3-9.変態はいきなりボスの存在を認識しました
【ほほぉ、コイツは珍しいお客さんだ。まあ、一杯飲みなよ、んっ? 何? この国で何か変わった事は無いかだって? そうだな……】
……時が経つのはあっという間だった。
元が糞ニートだったとは思えない位に。
俺は己に出来る事だけに視野を向け。
為すべき目的のみに集中し、ただひたすら。
【そうねぇ……私達はつい最近来たばかりだから、この国の情報は全く知らないわ……ごめんなさい】
【うーむ、変わった質問をする悪魔さんだ。いや、構わんよ、役立つかどうか分からないが。私の知る……観光客の間でも有名な話を――】
そう情報を収集する事にのみ徹し。
観光客であったり、住民であったりと。
めぼしい話を聞く為に躍起になる内に……。
気が付けば、集合時間である夕暮れへ。
「さあて……」
そうして情報を求めて国中を回り。
現在はすっかり日も落ちて迎えたのは夜。
広大さ以外にも人口のせいで、人の波に飲まれそうになったりした事でヘトヘトになりつつも。
「それじゃあ情報の共有をするとしますか」
新天地に到着して最初の夜を迎えて。
合流した後に、夜でも人賑わう住民区にある宿にて、見晴らしの良い二階の部屋を借り。
俺達は今日得た情報の報告会をしていた。
「そうだな、忘れる前に伝えておかなくては」
「そ……そうね……」
と……早速情報共有といきたかったが。
(ええっと、確か……二人はこのエリアで情報を集めていてくれたんだったか……)
俺は国のマップを一度見返して。
ガンテルツォの簡単な構造を思い返す。
……国の外からの確認出来なかったが。
配布された大まかなマップを見た感じでは。
この国には大きく分けると。
【六つの区画】に分かれており。
各々の名称と特徴を表して。
自己流に分かりやすく纏めるとするなら。
大雑把だが……こんな感じになる。
馬鹿でかい王宮が控えるエリア【中央エリア】
様々な職人たちが、多く店を持つ【北エリア】
汽車や駅、シェルターなどがある【東エリア】
工場や工房が乱立する産業区の【西エリア】
食料生産を担う国の台所と言える【南エリア】
……………といった具合で。
いずれも何かしらの特徴がある。
方角に分かれたエリアが存在し。
最後の【六つ目のエリア】については、今回俺が聞き回った場所である。
「じゃあ、とりあえず俺からで良いか?」
「うむ、頼むぞコモリ」
「お願いするわ」
「よし、じゃあ最初に話させてもらうぜ」
国の【外周部分】であり多くの民家が並ぶ地区で、呼び名は決まってないらしいが、ひとまず俺は【居住区エリア】と名付け。
そこで気になった一番の情報を。
「俺が聞いて回った話なんだが――」
仲間たちに話す事にした。
「聞いた中で一番大きい話題だったのが、国王って言えば良いのか。とにかく【国の指導者】が一年程前に変わったって内容の話だったんだ」
まあ……熱心に活動したとはいえ。
流石に体力的にも、時間的にも。
数百以上とありそうな民家の一軒一軒を、全て虱潰しに聞いて回る訳にもいかず……。
あくまで、俺が足を運んだのは観光客が非常に多い、人気の多かった宿や酒場であり。
他にも遊技場などの娯楽施設などを主にして。
「……それで以前の王様が変わったって話だった」
尋ね回った中でも有力で口にする人間が多い。
確実にして有益な情報を今こうして。
ベッドに腰掛けるエリスとアナスタシアに向けて語った。
「ああ、それか。私も聞いている」
「それなら、私も同じ情報を聞いたわ」
「あっ、やっぱりすか……」
……そうすると、ある程度予想はしていたが。
やはり噂になる分出回っていた話だった。
まあ……でも言ってしまえば当たり前だ。
俺がいた日本で言えば総理大臣、アメリカで言えば大統領の変更みたいなもんだからな。
それに国内であれば余計に認知度も高く。
