3-12.変態は姿を眩ます事にしました
……別にだ。
映画に出てくる様なキャラであったり。
只の変態ニートだった俺には似合わない。
何処かキザでカッコつけて、もったいぶったテンプレっぽいセリフを言う性格じゃないんだが、
「ちくしょう……参ったな」
現状を言い表すなら、これが適切だろう。
良い報せと、悪い報せがあるんだが……。
お前はどちらから聞きたい? みたいな。
そんなシリアスシーン真っ只中にでも出そうな内容こそが、俺達を取り巻く現状の説明に当たる。
では……まずここは悪い報せからいこうかな。
【停止……停止……出力不足により停止。しかし、小悪魔と少女の姿インプット……データ送信……】
【戦闘データ……奇襲により解析不能。だが同機種への応援要請……送信に成功……ガクッ】
……ちと厄介な事になってしまった。
俺達は決して戦闘は望んでいなかった。
だが、結局のところ荒事になってしまった。
まだ入国して一日と経過しておらず、いずれ武器を交えるであろうその時まで隠れるべきだった。
敵の正体をしっかりとつかむ為の情報集めについても、まだ始まったばっかりだというのに、
「もうこれで敵側からすれば立派なお尋ね者ね」
「はあ、そうだな。マジで参ったぜ……」
国の警備を預かる機械の兵士。
敵側からすれば魔造兵って言うのか。
とにかくその兵隊を俺達は倒してしまった。
「ほんとどうしたもんかな……まだ一日目だぜ」
「まあまあ……それでも私達は何とか、追われているあの人を助けられたんだし、文句言わない」
だから、そんないきなり幸先不安もいい所。
思わずため息が漏れる状況に突入したわけだ。
だが、……こればかりは。
この結果についてはアナスタシアの言う通り。
この戦闘ばかりはやむを得なかったんだ。
何故ならもう少し遅れていたら、眼前で人が殺される可能性があったかもしれなかったからだ。
だからこそ、助けざるを得なかった……。
「危うい所……ありがとうございます」
「いえいえ、気にしないでください」
「本当にご迷惑をおかけしてしまい……」
「まあまあ、私の仲間もああ言っているんだ。それに、私達は自分達の判断で貴方を助けたんだから、あまり気に止む事なんて無いのさ」
俺達が増援を警戒している背後で。
女性は何度もそう向け感謝してくれていた。
追われる理由こそ、まだ不明だった訳なんだが。
必死に逃げていた彼女は体力の概念が無い魔造兵との差で、最初こそ速度を維持していたようだったが、やがてその体力が底を尽いてしまい減速。
俺達が追い付いた頃には兵士達によって囲まれてしまい、このままでは最悪の事態になると判断した俺達は続けて魔造兵達と戦ったのである。
「悪魔さんも本当にありがとうございます」
「ははははは、まあ……助かって良かったよ」
……と彼女は懸命にそんな感謝の言葉をかけてくれたんだけど、俺は自分の足もとに倒れている兵士の姿を見ると、どうも素直には喜べなかった。
別に敵を傷つけてしまったとか、優しさにあふれた聖人のフリをするつもりなど更々無いが、問題だったのは【応援を呼ばれた】事にあるのだ。
(くそ……本当に参ったぜ)
さらに付け加えるとするなら【目撃】された。
この目撃情報を連中は共有しているのか、停止する直前に言い放った言葉が、さっきのアレだ。
まだまだ異変の情報集めに国中を巡らなくてはならなかったというのに、これじゃあまともに外すら動けなくなってしまったわけだ……。
「じゃあ、いきなりですまないが……」
「はい……分かっています」
だが……そんな。
この国に潜伏するチャンスが潰れてしまい。
窮地に立たされていた俺達だったんだが……。ここで一つだけ【良い報せ】があったんだ。
「これは一体どういう事なんだ?」
(まあ……こればかりはとんだ偶然ってやつだな)
その良い報せとは……。
「貴方達は確か《神隠し事件》とやらで行方不明になっていた筈では……ブライト婦人」
(まさか……こんな所で見つかるなんてな)
