0-5.変態は助けられました※挿絵有り
細分化前タイトル
『憧れが現実になった転生後』
初掲載2018/07/15
細分化前の投稿時文字数 13805文字
細分化2018/09/24
とりあえず転生したてから色々立て込んでいたが戻って来れた。
見知らぬ少女を救って日が燦々と照り、温かい空気流れるこの草原へ。
少女を上手く先導しつつも俺は転生した地点へと戻って来れたのだ。
「ったく……こんな短足じゃ少し逃げるだけでも、一日の活動量を越えている気がするぜ。このおまけみたいな羽で少しでも飛べたら楽なのに……」
と、救い出した少女が息を切らし、一旦休憩を挟む合間に。
転生して体感的に一時間ほど経過した現在で、俺はこの子悪魔ボディを先と同じ池で再確認して、そう溢してみる。
前世では170程あった身長から。
今では見た感じで大体40位へ縮小。
さらに言えば体力だっていくら前世が引きこもりの畜生だったとはいえ、持ち前の足で走れるくらいの体力はあった。
それこそ一キロ程は余裕で走れる位に、
(でも、これに慣れないと生きていけねぇよな。でも生き物って小さくなると、ここまで移動に体力使うもんなんだな。まるで象から蟻になったみたいだぜ)
だが今はまるで環境が激変。
大股で一歩踏み出しても数センチしか進まない。
よって、前世と違って数メートル進むだけでも負担が何倍にも跳ね上がってしまっている。
要するに非常に効率が悪くなったという訳だ。
(勿体ないな。折角ファンタジーの世界らしく、こういう自然豊かな景色は綺麗なんだけどな……)
RPGでは、こんな草原のエリアにたどり着けば、恐らくその景色の壮大さ故に縦横無尽に駆け巡りたくなる感覚はRPGをした人ならば感じた事があるだろう。
そう、まさに今のこの光景の様に。
広大な青空の下で生き生きとその身を揺らす草花。
現代の様にビルや工場などが立ち並ぶ機械的・無機質な風景とは対称的な美しい自然がもたらす絶景。
重度のゲームプレイヤーだった俺から言わせれば。
今にも走り出したいとうずうずはするのだが……。
流石にこれ程広い場所を走れば体力が空になってしまい、さっきみたいな野蛮な奴の獲物になってしまうから自重せざるを得なかった。
「まあ……とりあえずさっきの少女の話を聞くか」
そうして駆け巡るのは早々諦め、俺は意識を景色から少女へ。
ついさっきまでは彼女の叫びで落ち着けなかったが。
一段落つき体力も回復した俺は、少女へ近付き、
「だ、大丈夫だったか? 怪我とかない?」
まだローブを脱がない彼女へ一声。
正面へと立って、座る彼女の顔を見上げるように。
その下から調子を伺った。
「ええ、ありがとう。でも、貴方はモンスターなのにどうして、この私を助けてくれたの?」
……思えば、この世界へ来て最初の。
初めてのまともな会話だった。
けれども……そんないきなりというか。
そんなド直球な質問は悪かった。
「え? ええっと……」
正直、返答にかなり困った。
理由は簡単だ。
俺はまだこの世界における生き物。
『モンスターの扱い』が全然知らないから。
君を助けたかったから助けた。
そう口に出来ればどれ程楽だったか。
けれどもそれでは悪魔のモンスター姿の俺が人間の彼女を救う理由には少し乏しい気もする。
「えっと……」
「?」
だから思わず言葉に詰まる。
影や身を包むローブで顔が隠れていて。
その表情が上手く読み取れないが……。
彼女は明らかに俺を怪しんでいるのだろう。
まあ、いきなりの出来事で無理も無い。
「ええっと……」
対して俺は、たじろぎ、まだ動揺する。
額から汗らしき体液が流れ、僅かに足も震える。
まさか人を助けたつもりが逆に疑われるとは。
とにかく上手い言い訳を……上手い言い訳を……。
「そ、そうだ! 君にとってモンスターってそんなに悪い奴なのか? 俺は最近ここへ来たばかりから、まだそういう所がよく分からないんだ」
質問に質問で返すなと怒られそうだが。
俺は焦る中でそう誤魔化し、彼女へそう尋ねる。
とりあえず、信頼も一切ない以上下手に刺激できない。
まずは相手のペースに合わせて聞くのが最善だろう。
転生の事など隠し事があり、心中で後ろめたさはあったが……、
「そう、貴方……まだ生まれたてなのね。ええ、そうよ。貴方達、モンスターの殆どは敵だと思っているわ。でもね…………」
すると彼女はその問いに答えてくれた。
しかも誤魔化しが上手く効いたのか、彼女は警戒を緩めると。
「フフ……」
(えっ!? えっ!?)
