1-3.変態は初めての町に着きました
細分化前タイトル
『ついに始まった冒険』
初掲載 2018/07/22
細分化前の投稿文字数 20673文字
細分化2018/09/24
『プルミエルの町』
歩いては小休止を挟んでの繰り返しで数時間後。
どうやらこの世界の時間経過は地球と同じらしく、時の進み具合については太陽の動き方で掴んだ。
それで俺は時の流れを掴みつつ。
食事を済まし既に時刻は午後を越え、あと何時間かで日没となるであろう頃。
ようやく俺達は目的の町へと足を踏み入れた。
転生後初めてとなる町へ。
旅路で遭遇した行商人達に道を尋ねつつこの町の評判も耳に入れて、
「ここがプルミエルの町……」
聞いた評判としては町中を巡る綺麗な水が特徴。
水関連で農業が盛んな為か質の高い農作物が人気。
町の形はその川岸に多くの日本の家屋とはまた違う平坦な家が立ち並ぶ。
危険な夜を凌ぐ為にこれまで何度か立ち寄った前世で言う田舎の村々とはまた一味違う規模。
さらに町という以上、住民や商人など人の数も多く情報集めにも最適でそんな多くの人が行き来する場所だからこそ今後の冒険に耳寄りな話を聞けたら上出来だと……、
…………と。
遭遇した行商人に町の評判を聞き始めた時は期待していたんだが。
「…………まるで廃墟だな」
だが……現状は真逆。
全くといい程に違った。
位置の情報さえ無ければ場所を間違えたのかと疑うまでに、
「ええ、門番の人も言っていたけど……話通りね」
「ああ、これは……予想以上に酷いな」
町を見渡す中で俺は思い出す。
プルミエルの美点を教えてくれたその行商人が口にした話の『後半』を。
【それで……俺達の中でも評判が高いのよ】
……正直前半の話はそこまで重要じゃなかった。
それこそ初めに聞いた時点では胸躍らせて、町という新たな場所への到着。
まして町の事業が上手く回り繁栄している場所。
どんな人間がいるのか、武器屋やとかあるのだろうか。
他にも酒場に行けば、渋いマスターでもいるのだろうか。
カジノの様な何か娯楽施設はあるのだろうか。
もしくは意外とのどかな雰囲気に包まれ。
住民達が生き生きと生活しているのかも。
おしとやかな、大和撫子の様な可愛いモブがいるかもなど。
そういった絶えない勝手な妄想を抱く中で……そんな幻想を跡形もなく叩き割ったのが『この後半』だった。
【とまあ、以上がプルミエルの良いとこなんだが……】
本当にココこそが最重要であり。
押さえるべき肝心な点だったのだ。
だから俺は行商人との会話をもう一度思い返し。
目の当たりにする現在の町の様子と。
聞いた情報を照らし合わせる。
【お嬢ちゃんと……そっちのお喋り悪魔も。悪い事は言わねぇ、今はあの町に近づくのは時間の無駄だ。止めときな】
【えっ? どうしてですか?】
【俺もついさっき所用で立ち寄って、その惨状を目の当たりにしてきたからさ】
【惨状?】
【ああ、深くは知らんが、あの町にとって繁栄の生命線でもあった川がとんでも無い事になったらしくてな。そのせいで農作物は育たなくなり、仮に育ってもゴミみてぇな悪質な作物だ。一応必要な水は何とか工面しているらしいが……。まあ後はもし町へ立ち寄ったなら聞いてみるといい。俺は元々質の良い穀物を仕入れに行っただけで用が無くなっただけだからよ。何か事情があるなら立ち寄っているといい】
そんな行商人の男性に聞いた話と。
今俺とアナスタシアが見ている町の有様。
そもそも……よく考えればのっけから、町へ入った時点からも異様な点があった。
【あ? ああ、どうぞ……モンスター? 別にいいよ、通りな】
俺の姿が弱そうとはいえ悪魔と言う。
モンスターにも関わらず、全く警戒されない程に完全にやる気の失せていた門番。
いや……あれは、もうやる気どうこうでは無く。
無気力といった方が正しかっただろう。
座り込み、壁にもたれかかって。
まるで餓死寸前で動けないみたいな。
あとは衰弱するのを待つだけの様な悲惨とも取れる位だった。
そして……もう一つ。
「………………静かだな」
「そうね……川沿いの町の筈なのに」
聞こえなかった。
聞こえるべき筈の音が。
綺麗な川が大きな目玉である町にも関わらず。
その『川の流れる音』すらも何も聞こえなかった点から充分におかしかった。
