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幕間-7.変態はチクチクの王から事情を聞きました


 揺れた。


「ホントォォォォにっっ!!!!!!!!!!! すまなかったあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


 ズドォォォォォォォォォン!!!!!!!

 ガタガタガタガタガタガタ!!!!!!!


 ……その瞬間。

 座っていた俺達の体は地面より僅かに浮き上がり。

 瞳が認識し、映っていた周囲の風景が。

 見えていた視界の全てが……揺れた。

 音か、衝撃か。

 どちらが先だったかは覚えていない。


 そして……。

 俺達と本人とその同族以外はというと。

 そんな馬鹿でかい大地の響きによって。

 周囲にいた野生の動物、眠っていた野鳥達。

 果ては狂暴なモンスターに至るまでが。

 睡眠という安息から、破滅の脅威に脅かされ。


「キゲギャアアアアアアア!!!」

「ホゲギャギャギャギャ!?」

「ガグゲギャギャ!!」


 ……もう、それは字面に表しても意味不明な。


 聞こえようによってはある意味断末魔みたいな。

 生き物が絶望の中でやっと絞りだした叫び声で。

 今までの生涯で聞いた事も無い程の悲痛な鳴き声を一斉にあげていき。

 その直後は我先にと俺達の目の前を群れで横切り、鳥たちは夜空の中を一斉に舞っていった。


 何が起こったか一切分からないが、とりあえず逃げねば死んでしまうと強迫観念に駆られんと言わんばかりにして、次から次へと、この村の一帯から逃げ去っていったのである……。


「んな!? ななななななななな……」

「あああああああああああ……ガタガタガタ」


 そうして、周辺の生き物が激しく騒ぐ中。

 俺達も同様に……そんなビビる声をあげて。

 大きく身を引き、こうしておののく。

 最早……慄かざるを得なかった……。


「むむう、また騒がしてしまったか……」


 まず開幕でチクチクキングが発したのは謝罪。

 だが、それだけでは別段慄く理由は無い。

 問題はその尋常では無い謝り方だった。

 ただ頭を下げるみたいな単純な行動では無く。


「ウニニニニ…………キュウ……」

「ウニュウ…………」


 それは最早同族ですら気絶してしまう程。

 最早……あれは隕石や流星の類と言ってもいい。

 天高く飛び上がってから、胴体の前面を大地へ叩きつけるなどという、規格外で余りにも馬鹿げた。

 ズドォォォォォォォォォン!!!!!!! と音をあげ。

 気を抜けばそれこそ意識が飛びそうなとんでもない音。

 大爆発でも起こった様な衝撃音を伴って、彼は『謝った』のだ!


「「ガタガタガタガタ……」」

「ふむ……どうやらその様子をみる限り、これでは足りぬか……ではもう一度……今度はもっと大地を揺らす事に意識を向けて、最高の謝罪を――」

「いやいやいやいや!! もういい! もういいから! 貴方の謝罪は身に染みましたから!」

「なぬっ……それは本当か?」

「はいっ! もう充分に満足しましたから!」


 だからこそ……俺は慌てて止めた。

 だだだ……だってよ。

 もう一回激しい地鳴りを起こされたなら……なんか世界が終わる様な気が……俺達の冒険が終わっちゃうよう な恐怖があったんだもん……。


「そうか……良かった……。何故だが知らぬが、以前迷惑をかけた他種族のモンスター達にこれをしたら、溜め込んでいた宝物や獲物を全て献上するから許してと……逆に謝られたのだが……あれは中々にショックであったな。『謝り方は間違っていない筈』なのだが……」


 間違っているから、みんな謝ってんだよっ!

 貴方がやったのはどう見ても謝罪じゃねぇよ!

 傍から見たら、それ、ただの脅迫だから!!

 これで許さなかったから、次はお前の国にこの謝罪もといボディプレスをぶち込むぞ! と。

 例え、そんな意思はこれっぽちも無くても。

 本能的に恐怖を刷り込まれる行為なんだよ!


「それに……あの時の表情は不思議だった。皆本当に許しを請うように泣いていたのである……我輩はあくまで和平を申し出ようとしたのに……」


 そりゃ当たり前だよ!

 誰だって眼前で大地震を起こされたら泣くわ!

 命の危機を感じて、屈服したくもなるわ!!


「まあ、とりあえず。謝罪を聞き届けていたのであれば、それで良いのである! では、ここからは和解の為の、お話としようなのである!」


「あっ……。はい……そうですね。お話しよか」

「ガタガタ……まだ震えが止まらない……」


 ……と、そんな余りにオーバーな謝り方に大きな衝撃を受けて、隣の相棒がまだ僅かに震える中。

 この王様の無神経というか天然というか。

 とにかくこれまた変わった人物と俺達はボケとツッコミ入り混じる茶番を挟んだ後に、ようやく、まともな対談を開始するのだった…………。

 俺達は彼の『流星の謝り』によりクレーターみたいな馬鹿でかい穴から視線を動かして、その黒いボディに再び視点を合わせるのであった。




「我輩が不在の間に起こった事を包み隠さず、先程民達より聞いた内容をそのまま話そう。始まりは、我輩が他種族の会談の為に国を出た直後――」


 そうして俺達は王の口から直接聞かされた。

 同族から、さっきまで尋ねていた事件の詳細、今回の狂暴化及び村を襲った原因についてを。


「それでな……我々は実は空気の変化とでも言えば良いのだろうか……環境の僅かな変化に左右されやすい節があるのだ。だから、こうなった……」

「なる程な……そんな事が……」


 その事細かに語ってくれた内容を要約すると。


 彼らは元々の生態情報にあった生息地どおり。

 モンターニャ地方という、多くの山に囲まれた地方にて生息していた彼らだったのだが……。


 住民達から聞いたところによると、王であるチクチクキングが国を離れて間もなくしてから。


 何やら……得体の知れない邪気を。

 僅かではあったが変な気配を感じ始めたらしい。


 当初こそは特に影響が無かったのだが、次第に感じ取っていた邪気が高まり始め、遂には精神に影響を及ぼし始めていった末に。

 それがストレスという形で現れ、遂にはこれ以上はヤバいと判断し、国を離れたのだという。


 けれども……。


 蓄積されたストレスは癒えず、狂暴性は維持されたまま、持って来た食料も底を尽き始めた事で、自分達の拠点より近いドイナカ村やその一帯をうろつき襲っていた。


 ……と、簡単に説明すればこんな感じ。


「今は、その……イライラはどうしたんですか?」

「うむ、もう解消したのである。我輩の持つ素質、特性である『王の器』のおかげで彼らのストレスは全て我輩が吸収したのである。だから今は我輩のこの最強ボディの中なのであーる!」

「えっ……それって、大丈夫なのか?」

「最強の王とは常に寛大でなくてはならぬのだ! 無論イライラを感じない訳では無いが、民のストレスを癒す為ならいくらでも犠牲になるのだ!」


 と、もう一つ付け足しさせてもらうなら。

 王という頼れる存在の帰還だけでなく。

 自分自身でも国民のストレスを解消するという、ある意味チートじみているというか、半端ではない性質により既に問題を解決していたのだった……。


(知り合いに一人は欲しいタイプだな……ストレス塗れの日本じゃ絶対重宝されるぞ)


 まさに王という大きな称号を背負うに相応しい。

 何とも……こう話してみれば良いキャラで。

 本当に器の大きなモンスターなのであった。



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