なんと『俺の頭を優しく撫で始めて』。
説明を続けてくれたのだった。
だが! それと同時に俺の精神はそれどころではなくなった。
(うわあ! 超やっべぇぇぇ、気持ちいい!)
一瞬その少女という癒し的な存在に。
優しく、頭を撫でられるその快感に意識が持っていかれそうになった。
(ハッ!? いかんいかん。しっかり聞かないと)
と、そんな中で何とか気を保ちつつ。
意識を戻して、撫でられながら俺は話を聞く。
「でも私は貴方みたいな優しいモンスターもいると信じているわ。まだ『冒険の始めたて』でちょっと緊張していたみたい。だから変な質問をしてごめんなさい。助けてくれてありがとう、優しい悪魔さん。あっ、そうだわ、こんな姿のままじゃ失礼よね」
と、彼女はそこまで口にすると。
名残惜しかったが俺の頭から手を離し、全身がよく見えるよう杖を持ったまま俺との距離を開け、
「それ!」
彼女は自分を纏っていた。
その茶のローブを勢いよく取り払い、俺に布の下に隠されていた姿を見せてくれた。
……すると!?
(うわっ!? えっ!?)
俺は自分の眼を、瞳に映る全てを幻と誤認した。
その証拠にはみ出んばかりに目を見開いて。
(えっ!? えっ!? これマジなの!?)
己を疑う程だった。
「? どうしたの?」
(今、俺がいるのは……異世界で……つまり夢では無くて、要するにこうして生きている実感があるわけで)
そしてその余りの現実にもう既に混乱。
自分でも今何を考えているか、理解が及ばなくなった。
(ま、待て。よし、一度頬を引っ張って、本当に質の悪い夢じゃないか確認しよう。それで覚めなければ……)
と、とにかくそんな中で俺は。
『心の奥底で湧き立つ感情』を堪えつつ……。
冷静に目を瞑り、燃え盛る精神を鎮める。
「あ、あれ? どうしたの?」
(まさか全部夢オチなんて無いよな……そんな訳ない)
一旦、彼女の良い体……もとい。
その姿を強引に記憶から薄れさせ、夢であった場合のショックに備える。
なあに……今までもしょっちゅうあった。
二次元の女性キャラといちゃついて親交を深め。
楽しく日常を過ごす様な、本当に都合のいい夢が。
(よし、頬は引っ張ったぞ。痛みもある。これで後は目を開けるだけだ。そうさ、糞ニートだった俺がこう都合のいい夢を見れる訳がないんだ。全ては夢さ。そうそう)
そんな自分の欲望が具現化した夢より起床する度に。
極度に俺は寂しい奴なのだと自覚する日々。
だからもう……覚悟は出来ている。
頬の痛みも感じている。
さあ、もう目を開けよう。
現実を見るのだ、俺、日岐古守よ。
そう俺はもうこれから何が起こっても。
騒がず落ち着くと決めて、真実の世界をと。
嘘偽りなき現実を確かめるべく目を開けた……。
すると……。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ええっ!? 何、いきなり!?」
やっぱり実在していたのだった!
……嘘です。
騒がず、落ち着く?