「それに昼なのに、全然賑わってないな」
「ええ、本当に人が住んでいたとは思えない」
「まあ……でも……とりあえず探し回るか」
「そうね……人を探しましょう……」
そしてそれから俺達は門をくぐった場所より。
寂しさ残る町中へと、北から南へ往復する様に。
俺達は一緒に栄えていた頃の噂とは真逆のこのプルミエルの町中を探索して回った。
石造りで早々に足が疲れそうな道を踏んで。
町という大きな規模を象徴する程に幾つも並んだ民家。
住民の憩いの場だったであろう、ベンチが設置された広場。
商店街、暗がりになる細い裏道、他にも人が立ち寄らないであろう路地裏も。
その全ヶ所を躊躇う事なく探った……。
(まるでゴーストタウンだ……)
そうやって探索を終えた俺はそう確信し感じ取った。
自分以外の人間はいないのではと。
そんな誤解を招くまでの孤独感を味わうまでに。
「…………………………」
「…………………………」
町は……静寂に支配されていた。
賑わう人の声など一切無い。
活気にあふれる商人の売り文句も。
外で遊び回る子供の声も。
広場で腰掛け話をする大人達の声も。
……何も、聞こえなかった。
それこそ叫べば自分の声が山彦で帰ってくると感じる程。
肌寒さも感じるまでに人気が感じられなかった。
それどころか、町中を歩いている人間すら見かけない事も含めて。
「…………本当に誰もいないな」
「変な奴らは沢山いたけどね……」
対して、俺達が遭遇した人間で思い出せる奴らと言えば……。
【おや、まだ住人がいたんだね! どうだいどうだい? これ、私が朝一運んできた水一杯のタル! 水が一杯ね。作物育てるのに必要だろ? 今なら銀貨5枚にまけてやるよ!】
【ヒッヒッヒ……そこのお嬢さんと下僕悪魔さん……水……いるだろう。小さいけどね……この水瓶どうだい……今なら銀貨3枚で売ってあげよう。破格の値段だろ、ヒッヒッヒ】
【おい、そこのお嬢ちゃん。べっぴんだけど肌の保湿に水は欠かせないだろ? どうだいこの水入りの瓶、一本銅4枚で売ってやるぜ。ちと高いが、こんな干乾びた町じゃ高級品よ】
【けけけ、この壺良いデザインだろう。ある壺職人が特別にこしらえてくれたのさ。しかも今なら冷たくて、キンキンに冷えた水が詰まっているぜ。どうだい早く飲みたいだろう? 特別に金貨一枚で譲ってやるぜ。これでも良心的な価格なんだ……さあさあ】
ターバン頭に髭面の如何にも商人面のオッサン。
やたらと細身の怪しげな老婆。
他にも筋肉質な兄ちゃんやずる賢そうなチビなど。
水が枯渇している事を知り、暴利な値段で売りつけようと謀る商人ばかりだった。
だが……そうした迷惑な奴らと会う間で一つだけ。
今更ではあるが、とりあえず俺は金の価値について知れた。
(ええっと……確か、青銅、銅、銀と――)
アナスタシアから教わった話では、金となる硬貨の価値は五段階。
青銅、銅、銀、金、プラチナの順であるらしく。
それを今の日本円表記に表すと、こんな感じ。
青銅一枚が約十~百円。
銅一枚が約千円。
銀一枚が約一万。
金一枚が約十万。
そして滅多に出回らないというプラチナ。
それ一枚となんと約百万相当に近いという。
そんな青銅を含め非常に大まかではあるが。
こう記憶しておけば価値が分かりやすかった。
そして異世界でもプラチナって希少なんだなと。
やっぱりめっちゃ高いんだなと実感した。
しかし、こう考えれば。
確かに銅貨ですら数枚あれば小さな宿に泊まれる価値があるというのに。
一口で飲みきれる量しかない瓶と同価値の時点で、もう価格が完全に狂っているのだ。
「この町、大丈夫なのかしら……」
「残念だけど、物の価値が狂っている時点でもうダメだと思うぜ。もう長くない」
それはもう何処かの作品にあるみたいな。
地下世界での価格設定か! と呆れる程。
日本で例えるなら百円で買える炭酸ジュースですら安易に買えない。
買う為には野口英世を数枚か下手すれば福沢諭吉を要求されるとち狂いっぷり。
もし日本でこんな事が起こったら、国民全員尻尾巻いて逃げるわ。
速攻で国捨てますよ。
だからこそ……そう聞いて改めて容易に想像がついた。
こんな異常な高騰がまかり通っている点で破滅は免れないと。
そうしてこの町の寿命はもう長くないと互いに悟り。
残りの町探索を進めるのだった……。