3-4.変態はオーガ族の美少女を仲間にしました
「と、前話が長くなってしまったんだけれど……私の名はアナスタシア。それでこっちの……」
そう掻い摘んだ俺達の冒険について。
ここまでの軌跡の概要説明が終わり。
童貞の俺は、生涯で初めて見た……。
いや、と言うよりかは……初対面でいきなり。
貴重な裸を見させていただいた。
「こっちのスケベで変態のダメ悪魔は……」
「はい……変態でダメな悪魔のコモリと申します」
その後ろに、赤く長い髪を結っている。
平たく言えばポニーテールをした女性。
その『ヒト』とはまた違う見た目をした彼女の。
「うむ、申し遅れた、私の名前はエリスという。オーガ属という腕っぷしに自信のある種族の出だ」
名前をようやく知る事になった。
その身長的にも見た目の年齢的にも。
……後はスタイルもとい……。
その寝巻の上からでも……充分分かる。
おっぱいの大きさ的にも。
アナスタシアよりも年上と思しき。
その少女はエリスと俺達に名乗ってくれた。
因みに種族は『オーガ』というポピュラーな。
まあ日本で言えば『鬼』に該当する種族であり。
ゲームで言うパワータイプに当たるだろう。
そして見た目としても発言に違和感なく。
その眉の上に生えている。
頭部の両角はまさにその象徴らしくて。
数や大きさで強さが比例するとかしないとか。
同族内でも張り合う奴がいるとかいないとか。
まあ人間で例えるなら女性で言う胸とかで。
男で言う所の、チン……いや、やめとこう。
とまあ、とにかく、そんな特徴があるらしい。
(アナスタシアもそうだけど……何だか『ヒト』以外の種族って新鮮だなあ……美人だし……)
まあ俺的には……そんな細かい点よりも。
腹の底を明かすと、割とどうでもよくてだな。
正直なところを言えば、今は深く気にせずに。
ただ、こんな新しい種族との出会い。
様々な人種が生きているこの世界において。
他種族と関わるイベントだけでも、大満足で。
非常にテンションが上がるものだ。
むしろ、折角の異世界なのだから。
『ヒト』ばかりとの交友も悪くは無いんだが。
俺としては異種間との遭遇の方が楽しい。
「……では……先程の話に戻ろうか」
と……ひとまず。
そんな俺達がこれまで見てきた町や国では。
一応、事細かに確認し無かっただけで。
実際はいたかもしれないが……とりあえず。
そんな初めて見るオーガ属の少女と。
こうしてバッタリと出会った俺達が……。
「え、ええ……まだ驚きばかりで。私としては今も信じられない所もあるけれど」
「俺もだぜ……まさかブリュンヒルデさんが一枚噛んでいたなんて、しかもこうして上手く出会えるなんて。ホント運命って侮れないもんだ」
何故にこうして。
彼女の寝床であるテント前にて。
中央にある焚き木で暖と明かりにしつつ。
町に戻らずに話をしていたかというと。
「頼む! 突然なのは承知だが……私を君達のパーティに入れてくれないだろうか! 君達こそ私が探し回っていた二人組に違いないんだ!」
それは、彼女に引き止められた為だった。
事の詳細については、今の発言が一部を物語る。
現在こうして深々と俺達に頭を下げる。
エリスに関しての説明を入れた方が早い。
まあ結論から先に言えば。
彼女は『ある人物』を追っており。
そいつに導くという俺達二人を探していたと。
それも別の大陸にあるという彼女の故郷から。
わざわざ遠路はるばる探していたのだという。
「君達の冒険。伝説に出てくる覇王デミウルゴスを追う旅についても了解した。危険が伴う旅に同行する事も。でも、私は何としても……『そいつ』を見つけなくてはならないんだ!」
一応、捜索中の苦労話とかについてだが。
こればかりは他愛無い話も多い点もあって。
かなり割愛をさせてもらうのだが……。
彼女は道中で腕の良い占い師の噂を耳にして。
俺達に冒険の道筋を立ててくれた、黒衣の魔女であるブリュンヒルデさんの元を尋ね。
件の探し人の件で占ってもらった所によると。
俺達と共に冒険する事が一番の近道だと。
世界を冒険し、さらに見分を広める事が重要だという結果を受けて、彼女は指示通りに動き。
俺達が立ち寄るであろうこのサイドの町で。
暫しの間滞在する様に言われたそうで。
こうして待っていたという訳だった。
「念のために聞いておきたいんだけど……エリスが追っているその人物ってのは何をしたんだ?」
そうして、俺はその経緯を聞いたうえで。
一つ質問を投げかけてみたんだが……。
「………………そ……それは……だな…………」
「うん?」
どうしたことか。
俺の質問にエリスは少しの沈黙を挟むと。
途中で口を紡いで、発言を止めてしまった。
よって……その人物については深く聞けず。
ひとまず教えてくれたのは、追うという目的で。
満足に人物の詳細等は一切教えてもらえずに。
まだまだ訳ありな節もありはしたのだが。
「……そんなに話すのが辛い事なのか?」