そんなの無理だよ、む・り。
もういてもたってもいられないよ。
こんな雄叫びを上げてしまうよ。
「ありがとぉぉぉぉ! 閻魔様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その瞬間。
まだ半日も経ってないが、何はともあれ。
この世界に転生してきた甲斐があったと、心底確信した。
もう騙されない、騙せない。
この悪魔の体に人間と同じ器官があるか分からないが。
俺の視界がそれを捉え、脳から発せられる信号が映し出す。
この映像には嘘偽りは一切なかった。
「ぐす、ぐす……おれ、おれ……生きてて……いや、死んで良かった…………もう俺、この世界で生きて行く」
まさに俺の望んでいたゲームやアニメの世界。
彼女の姿の特徴を端的に纏めるならこうだ。
輝く金髪ロング、しっかりとした胸、可愛い顔立ち。
服装も軽装で肩や胸元、足の一部も見えるのが最高だぜ!
「そ、そんなにじっと見ないで……何処か可笑しい?」
いえ、とんでもございません。
しまった、余りの出来事にジッと無言で眺めてしまった。
だが恥ずかしそうに顔を赤らめて肩を細める仕草もまた良い。
そういえば……これだけは注意しておきたいのだが。
俺は今、『全裸』だ。
モンスター姿だから、当然すっぽんぽんなのである。
(たまんねぇぜ……)
けれども大丈夫だ。
興奮はするが、この小悪魔には『無い』。
代わりに犬みたく、尻尾が激しく動き反応しているが。
まだ女性にとって衝撃的な『もの』が無い事に安堵する。
「い、いやあ、綺麗な人だなって思って」
「えっ!? もう……。変な冗談はよして」
そんな滅相もございません。
この彼女いない歴イコール人生だった俺に嘘など。
ましてアニメのお色気シーンとかに異常に興奮し。
夜も眠れなかったこの変態にとってこの出会いは至高だ。
「えっと……そうだな……君の名前聞いても良い?」
とはいえ、このままでは俺の観賞会になり話が全く前に進まないし。
この世界についても知る事が出来ないから仕方なく、俺はまず互いを知る為にそう彼女へ向けた。
「ええ、では失礼してお先に。私の名前は――」
そして彼女が自己紹介をしようとした時だった。
「おお……やっと……いてて……見つけたぜ!」
……残念ながら、その発言は最後までいかず。
途中で中断されてしまったのだった。
その理由はというと。
「やっと、見つけたぜ!」
「「!?」」
ごく単純だった。
俺達が逃げてきた森の中より。
まだ痛みが残っているのか、股を押さえつつ。
奴が……さっき彼女を襲おうとした賊の男が。
「その糞悪魔か……俺の急所を狙ったのは」
(くっ……)
運悪くも追ってきてしまったからだ。
そして同時に一瞬で場の空気が濁る気がした。
さっきまでのおふざけなど忘れるように。
俺は自分を睨みつけるその男の眼光に、僅かに怯える。
(畜生……もっと遠くに逃げた方が良かったか)
完全に振り切れたと高を括っていた……。
まさかここまで執念深く追ってくるとは。
「あやうく、あのまま痛みで逝っちまうかと思ったぜ。でも、まあ俺は生きている。次はあんな情けない負け方はしないからな……今度は人間様にたてついた事を後悔させてやる。お前に復讐してやる……」
……ハッキリ言うと。
先の戦闘はまぐれも良いところだった。
重くて森の中へ捨ててしまったが。
攻撃に使えた鉄の鍋があって。
加えて直前まで相手に勘付かれずに。
成功した不意の一撃必殺。
(もう、俺に勝つ手段は無い……)
そのミラクルが消えた以上。
逃げても速度的に捕まる為に。
完全に……万事休すと化してしまっていた。
(くそ……折角異世界に来たのに……)
そんな自分の中で。
この窮地を脱する手段が浮かばずに
微かな諦めが生じた最中の事だった。
「待ってください」
(えっ?)
