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3-11.変態が女性を追っている間に

 そうして……。

 国中を巡り集めた情報の交換をしていた三人。

 コモリ、アナスタシア、エリスが宿泊予定だった宿の外より、機械の兵士《魔造兵》に追われる女性を発見し、助けるべく慌てて追跡する中……。


 ガシャン、ガシャン。

 ガシャン、ガシャン。


 それは…………こちら側でも同様。

 時間の経過は誰も止められぬ様に動いていた。

 【敵側】でも同じく変化があったのだ。

 静かながらその裏で蠢いていたのである。

 

『【中央エリア】ガンテルツォ王宮』


 ガシャン、ガシャン。

 空間に足音が木霊し響き渡る。


 ガシャン、ガシャン。

 そんな重い金属が地を鳴らす。


 ガシャン、ガシャン。

 乱れる事無く、一定の間隔で響く。

 その足音が王宮の中で鳴り響く。


「お帰りなさいませ。このマシンレディ。貴方様のご帰還を心からお待ちしておりました」


 そして……足音の人物とは別に、その場で待機していた忠臣である黒い軍服の女性は、そんな足音を鳴らして近づいて来る人物に向けて跪くと、傍で丁寧に挨拶を告げた。


「うむ。ご苦労であった」


 対して音を鳴らしていたのは王……いや。

 現在このガンテルツォを制圧し、今も乗っ取ったこの国の頂点に君臨する将軍の帰還であった。

 《魔造兵軍団長》の称号を持ち、今もなお国中に兵を配する機械兵士の親玉にして、その頂点。


「ワシが不在の間も任務を全うしてくれた様で何よりだ。本当に助かったぞ、マシンレディ」

「いえ、私には勿体ないお言葉でございます」


 彼、トイ・ジェネラルもまた同じく。

 忠臣にそう労いの言葉を向ける。


「では、【例の報告】を聞こうか」

「…………。…………了解致しました……」


 するとトイ・ジェネラルは続けて尋ねる。

 その複雑に組まれた鋼の肉体には白の軍服。

 煙が時々吹き出る、縦に伸びる煙突型の頭部。

 最後に火炎兵器が搭載された大きな左腕という。


 そんな人間……いや同じ機械兵士の中でも異形。

 余りに飛び抜けた外見の彼は、忠臣に問う。


「どうかしたかね?」

「いえ……その……」


 しかし……その質問に対して、マシンレディは珍しくすぐに返答できずに言い澱んでしまった。

 さらに続けての二度目の言葉に対しては、少し躊躇うようにして言葉を濁してしまったのだ。


 何故なら……。


「申し訳ございません。奴は、オンロッドは……まだ口を割っておらず……その【工房】の場所は未だ掴めておりません……申し訳ございません」


 彼女は【その任】のみ達せられなかったから。

 捕縛した反乱者を拷問し、その残党の居場所。

 敵の秘密のアジトを突き止められなかった為。


 マシンレディは怯えた様子で震える唇で、将軍へ向けて恐る恐る報告する結果になってしまった。


「本当に申し訳ございません……貴方様より仰せつかった命だというのに……成果を得られず……」


 ただ震え、恐れる。

 殺されるとか、お叱りを受けるとかなど。

 そう言った罰の類を、彼女は恐れるのではなく。


 ……ただ呆れられ、見捨てられるのではと。

 ただひたすらに孤独を恐れていたのだった。


「そうか……やはり」


 だが……そういった心配事や恐怖。

 そんな彼女の怯えとは裏腹に、


「顔をあげたまえ、マシンレディ」


 トイ・ジェネラルはその失敗報告に対して不問。

 これといって別に激昂する様子など微塵も無く。

 まして成果の是非を問いただすような真似なども一切する事無く、憤る様子なども一切無かった。


 寧ろ、その報告内容が分かっていたのか。

 冷静にそう一言を返すのだった。


「何も……仰らないのですか?」

「うむ……あの者であれば仕方あるまい」


 けれども……その後。

 拷問の成果を得られなかった事について残念そうに煙突頭を前に下げ、沈黙と共に思案すると、


「……彼に家族は? 子供はいるのかね?」


 そう一つだけ、マシンレディへ尋ねた。


「いいえ……もう奴は孤独の身です。彼の妻と子供は流行り病でずっと前に亡くなったそうです」

「そうか……ならば決行・・するとしようか。正直、ワシとしてはあまり【この手】はリスクも考えたうえで好まないのだが……」


 するとトイ・ジェネラルは再び思案した後。

 反乱者の長である人物だったオンロッド。

 男性のその身辺情報を聞くと、


「ではマシンレディ……一つ命令を下そう。明後日に控える《ガンテルツォ建国日》の正午。オンロッドの公開処刑を執り行う……良いな?」


「……よろしいのですか? 殺してしまっても」


「うむ……ワシも奴の拷問の場面を見たが、あのオンロッドは情報を漏らすような男では無い。芯のぶれない人間とは死ぬまでそれを貫くのだ」


 彼女の問いに、その……人間の強さというのか。

 トイ・ジェネラルは機械の身でありながら、その厳しい拷問にも毎回耐えるオンロッドの姿に、ある種の敬意の様なものを向けてそう返した。


 そして……。


「だからこそ、同志を堂々と殺し、互いに引けぬ状態で残党を燻りだす方が、下手に拷問で殺してしまうなどよりはずっと効率的なのだ……」

「了解致しました……では早速手筈を整えます」

「うむ……任せたぞ。ワシはいつも通り、【箱の中】で戯れておる事にするからのう……何かあれば遠慮せずに呼んでくれ」

「はっ!」


 と、そう……闇の覇王軍の幹部である。

 軍団長トイ・ジェネラルはマシンレディにそう、潜む反乱分子をおびき出す罠として、オンロッドの処刑の公に、大々的に行う様に命を下すと、


(フォッ、フォッ、フォッ……待っておれ……皆。今ワシが戻るからのう……明るく出迎えておくれ)


 己の癒しであり、《心の拠り所》である。

 愛しく愛しくて堪らない、大切な友人。

 以前に巻き起こったガンテルツォの戦争。

 その大反乱の引き金にもなった……。


(心などワシには無い筈だというのに……胸が高まって仕方が無い……フォッフォッフォッ……)


 可愛い可愛い子供達・・・が待つ。

 《魔法のおもちゃ箱》がある部屋へと再びガシャンガシャンと足音を鳴らし、向かうのだった。



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