知らない方がおかしいだろうしな。
「以前までの統治者だったカリバ―国王に変わって、トイ・ジェネラルという、国王様が創造された意思を持つ機械の人物に変わったという話だろ」
「しかも、今は国王が中々治らない難病に臥せっているから、その代行を務めているって」
と、二人は確認の意味も込めて。
俺が言いたかった話の詳細を。
内容の【半分】を言われた。
「ああ……そうだぜ」
そう、俺が聞いたのは。
その【統治者の変更】。
現在で14代目となる。
その【カリバ―という名の国王】から。
まだ姿を見ていない【トイ・ジェネラル】という。
機械で出来ているという風変わりな人物が。
難病に伏せる王に代わり国を治めているという。
そんな一風変わった情勢の動きが話題だった。
……しかし
けれどもだ……。
だからこそ……それ程認知度が高く。
「でも……これは知ってるか? 二人共」
「「え?」」
その為、俺は……そう一拍置いて最後に。
ある人物から仕入れたとても珍しく。
それこそ内容の【半分】に相当するであろう。
俺達の冒険に必要な【異変】について。
その片鱗となるであろう情報を告げた。
「実はその指導者が変わる前、【国内で戦争が起こった】っていう話だ。しかも戦ったのは、なんとこの国にいた【人間】と、【機械兵達】なんだと」
「「!?」」
……その二人の反応を見て。
知らない事がすぐに分かった。
だが……無理も無いだろう。
何故ならこの情報の出所はというと。
「どこで聞いたんだ?」
「ああ、それなんだけど……」
表に出ていないものなのだから。
注目が表に集まる程、裏の情報は出回らない。
それ故に……秘匿性が高い話だったのだ。
そして俺はエリスのその質問に対して。
「酒場のマスターだよ。と言ってもかなり歳食ってた老人だったけどな……特別に教えてくれた」
そう返した。
何でも……彼は先代の王が健在だった頃から。
この国に住んでいた人物であり。
勿論、話すとしても内輪だけに留めて。
観光客に情報を漏らさない事前提で。
俺は隠された国の裏事情を聞いたのだ。
その【国内で起こった戦争】についてを。
「何か【弱み】でも握られているのか……その人は多くは語ってくれなかったが。今、機械兵達が掲げているらしい【機械と人間の共存】という御誂え向きなお題目は、そのトイ・ジェネラルの指示らしい。だから……多分だが今回の――」
「異変の大元である魔物で、グランドストーンを所持している可能性がある人物っていうのが」
「その、トイ・ジェネラルという人物か……」
……まだ断定は出来なかったが。
推測や話から察するに可能性は非常に高く。
加えて以前に出会い、俺達がガンテルツォへ向かうきっかけをくれたモンスター【チクチクキング】との証言である。
《バイオウッド―君の話だと、結構前からそこに風変わりな魔物が現れたらしく、それからは雰囲気が変わったと聞いた事がある》
と、彼が俺達に向けた証言が。
この事実と合致する節がある。
「あのチクチクの王様が言っていた、雰囲気が変わったという事が合っていたとしたら……」
「ああ、多分、コイツが現れた魔物になるぜ」
「……これでいきなり敵の核心に近づいた気がするな……中々やるな、コモリ。おかげで私の得た情報の価値が薄れた気がするぞ」
「へへへ……まあ運が良かっただけさ」
(まあ、酒場の人がこっそり教えてくれなかったら、今も堂々巡りを繰り返していただろうけど)
……とまあ。
いきなりではあったけれど、こんな感じで。
まだ初日の夜というのっけから……。
今回の異変の黒幕に該当するであろう魔物で。
さらに聞いたマスターの詳しい話によれば。
襲撃して来た際に本人の口から聞いたという。
【魔造兵軍団長 トイ・ジェネラル】という。
如何にもボス的な名称を持つ敵の存在を。
俺達は認知する事になったのだった……。