「ああ……。けれども……時が来たら必ず話す! それだけは約束する! それに我がオーガ属の誇りにかけて君達を命懸けで守る事も約束する!」
彼女は正直に。
疑いの目を向けられる前に。
はっきりとした声で俺の問いに返してくれた。
まあ……確かに……いつ訪れるとも知れない。
その『遭遇の時』を前にして、無理矢理に。
あれやこれやと深く尋ねた所でしょうがない。
だから『来たるべき時』に説明を貰おうと。
(何処の大陸なのかは見当もつかないけど……この少女も色々あって来たんだろう……)
そう相手の事を察し、不問にした。
それに…………今の『俺』だって。
彼女と同じような節があったし。
(俺も全てを話して、ここまで来たわけじゃない)
背中を預けてくれている勇者に『隠して』いる。
相棒には真実を教えてない。
別世界から転生して来たという事実を。
成り立ちを仲間に隠している以上。
決して偉ぶって探れる様な立場じゃない。
(誰だって隠し事の一つや二つあっても、おかしくない……ただ、その時が来たら話せばいいんだ)
よってそんな愚かな事はしたくなかった。
前世こそ只の糞ニートだった俺だが……。
今の性根的には行う気も更々無い。
だから、本人が話しやすくなるまで。
根ほり葉ほり聞こうとは思わなかった。
「だから、どう……だろうか。……ダメか?」
それにここまでの会話を通じても。
別段、俺達を騙す為に法螺を。
嘯いている様にも見えなかったし。
お尋ね者みたいな怪しげな人物とも思えない。
どんな家庭で育ったのかは知らないけれど。
育ちが良いのか話し方にも芯があったから。
俺から見れば真面目な女性にも見えたんだ。
だから俺は……あまり間を置かずに。
「俺は別に構わないぜ」
そう答えた。
…………後、偶然とはいえ。
裸を覗こうというノリならば何も感じないが。
覗く気無しで、その裸を見てしまったという。
恥ずかしながら、罪の意識もあった事だしな。
「それに、仲間って言うのは、多い方が絶対楽しいもんだしな。だから俺は歓迎するぜ、エリス!」
「本当か! 本当に良いのだな?」
「ああ、本当だ。いいだろ、アナスタシアも」
だから俺は彼女の頼みを受けいれた。
さらに隣のアナスタシアも同様に。
「勿論よ。これから宜しくね、エリス。同じ女性としてこれから仲良く冒険しましょう!」
どうやら彼女自身も疑う事なく。
そう快く歓迎したみたいだったので。
そのまま、俺達とエリスは仲間となり。
目的は違えども、最終的には覇王を追う。
これからの長い長い旅を共に歩む者として。
「じゃあ……とりあえず金欠気味だが。宜しく!」
「うん? ……金欠? 金が無いのか?」
「ええ……実は私達のお金はモンスターに食べられちゃって。まだ冒険再開の目処が立っていないの……だから今はクエストを手伝ってもらうという形になるけど、それでもいいなら……」
こうして俺とアナスタシアの冒険に。
新しい仲間となった双角携えたオーガ属の。
スタイル抜群の赤髪少女エリスが加わった。
「ふむ……成る程。しかし、冒険をする再開位の金であれば、ある程度、私が幾らか工面できるぞ」
「えっ、そんな……良いのかよ?」
「ああ! 構わないさ。長い旅になると思って、色々と蓄えを用意しておいたんだ。任せてくれ」
さらに、ただ加わるだけでなく。
丁度、金欠だった俺達を救ってくれるように。
助け舟を出してくれる彼女の厚意も相まって。
次なる目的地『ガンテルツォ』を視野に入れ。
「じゃあ、明日の朝、サイドの町で会いましょう!」
「それじゃあ、また明日会おうぜ! エリス!」
「ああ! それまでに荷物を整理しておく!」
その準備を整える為にも、一旦俺達は先に。
短い間だったが、クエスト関連などで世話になったサイドの町の宿に戻るのだった。
ああ……そういえば……。
本当に蛇足もいいとこの無駄な報告で。
マジで最後の付け加えにはなるんだが。
俺にエリスの姿を撮影する様に依頼した。
『~サイドの町、深夜限定の裏クエスト~
クエスト名 噂の『アレ』を撮ってほしい!
クエストランク【???】
依頼主 健全なお兄さん。
契約金 なし。
※但し、写し箱の破損時は弁償。
報酬 金貨三枚。
詳細 対面後、依頼者より説明
☆受注可能条件☆
特定の条件を満たした男性に限定する』
このクエストの依頼主である。
我らが『同志』のキモオタ兄さんはというと。
『今回のクエスト内容が両親にばれてしまった為。現在は家に拘束されています。……ですが、報酬金は家に来訪時お支払い致します。その際に写し箱は親に返却してください。依頼主より』
と……お粗末ながら。
運が良いのか悪いのか。
俺は酒場からそんなメッセージを預かり。
写し箱の返却をすべく彼の家に。
そして借り物を受け取る前から恐ろしい形相で。
怒髪衝天の状態だった『彼』の両親から。
写し箱の返却〈※すぐに破壊された〉と引き換えに、俺は金貨三枚を受け取るのだった。