0-end.変態は英雄を目指す冒険に出ました
細分化前タイトル
『憧れが現実になった転生後』
初掲載2018/07/15
細分化前の投稿時文字数 13805文字
細分化2018/09/24
もう金輪際。
二度と悪さはしないからと懸命に彼女に許しを乞うた後に盗賊は場からすぐに逃げ去った。
鼻を垂らし、大泣きしながら、
「痛い……痛いぜ……うう、畜生」
股間を押さえて草原の中を駆けていった。
「さっきは助かった。俺の名は『コモリ』だ。よろしく」
まあ……そんなこんなありながらも。
邪魔者が消えた所で改めて俺達二人は話の腰を戻し、一先ずは自己紹介をする事になった。
因みに俺は日岐古守というフルネームでは無く、下の名前。
小さい頃から古守くんや古守ちゃんで呼ばれていたし。
現実でもわざわざ苗字入りで呼ぶ奴も……というか思いつく友達がいない。
まあ、だからこそ自分自身が聞き慣れており。
反応しやすい名で呼んでもらうべく、そう名乗った。
「私はアナスタシアって言うの。故郷の人達はアナって呼んでいたけれど、呼びやすい方でいいわ」
すると彼女はそう俺に名を教えてくれる。
ふむ……アナスタシアか。
えーと……前世で習った歴史とかでは……確か聖女様の名前だったけか。
ゲーム等の架空キャラクターの名前とかでは過去の歴史などに準拠した名が多いせいか。
何となくではあるがそんな記憶が残っていた。
「いや、アナスタシアで呼ぶよ。なんか新鮮味がある」
折角の幻想的な世界だ。
略さずにちゃんとその名を呼びたい。
というより……それよりも……。
(しっかり聞いとかないとな……)
そんなこだわりよりも先に。
俺は彼女に尋ねたい事があった。
「アナスタシア、助けて貰った直後で悪いんだけど」
「どうしたの? そんなに改まって」
「実はさ、色々聞きたい事があって」
自分でも質問攻めだったと反省はしている。
だが、やっとこうして落ち着けたのだ。
情報を集めなくては……。
「どうしてアナスタシアは冒険に出たんだ?」
もうこの際だ。
この世界の名称がどうとか。
一体、どんな国や町が広がっているのか今はひとまず気にしない。
どうせ一気に聞いても頭に入る気がしなかったしな。
だがそれよりも俺が気になったのは……。
「さっき自分の事を『勇者』って言っていたよな? それと関係があるのか?」
彼女の名乗ったその単語『勇者』について。
そして『この世界で何が起こっているのか』。
この二つだけは知識として押さえておきたい。
俺がゲームをする時と手法は同じだ。
どんな世界を探索するのかを調べて、没入する。
作品の世界観を自分の中で共有する事こそ、より臨場感などの味が増すというものだ。
だから、俺は尋ねたのだった。
「……貴方、本当に何処から来たの?」
すると彼女は常識を疑うようにして。
(うっ……そりゃあ、怪しむよな)
俺をまじまじと見つめて、不思議そうに言葉を洩らす。
でも死んだから、次はここで生きろって言われて。
人間から転生して悪魔になりましたあ。
なーんて答えたら、余計にややこしい事になる。
「まあ、俺にも色々あってさ。ハハハハハハ」
命の恩人相手に心苦しいが。
俺はそんなのらりくらりとした受け答えで質問を強引に躱そうとすると、
「……まあ、いいわ。教えてあげる」
多分彼女は違和感を拭えなさそうにしつつも。
懇切丁寧に俺へ詳細を話してくれた。
そのまず一つ目は……。
「実は私……世界を救ったっていう勇者の末裔なの」
「えっ!?」
アナスタシアが勇者の末裔だったという事。
話によると、初代勇者は、かつてその強大な力で。
世界を絶望に包み、支配と企む『闇の覇王』が現れた時。
それで早い話がそいつを撃退した者こそ、彼女の遠い遠い先祖だったらしい。
何と言うか……王道らしい設定といえばそれまでだけど。
実にハッキリとして、容易く頭に入り込んでくる話だった。
「…………という訳で、私は世界を巡る大冒険に出たの。本当に可笑しな話でしょ。昔から特別な力はあるって知ってたけど、まさか勇者の末裔なんてね……」
そしてもう一つ。
彼女が続けて語ってくれた。
冒険へ出た動悸について。
それは彼女が先日成人の年齢になった時の事で。
毎日通っていた教会からのお告げがあり、その内容はこうだったらしい。
『かつて其方の祖先と、集った仲間達の手によって消えた闇の覇王・デミウルゴスが手下を世界中に配し、異変を起こさんと画策し動いている。その間に奴は邪悪な力を蓄え、千年の時を越えて復活せんとしている。其方はそれを阻止する力と才覚が備わっている。アナスタシアよ、世界が再び絶望へ染まる前に阻止するのだ』
と、先にも挙げた闇の覇王という。
