3-2.変態がエロ目的で動く間に※挿絵有り
【貴方の追っている者は貴方一人の力では見つかりません。けれども貴方をその犯人の元へと導く者が必ず現れます。ですので今は待つのです】
……あの女性に占ってもらってから、今日で。
「ハア……もう夜になってしまったか……」
そう、だな……。
もう十日以上は経つだろうか。
占いの結果に導かれるようにして。
このサイドの町付近の地へとやって来て。
「本当に集中していると時間が経つのは早いな」
こんな人目から逃れる様な場所に拠点を置き。
寝床の確保が目的の為、簡素的ではあったが。
私は目的を達する為に住んでいたのだった。
「けれど……探して、戦って、寝て、起きて、また探して。この繰り返しを十日以上続けるのも飽きが回ってくるものだな……別に止めるつもりもないのだけれど……何か兆候が欲しいものだ」
そうやって……ここ数日の己が取ってきた行動を思い返し。
似たような事の繰り返しを行い続ける日々をの中で。
時間の経過を感じていた途中で……。
現在の私は何をしていたかというと。
脱衣の準備に取りかかっていた。
「まあ……とりあえず、今日も終わりだ。早く疲れを癒そう。汗でベタベタするのは気持ちが悪い」
私は度重なるモンスターとの戦闘の疲れより。
ため息を一つ挟んだ後に、そんな独り言を発して、身を守るために持っていた装備を置き。
「誰も……いないな?」
尚且つ人気が無いかを確認すべく。
一度周囲の様子を見回してから……。
続けて身に纏っていた衣服も全て脱ぎ。
私はその身を露わにするのだった。
「よし。では……早速入るとしよう」
そうやって念のため、今一度だけ。
私は周辺を見渡した後に。
汗にまみれた自身の体を湯気立つ泉へと。
その身を清めるべく、布を一枚持ち温泉に。
人里離れた場所にあり、夜は誰も立ち寄らぬ。
貸し切りともいえるこの秘湯に。
体を付けんと足を動かしていった。
「熱っ……」
……足先を付ける最初こそ少し熱かったが。
「フフ……慌てずにゆっくり……」
次第にゆっくりと、足先から太ももへ。
そこからは続くようにして、腹部、胸と。
下から上へと急かすことなくつけていき。
ほかほかと湧く湯へと、裸体を沈めていった。
「はあ……やっぱり、気持ちが良いものだな」
思わず声が漏れてしまった。
けれども…………始まりこそは熱くとも。
じわじわと体を慣らしていく内に緩和され。
「ふう……温かい……」
やがてお湯の熱さに対して気にならなくなり。
最終的には肩まで己が身を湯の中に沈めると。
ふと、私はその快感に感想を溢すのだった。
まあ……よそ者の私からすれば。
健康状態に回復基調をもたらす効能や。
もっと言えば名すら一切知らぬ謎の温泉だが。
「フフ。時には……こういったじっくりと身を休めるのも旅には必要なのかもしれないな……昔の父上も幼い私によく言っていたしな」
私をこうして安心させ、癒してくれる。
情報集めやクエストの受注から始まる朝から。
先程まで攻撃を交えていた、拠点周りに群がっていたモンスター達との戦いにて疲弊し。
一日で掻いた汗を流し、包み込んでくれる。
「思えば、今日は戦闘が多かったな。いくら力自慢の私とは言え、あの数相手は中々に厳しかった……」
流石に……『あんな斧』を振り回すとはいえ。
私だってもう立派な女性だからな。
衣服の清潔さについては勿論の事だが。
出来る限り体だって綺麗にしておきたい。
「だが……それにしても、いつまで……」
……………………………………。
………………………………。
……………………けれども。
確かに、こんな立派な温泉で。
尚且つ他者の目を気にする事なく。
ここまで落ち着き羽を伸ばせる場所であっても。
「一体……いつまで待てば」
例え体の不快感は取り除いてくれても……。
…………この頭の中を漂う。
思考の一部に靄をかける霧に似た。
「私はいつまでここに留まれば良いのだろうか?」
精神的な不快感、憤りに関しては流せなかった。