互いに睨みあう一触即発という。
この半端では無い緊張感漂う中で、そう切りだしたのはなんと少女だった。
それも、先程までの弱腰だった時と感じが違う。
何処か決意めいた表情をしてそう発言したのだった。
「おっほぉ。おめぇ、さっきのお嬢ちゃんか。ローブの下は、えらいべっぴんだったんだなぁ……」
俺ももし人間に転生していたら。
こんな風に彼女に見惚れて、鼻を伸ばすだろうと。
変に気を紛らわす間も、彼女と賊の会話は続く。
「その小悪魔さんは私の恩人です。幾ら人とはいえ貴方の様な輩から私を守ってくれた優しいモンス――」
「だから、どうしたって言うんだ? 俺はこの糞モンスターを早くコイツをぶっ殺して、スカッとしてぇんだよ。どうせモンスターだ、殺したって誰の迷惑にもならねぇ」
すると彼女の発言中に男は割って発っする。
だがその言葉に正直、俺はぐうの音も出なかった。
そうだ、俺は確かにモンスターだ。
この世界でのモンスターの立ち位置は知らないが。
……少なくとも忌み嫌われているのだろう。
「むしろ、こいつの『コア』を売れば金になるし、引き取った換金屋もそれを素材に変換できる。だからこういう雑魚モンスターは俺様が引導を渡してやるのさ」
男はそこまで反論を連ねると。
腰の柄から先程脅しで使っていた大型ナイフを抜き。
俺の方へじわじわと向かってくる。
「そう……ですか……」
そうすると乱暴な物言いではあったが。
賊の言葉はあながち間違ってはいなかったんだろう。
少女はその場に留まると。
「…………天の…………我……に……」
何かに思い耽る様に瞳を瞑ると。
聞き取れない独り言をボソボソと発していた。
(くそ……折角、夢にまで見た二次元の様な世界に来たのに、ここで死ぬのか……)
逃げても、すぐに捕まって殺される。
だが、それでも。
「今、ぶっ殺してやるからな……待ってろよ」
(くそ……くそ……)
俺は……いや俺の体は本能的に生を望むのか。
相手の詰め寄る動きに応じて一歩一歩小さな足でジリジリと後退する。
「もう、あのお嬢ちゃんはどうでもいい。とりあえず今はお前だ。お前を倒して得た素材で良い酒を買ってやる。どうやらお前は見た事の無いモンスターの様だし、珍しそうだ。きっと良い金になるぞぉ」
対して、当然だが男の方が歩幅の差で早い。
だからこそたったの数歩で俺は男の巨大な影に包まれた。
……今だからこそ、小動物の気持ちが理解できる。
武器を持った巨人がこちらを見ている。
己を食らおうと寄ってくる恐怖感を……、
(怖いな……寒気もしやがる)
気が付くと体の震えが止まらなくなっていた。
前世では最近のギャグマンガでも早々見ない。
超ミラクルな死に方で、恐怖もクソも無かったが。
今は……しっかりと感じる。
確実な死とはこれほど恐ろしいものなのかと。
「よし、じゃあ最後に神様、いやお前の場合『闇の覇王』か? まあ、とにかく祈るといい、この哀れなモンスターをお救いくださいぃぃ!! ってな……」
だが、そうしてビビる間にもう眼前に迫っていた。
今度は影では無く、得物を振り上げる男の実体が。
「それじゃ……あばよ!」
そうしてもう逃げようとしない俺に向けて。
一撃で殺そうと、奴は武器を振り下ろした。
(閻魔様、ごめん。またお世話になります)
その瞬間、俺はあまりの恐怖から目を瞑った。
……次に目を開けたら、また地獄なのかな。
仮にまだ生きていたとしても……。
痛みという意識がある中で生きたまま。
今度は皮でも剥がされるのだろうか……。
まあ、とにかく『事が済む』まで。
俺は黙って、次に起きる瞬間の訪れに。
心底怯えていたのだった……。
…………………………………。
…………………………………。
…………………………………。
…………………………。
……………………。
………………。
…………?
(あ、れ?)
