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幕間-6.変態は偉大すぎるチクチクキングと遭遇しました


「ウニウニ! ウニ二二…………」

「ふむふむ……成る程成る程」


「ウーニン! ウニィ!」

「そうかそうか……皆も大変だったのだな」


「ウーニュ! ウニュニュ!」

「うむ……我輩がおらぬ間に……そんな事が」


 先に結論から。

 俺達が相手にしたチクチクの強さについて。

 体感した強さを一言で纏めて言わせてもらうと。


「敵を見た目で判断して、舐めてかかるとこうなるんだな……えらく身に染みたぜ」

「ええ……私もそう思うわ……」


 割と強かった。


 黒い体毛に包まれた丸いモンスター、チクチク。

 見かけは何度も同じ例えになるが黒いマリモ。

 丸いボディに一つ目付けた単純なビジュアルで。

 その丸い体も片手に乗る程小さい事から。


 てっきり……俺は。

 そいつらを雑魚だと思い込んでしまっていた。


 けれども……。


 そんな慢心こそが今回の敗北の要因の一つで。

 確かに一体や二体程度なら問題無かったんだが。

 問題が有ったのは、まさに『その点』にあった。


 まあ仮に……増えたとしても。

 七~九匹……いや十数匹でもまだ何とかなる。


 だが……流石に数十匹……いや下手すれば三桁にも。

 百の位に到達しようという数で来れば話は別だ。


 現実的な例えで考えてみようか……。

 アリってメジャーな生物がいるだろう?

 一匹二匹なら全然大した恐怖心は無い虫だが。


 でも……もし。

 それが視界を埋め尽くす程いたら怖いだろ。


 さらにそれが仮に、大型のアリだったら?

 ……どう足掻いても勝てっこないだろ?

 あっという間に埋め尽くされて白旗。


(でも少しの増援ならまだしも、あんなに潜んでいるなんてな……正直見くびっていた)


 そんな、まさに多勢に無勢。


 アリでピンと来なければ他の例えとして。


 今や万人にも好まれ、俺も勿論大好きな。

 ゲームというカテゴリで例えるとするなら。


 序盤に遭遇する敵との戦闘が楽勝になり。

 イキがりそうになるであろうレベル5位で。


 急にスライム100匹が出てくるみたいな。


 それも連携が取れており、棘という火力持ち。

 それも復讐に燃える進化して現れたら……。


 加えて……これが、一段落し気を抜いた直後。


 よし、捕獲完了と胸を撫で下ろした瞬間。

 そんな気が緩んだ隙を狙い大量に湧かれたら。

 もう……厳しいという他なくなってしまうもんだ。


「……最初こそは上手くいっていたのにね」

「はっはっは……そうだよな。あと少しで依頼完了して村に戻れると思っていた位だったからな」


 だから、その作業の序盤こそは順調に。

 罠から逃れた奴らを必死に捕まえていたのだが。


(ったく、眼前の宿で休めば回復出来るからって、調子に乗ってMPを全部使って、意気揚々と戻ろうとしたら突然エンカウントした気分だぜ……)


 そこからの戦況はさっき俺が思い返した通り。

 もうすぐ終わるからと勝手に意気込み。

 ラストだと勘違いし、全力を尽くした結果。


「でもよ……本当に驚いたよな。草むらからワッ! と一気に飛び出て来たもんな」

「そうよね、数匹が何十倍にも増えたもの」


 体力的にはカスカスになってしまった後半。

 乱入が発生したそれからの戦況はもうガタガタ。

 あの全員捕まえてやるぞぉぉぉ!!

 なんて……やる気に満ちていた前半の勢いが夢の如く。

 時間が経てば経つほど戦況はみるみる悪化していき。


 気が付けば、戦いで一番ダメな敵のペース。


 アナスタシアはくすぐり攻撃で……。

 乙女らしい良い感じの声をあげて……。

 ゴホン……ヘトヘトに疲れるまでに笑かされてしまい。


 対して俺については、彼らの口にしていた言葉の内容こそウニウニと、分からなかったが……。


(やっぱり、モンスター的のも襲うなら、若い女子の方が魅力的にみえるもんなのかね?)