「……私にまだ待てというのだろうか……」
そうして……私は誰の耳にも届かぬ愚痴を。
湯に身をつけたままで、星輝く夜空を見上げつつ。
独り言を呟くと。
「あの人の言葉通りであれば、もうそろそろ……」
ある人物が向けてくれた助言を思い返す。
私がここに至る理由をくれた話についてを。
【では、早速おかけください。貴方の願うものの行く先を。その運命の糸を手繰り寄せるべく、このワタクシが占い、道をお示し致しましょう】
…………先日のことだった。
と、言っても十日以上も前の事なんだが。
私は巷で耳にした人物の所へ。
非常によく当たると噂のあった占い師の元へ。
名は確か……ブリュンヒルデ殿と言ったかな。
容姿端麗で、女性の私でも見惚れてしまう。
何とも気品に満ちた大人しい性格をした彼女を訪れ、私は今自国を飛び出してまで追っている『ある人物』の行方を占って貰ったんだ。
そうすると……。
答えはさっき私が思い返した。
湯へ浸かる前の内容と全く同じ。
【貴方様の追っている者は、貴方様一人の力では見つかりません……ですがその犯人の元へと導く者が必ず現れます。その者達と共に世界を巡るのです。さすれば旅路にて貴方様の探す人物と鉢合わせする事でしょう】
そういった内容の予言が下されたのだ。
私が『目的』を達する為にはどうしても。
何としても……その運命の人物と出会い。
共に冒険していき、協力しあう事こそが。
今の私に出来る事であり必要と告げたのだ。
【場所はこのフォレスタ地方から出ていった先、そう、恐らくサイドという町の周辺にて待つべきです。少し到着までは時間はかかるでしょうけれど、必ず、そこへ『その運命の二人』はやってきます】
だからこそ。
現在私はこの湯に浸かっているのだった。
待つべき者達がここサイドの町付近にて。
私が現在拠点を置くこの地域にて現れると。
ブリュンヒルデ殿は私に告げてくれたのである。
【……ですが……申し訳ございません】
ただし……その時彼女が占っていた水晶には。
【そのお二人の姿についてなのですが……】
どうやら容姿まではあまり鮮明には映らず。
くっきりとその姿が確認出来なかったようで。
「金の髪をした女性か。短髪だったり、元々の町の住人だったりと惜しい人はいたんだけどな」
聞けたのはある程度の見た目だけ。
私を救うという二人の内。
まず、その片方は長い金髪をした女性で。
年齢としては私と同じ位であり。
体形についても私に比べると。
少し胸が小さい程で殆ど似ていると。
色々な情報提供をしてくれた。
「でも……結構似たような人物って多いんだな」
まあ……けれども、実際の所は……。
提供されたその姿の情報については。
分かりやすいのか分かりにくいのか微妙な所で。
実際に条件にあった本人を前にしないと。
何とも判断が付けにくい内容が伝えられた。
【では、次はもう一人についてですが……】
そうして次は、残りの一人。
その女性と行動を共にする相棒について……。
一応、正直な所を言わせてもらうと……。
こちらの方がまだ分かりやすかった。
「確か聞いた限りでは、同種を見ない様な、とても珍しい新種のモンスター的な感じだったな……」
一言で済ませば、珍しい悪魔だった。
しかも、続く話によると。
対象となる悪魔はそこいらにいる様な。
誰もが目にする様な悪魔のモンスターや。
もっと言えば世界中に広まっている書物。
モンスター大図鑑にさえも載っていない。
【……という、世界中であればまだともかく、ここいら一帯では見かけない様な……とにかく聡明な貴方でしたら、一度見れば分かる筈ですわ】
私は水晶に映った姿を見たわけでは無いが。
その見た目こそ、弱そうな悪魔であるのだが。
他種を見ないモンスターの姿をした者だと。
私に見たままの情報を教えてくれたのだった。
【後、もしよろしければ……なのですが】
そうして……。
ブリュンヒルデ殿は占いを終えると。
私に向けて、最後に……一つだけこう告げた。