これまたラスボスらしき存在の復活。こちらもまた散々RPGを物心付いた頃から何度もプレイしていた俺にとっては、理解しやすい内容だった。
「皆も……このお告げがあるまで……誰も私が勇者の末裔だって教えてくれなかった。私の事なのにね……」
「……アナスタシア?」
そうして話が終わった頃。
ふと気が付くと、彼女は寂しげに遠くを眺めて……その綺麗な金の瞳からは涙まで零れていた。
「……あれ? 私いつの間に……泣いて……」
……他人に、ましてや今日会った俺に。
自分の腹の内を明かす事は勇気が相当いる。
当然だ。
知らぬ者に弱みや真実を教えるのは怖い。
けれども……そんな中でも彼女は優しく俺に教えてくれた……。
「グス……私の両親はね、物心ついた時からいなかったの。村の人によると遠い旅に出たみたい。でもそこまでで……理由も何も教えてくれなかった」
涙を抑えつつも。
彼女は教え続けてくれる。
自分の過去について、生みの親の顔も知らない孤独感を。
多分彼女は彼女なりに、勇者として明るく振舞っていたんだろうけど。
まだまだ可憐で弱みもある少女なんだ。
「それで世界の為にと私は一人で旅へ出たわ。でも一人旅ってこんなに寂しくて心細いとは考えてなかった」
だから俺はその言葉を聞いて……思った。
(……馬鹿か俺は。何で命まで救ってくれた女の子を泣かしっぱなしにしてるんだ。幾ら変態の穀潰しだったとはいえ……男だろうが……だったら……やれる事は一つだけだろ……)
寂しげに声を小さくして話す少女へ。
少しでも孤独を癒せる存在に。隣に立てる相談相手になれればと。
そうひたすらに考えた。
綺麗な君に涙は似合わないなんて。
そんな吐き気すら催す程の臭くキザな妄言を吐く気は更々無かったが。
俺は……正直に伝えた。
「アナスタシア……。ここで出会ったのもきっと何かの縁だと思う。そこで俺もその冒険に加えてくれないか?」
特に宛ても無かった転生生活一日目。
けれども! いきなりとはいえこれは運命的な出会いだ。
今は彼女に対して何の役に立てるか分からないが、とりあえず付き添い、その孤独を軽減でき話し相手位にはこんな畜生ニートでも出来るだろう。
加えて悲しいかな、現実世界で脳が腐る程やった。
このRPGの知識も役立てられるチャンスとも思えるし。
「二人で冒険すれば楽しさも倍増すると思うしさ!」
「いい……の? この先、もっと……それこそ死ぬ様な色んな危険があるかもしれない。それでもこんな私に付いて来てくれるの?」
すると彼女は涙を拭って。
目元を少し赤くしてそう尋ねてきた。
だが、勿論返答は既に決まっている。
「ああ、俺もアナスタシアを助けたし、そっちも俺を助けてくれた。もう俺達は立派な仲間だ!」
……まあ、本音としては。
美少女と共に冒険が出来る点で。
下心は無いかといえば嘘になるが。
俺はとにかくそんな大冒険に参加したかった。
だってラスボスだぜ。
カッコいいじゃん。
ワクワクするじゃん!
少年の憧れじゃん!
断る理由が何処にあるんだ!?
「ありがとう、コモリ! これからもよろしくね!」
思わず太陽と勘違いする程。
眩しい素敵な笑顔をアナスタシアは向けてくれた。
仲間が増えた事に相当嬉しかったのだろう。
だが……その無垢な反応からの行動はヤバかった。
(ええ!? これマジなの!? 本当に夢じゃないよね!? うひょおおおおおおおおお! 最高すぎる!)
思わず湧き上がる興奮を止められなかった。
なんと……彼女は嬉しさのあまりか。
俺をギュッと抱きしめてくれたのだ。
……もう堪らない。
この抱きしめられた時の柔らかさ。
若い女の子の良い匂い! 悶絶しそうになる!
余りの快感で失禁しそうになる。
糞ニートで女性とは無縁だった俺からすれば。
理想であり、手の届かない存在の二次元みたいな。
金髪、巨乳の美少女相手だぜ。
超癒されるわ。
興奮を禁じ得ないわ。
「へ……ぐへへへ……こっちこそよろしくなぁ」
対して俺の顔に関しては。
我ながらスゲェキモくて、やらしい顔だったと思う。
さっきの賊とどっちが変態か分からない程に……。
……こうして『アナスタシアが なかまに くわわった』。
いや、『子悪魔モンスター コモリが なかまに くわえられた』事で、俺の転生後の生活はなんと勇者との旅へと転じ、思わぬ大冒険に加わる事になったのだった。
閻魔様、本当にありがとう!
俺悪魔だけど世界救う英雄になります!
そう、この転生先へ送ってくれた。
慈愛に満ちていた閻魔様へ感謝の念を抱きつつ。
俺は彼女と共に旅路に就く事にしたのだった。
結局……彼が『送ってくれたであろう装備品』。
それについてはまだ確認出来てはいなかったが……。
まあ後回しにでもするとしよう。