すると……不思議だった。
俺は絶望の恐怖から脳が麻痺でもしてたのか。
まるでその感触が無かった。
ナイフで斬られた痛みが。
その痛みから生じる苦しみが。
そんな感覚の両方が一切感じられなかった。
痛みも感じない程の一撃だったのだろうか。
(ゴクリ……目を……目を、開けてみよう)
俺は極度の恐怖から遮断していた視覚を蘇らせるべく。
恐る恐る目を開き、現実を確認する事に決めた。
ゆっくりと時間をかけて。
勇気を振り絞り己の瞼を開き。
外の光を取り込んでいく。
いきなりでは無く。
そっとカーテンを捲るように。
暗い部屋に外の日光を部屋に差し込ませる様に。
(また地獄なのだろうか……)
そんな事を思いつつ俺は目を開けた。
そうすると……。
「なっ!?」
この世界に来てからというもの驚きの連続だ。
悪魔のモンスターになった自分。理想の美少女との出会いと。
次から次へと新たな刺激が俺を感歎させる。
と……ま、まあ……とにかく。
現状で理解出来た事が二つあった。
「まだ……生きているの……か?」
まず、生きていた。
俺はまだ生きていたのだ。
さっきまで見ていた草原の風景も。
このマスコット的な愛らしい姿にも変化はない。
しかし本当に重要なのはもう一つ。
俺の眼前で生じている二つ目だ。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
動いていなかった。
いや、違う……『動けて』いなかった。
殺気だった表情で。
未だに俺へナイフを振り下ろそうとしているが。
賊の男は最後まで実行できていなかった。
何故なら……その鋭いナイフの刃は。
俺の眼前にて、距離としては後数センチ。
ギリギリの地点で止まっていたのだ。
「私はこれまでモンスターだけが悪だと信じていた。でもそれは私の勘違いだったみたい。モンスターにもその子みたいな良い存在もあって、逆に人間にも貴方みたいな悪人がいる。私は……私の信じる正義に従って、天より啓示を受けた『勇者』として貴方を敵とみなします」
聞こえたのは少女の声だった。
それも目を瞑った間になのか、俺の背後へ移動して。
彼女はその長い杖の先端を男へと向けていた。
「お、お嬢ちゃん……何をした?」
男は即座に自分の体が動かない事の原因が。
その少女にあると踏んだのか、冷や汗を垂らしつつ彼はそう尋ねた。
「貴方には拘束の魔法をかけたの。小さい頃から護身用にと練習して強くした甲斐があったわ」
どうやら相手が動かなかったのは、魔法の影響だったらしい。
確かに彼女の言葉の後に、よくよく見直してみると。
(男の体に……膜が張っている?)
その全身には光る膜が纏わりつき。
体の動きを制御しているのだった。
「い、いつの間に……魔法を…………」
(…………あっ、そうか! あの時か)
そして男の疑う魔法の詠唱の時は一つ。
この男がコアがどうとか言って彼女を黙らせた後。
ぼそぼそと独り言を言っている最中だったのだろう。
「お、俺は、た、助かったのか?」
「ええ、私は貴方を見殺しにしたりしない。だから安心してそこで終わるのを見ていて。この人には少し痛い目に遭ってもらうわ」
そんな、生きている実感がまだ湧かない中。
少女は言葉だけをこちらへ向けると、
「では、覚悟してください。大丈夫、ちょっと気を失う位ですから。今回は特別に一撃で許してあげます」
すると意識を賊へ留めたまま、そう告げる。
俺は最初、呪文を唱え攻撃するのかと考えていた。
だが……彼女の行動は。
「ま、まさか!?」
「フフフ……どうやら男性は『これ』が効くみたい」
俺はその動きを見て、攻撃を予測した。
持っていた杖をまるでゴルフクラブの様にして。
杖の先端を宙に高く上げ、大きく振りかぶると……。
「…………ごめんなさい。私はまだ戦闘慣れしていないので、こういう攻撃は卑怯だって、十分分かっているけど」
「ほえ?」
「『もう一回』泣き叫んでください」
あの構えは……。
杖の先が狙っている位置は。
「おい……まさか、やめろ……やめて、お嬢ちゃん」
男も流石に気が付いたのか、涙ぐみ始めた。
体が固定され、抵抗もろくにできない。
だが、その先端にある硬そうな珠の宝石が【命中】すると考えるならば……。
確かに痛みが蘇り、泣きたくもなるだろう。
「少し反省してくださいね」
グチャリ!
「うぎゃああああああああああああああああああ!」
何の躊躇もなく振るわれた。
少女は森での俺の攻撃を見て急所と悟ったのか。
賊の股間へ力一杯に振るった杖で潰したのだった。
そうして……今度は草原にて響いたのは。
また股間に痛烈な一撃をお見舞いされて。
痛みが再発した患部を必死に抑えて男が泣き叫ぶ声だった……。