 何となく、可愛い少女である彼女に纏わりつけなかったと、同族に対する嫉妬や羨みなど。

 そんな憤りを俺にぶつけてきたと思しき敵の激しい棘の猛攻から必死に逃げる始末と。

 もうその様子は誰から見ても劣勢で、ハッキリ言って質の悪いリンチみたいだった。


「くそー。それにしても、まだまだチクチクするぜ……もう大分落ちていったけどよ……」

「フフフ、私も厳しかったけど、くすぐりだけで済んで良かったわ。棘だらけはつらいものね」


 そうして敗北した直後の俺の全身はというと。

 先まで砂漠のサボテンも思わず二度見するだろうと思える程に全身を棘まみれに成り果てていた。


「全くだぜ……でもあんなに顔を真っ赤にして可愛い声まであげて、途中から悶えるくらいなら……くすぐりも中々……きつ……インッ!?」

「…………忘れなさい、いいわね?」

「いてて……お前、事あるごとに人の頭ぶつなよ。いくら丁度いい位置にあるからってさ。ツッコミが毎回同じって言うのも、つまらないもんだぜ」

「ゴホン! さあ、傷の話に戻すわよ。きっと、もう少しで完治するわ。回復の魔法をさっきかけたし、『彼』が言った様に棘も落ちていってる。だからまあ、かゆみについては薬でも塗りましょう」

「そうだな……確かに大分マシになってるしな」

(チクチクする痛みはお前の拳で忘れたよ……)

 

 ……とまあ、そうして今は傷を癒しつつも。

 俺達がそんな茶番もとい、雑談を挟んでから。


 ………………………………。

 ………………………………。


 つい、さっきまで戦闘地帯と化していたここは。


 ………………………………。


 先までの騒々しさが幻だったかの如く。

 いつしかすっかり落ち着きを取り戻した中で。


「うむ! では両者の事情もしかとこの我輩が聞き届けたところで……話をしようではないか」


 そうして僅かに訪れた静寂を。

 安息の一時を終わらせるように話を。

 始めに言葉を切りだしたのは、『彼』だった。


 きっと、あのまま足掻いて続けても敗北の結果は揺るがなかった戦いにおいて、チクチク達の猛攻続く窮地から救い上げてくれたうえで。

 尚且つ一度頭を冷やして、状況を把握して冷静に話そうと戦闘そのものを諫めてくれた存在。


「今簡単に国民から事情を聞いたのでな……」


 見た目として、その…………。

 一言で言ってみれば突然変異体みたいな。

 確かに、チクチクと同じく黒い体毛こそ変わらないのだが、見るからに体格差が桁違いであり。

 子供達の下校中に大人を一人混ぜたみたいな。

 人間と言う種族名で縛れば同じなのだが、明らかに浮いて見えてしまう位の体の持ち主だった。


「一族の王を代表して、話をさせてもらおう!」


 加えて、人語と同族の言葉を解せる賢さを持ち、その如何にも王様ですよと言わんばかりの王冠を被っている、デッカイ『チクチクキング』と……。


「安心したまえ、何もしないのだ。君達と我輩は対等なのだ。だからこうして我輩は両者の意見をしっかりと聞いてお話をしているのだから」

「「ゴ……ゴクリ」」


 俺達はそんな相手を前にして唾を思わず飲む。

 しかし、この行動も無理無いだろうさ。

 それこそ踏みつけでもされたら、サンドイッチのハムみたいにペラペラになる事待ったなしと。


「「ど、どうぞ……よろしくお願いします」」

「うむ! こちらこそである!」


 仲裁に入った時はあまり感じなかったが。

 それだけ重量感を感じられる巨躯の持ち主である彼と改めて話をするのであった……。



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