【もし、この女性達を見つけたならば、私の元へ案内をして頂けないでしょうか……その、何と言いましょうか、『ワタクシの探している女性』によく似ているのです……】
彼女も……私と同様に。
そんな人物を追っていたのか。
彼女も私について勘ぐりはしなかった為、こちらも深く事情を聞きはしなかったが。
もし遭遇したら一度自身の元に案内してくれと。
そう求められたのだった。
と、まあそうして少し長かったが。
要するにだ。
金髪の少女と珍しい小悪魔。
その二人との出会いを待つ様に。
その手がかりを追い続ける中で。
「あちこち探し回ったのにな……」
今日もまた…………。
その予言にあった二人組とは縁が無かった。
しかし……。
「いかんいかん、別にここで文句を垂れても仕方が無い事だ。それに待ち人とはなかなか来ないものだしな。慌てても良い事なんて何も無いからな、もう少し位腰を据えて待つのも良いだろう」
私は、そう頭に浮かぶ霧に。
成果を得られぬ不安に対して。
挫けぬように鼓舞する事により。
一時的なわだかまりに踏ん切りをつけると、
「さて、体中の汗も流せたことだ。今日はこれ位にして眠るとしよう! 明日の事は明日考える!」
心地よい温かさが続き。
若干だけだがのぼせつつあった中。
私は湯から身をあげたのだった。
すると…………。
その…………ほんの刹那。
まるで狙い打ったかの様に。
それは絶妙な瞬間であった。
「あー、もう。参ったぜ……ほんと」
まさに…………。
そう意気込んでより数秒後。
温泉からあがり、体を纏う湯を拭おうと。
その場から動いた途端の出来事だった……。
「全く……あの兄ちゃん、嘘ばっかりじゃねぇか。何処に赤い髪をした女性がいるんだよ……」
それは……。
今思えば、只の偶然だったのだろうか。
「あったのは無人のテントだけだしよ……守護する為の護符が貼られて……酷い目にあっ……た?」
「ッ!?」
「へ?」
それとも……。
今日の私が、単純に幸運だったのか。
「ななななな……なななななな…………」
はたまた……ブリュンヒルデ殿が告げた通り。
本当に、予言が引き寄せた宿命だったのか。
「いいいいいいい……こ、こんな……こんなとこに……本当に……本当にいた……あばばばば」
だが、まあハッキリ言わせてもらうなら。
今の私にはその区別は、その判別を。
判断を下す事はとても出来なかった。
ただ…………。
ただ、唯一。
「ええっと……えととと……どどどどうすれば」
たった一つだけ確実だったのは。
「あ、あ、あ……あのぉ……ち、違うんです」
(ま……まさか、こんな…………あっさり)
私が『それ』を目撃したという事だけだった。
そうだ、私はここでようやく……。
裸という少し恥ずかしい場面ではあるが……。
やっと、探し求めていた存在を発見したのだ。
それも、ここまで生きてきた中で見た事が無い。
幼い頃より受けてきた教育等にて同じだ。
興味を持って読み耽っていた書物や文献。
モンスターの図鑑にも載っていなかった。
「こ、これは……そのですね……ゴニョゴニョ」
そんな、見紛うこと無き特殊なモンスターが。
私の正面に見えていた木々の間から。
その枝と枝の隙間を縫うようにして。
「べべべべべ、別に覗こうとかって、思った訳じゃなくて……そそ、その……偶然って言うかこの辺を彷徨っていたらっていうのか……」
…………私の視界へと現れたのだった。
何故だか分からないが、写し箱をぶら下げて。
尚且つ恥ずかしがるように赤面して。
「貴方の裸を撮影しようとか……なんて……」
背中から生えている羽を動かして。
「この写し箱は…………あにょ……そにょ……」
その丸い胴体を浮かせながら、何やら弁明を告げていたが。
ひとまず、そんな些事は一旦捨て置くとして。
(……ついに私は見つけたんだ!)
とにかく、私はこうして出会う事が出来たのだ。
ここまで待ちに待った、運命の者と思しき人物。
二人組ではこそ無かったが、その相方を。
ついに、今日発見したのだった!