そう、今エリスが発した名前。
そのブライドという名前はエリスの父親がいつも依頼を出していたという武器職人の名だった。
けれども彼女の話通り、神隠し事件という職人や国の住民達が消えていくという中で、彼もまた同じ様にこの国から姿を消していたという訳だ。
「ええ……その事についてなんですが……」
だが、運よく俺達はこうして出くわした。
ブライトさん本人ではないが、その奥さん。
旦那さんと一緒に行方不明になっていた筈の人物、遭遇できた事こそが唯一の救いだったんだ。
「悪いが、俺達にも教えてくれないか?」
「……私達は知らなくてはならないんです」
だからこそ……俺達は知りたかった。
この国で一体何があったのか。
産業も発展し一見華やかに見えるこの国。
このガンテルツォの裏で何が起こったのか。
それを俺達は知りたくて、彼女に情報を欲した。
「……この者達は私が信頼する仲間だ。決して公表したり、貴方の迷惑にならないと約束しよう。このエリスの名前にかけて誓う。だから教えてくれ、この国に貴方達に何があったのか。何故姿をくらましていたのか。それを教えて欲しい」
「………………………………」
すると……やはり入り組んだ事情であり、決して表には出せない、ばれてはいけない様な情報だったのか、ブライト婦人はそう沈黙を挟んだ後。
「……分かりました。お話します。古い顔馴染みのエリスさんの言葉でしたら、信用出来ます」
「申し訳ない、恩に着ます。ブライト婦人」
彼女が顔馴染みだった事が幸いしてか。
常連客であったエリスを信頼して、その質問に対して好意的な反応をしてくれた婦人は早速、
「では、まずは――」
そう口を動かし、俺達に失踪事件。
及び、この国で起きた裏事情について。
話を聞こうとした……その途端だった。
【見張り兵とのリンク途絶。返答無し。代わりに応援要請を受信。よって異常アリと判断。警備モードを変更、捜索モード及び戦闘態勢に移行する】
【80%の確率で犯人ハこちらにいる。探セ】
【見つけ次第捕縛スルのダ。それガ命令ダ】
「「「!?」」」
「くそ……もう嗅ぎつけてきたのか」
残念ながら……中断されてしまった。
まるで狙ったかの様なタイミングの悪さで、奴らが……【魔造兵の応援部隊】が、そんな物騒な任務内容を遠くで告げながら近づいてきたんだ。
ガシャリ、ガシャリ、ガシャリ……。
ガシャリ、ガシャリ、ガシャリ……。
そんな人の足とは全く構造が違う二本の足音を響かせ、金属製の両足が地面を鳴らす音が傍にある大通りの方角から複数聞こえ、次第にこちらへ近づいてきている様だった……。
「コモリ……このままじゃ」
「ああ、袋のネズミだ。この国の地形を知らない俺らが下手に逃げればあっという間に囲まれる」
「むむ……だがなんとしても逃げなくては」
ちくしょう……。
やっぱり応援要請は痛すぎた。
まして相手は統率が取れており、下手な揉み手など通用しない機械の兵士が敵とあれば、俺達の顔が見られたという情報も相まって厳しすぎる。
本当にどうすればいいんだ。
何かこの場を切り抜ける策は――
「皆さん……一先ず話は後です! 私について来て下さい。安全な場所へご案内いたします」
「「「!?」」」
と、俺は必死に逃走経路について。
何かアイデアは無いものかと思案。
この場を切り抜けられる最善の策は無いかと、懸命に考えを巡らせている最中に、
「安全な場所って……」
「……この国の【地下】です。ひとまず敵の目を掻い潜った後、道中で貴方達に全てをお話します! それでもよろしいですか?」
そう彼女は告げるのだった……。
対して、その提案は俺達からすれば天の救い。
ここで手をこまねいている暇など一切無い為。
これ以上町にいられなくなった俺達は、その魔造兵の追手から逃れるべく奥さんの言う通りに、
「ああ、分かったぜ!」
「それでお願いします」
「うむ。では婦人、案内を頼む!」
「ええ! ではついて来て下さい!」
今はその跡を追う事にした。