っていたが、着地の衝撃で体ごと持って行かれたのだろうか……。
腰を上げようと力を入れたとき、体が痛くて前のめりになったまま暫く動けずにいた。
やがて俯いた顔の前に、グローブをはめた手が差し出され、見上げると左側に座って居た男が笑うような優しい顔で俺を見つめたまま立っていた。
「大丈夫?」
差し出された手を掴み立ち上がると、兵士としては背が低く俺と同じくらいだったことに驚いた。
月の光が差しこむ薄明りの中、あちこちで呻き声が聞こえる。
「僕はフジワラ。階級は伍長だから、軍曹の君の方が上官だね。あいにく僕の分隊長は死んだみたいだから、今から僕は君の分隊に入らせてもらうよ。いいかな?」
「俺には、部下はいない。分隊は持っていないんだ」
「ああ、特殊任務の人だね」
「さあ……」
特殊任務と言われても、俺はその任務の内容を知らされていなかった。ただ、この機に乗れと命令されただけ。
「とりあえず、生存者を確認しよう」
フジワラが、非常灯のスイッチを操作して機内がオレンジ色に染まる。
「ラッキー。バッテリーは生きているみたいだ」
フジワラと一緒に先ず状況確認をするために、機内を歩く。
オレンジ色の非常灯が、血の色を消してはいるが、目も当てられないほどの惨状がそこにあった。
千切れたワイヤーに切り裂かれ、体の一部分を失ったまま椅子に固定され残された体。
疲れ果てたように項垂れる兵士を揺り起こそうとすると、力なく垂れ下がった首が揺れる。
首が痛い。
もしもあの時、このフジワラ伍長にアドバイスされていなかったら、俺もこの兵士のように首が折れて死んでいたのだろう。
一番酷かったのは、真ん中の列に居た兵士達だろう。
彼等は、ワイヤーが切れて突っ込んできたシェリダンⅡにより、木っ端微塵にひき殺されていて、内臓と骨が分離して、人間であった原型を留めていない。
シェリダンⅡはコックピットすら破壊して、その先の原っぱに砲塔が無い状態で止まっていた。
そして、その周りにも何人も機内から放り出された死体が転がっている。
「軍曹!」
フジワラ伍長の声に振り向くと、彼の他に五人の無傷の兵士が居た。
意外に未だ生存者が居るかも知れない。
俺たちは、機内から放り出されている兵士達も含め、ひとりひとりを確認して回った。




