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幕間-5.変態がボコられている間に


 そうして……。

 そんな国民失踪の経緯を辿ったうえで。

 我輩の回想は終了し。

 話は現在へと至るという訳である。

 一応深い事情までは伺えなかったのだが。

 この我輩自らが突如姿を消し、避難したという、愛する民達を探しているという事なのである。


「ぬうぅぅぅ……まさか国民たちがこんな平地の方へと避難しておろうとは思わなんだな……外せぬ会談だったとはいえ、皆は無事なのだろうか」


 国へ帰る際に通った山道を降りていき、平地へ。

 それからは、持っていた地図と土地勘を頼りにしていき、我輩は何度か立ち寄った事がある町。

 プチゴーレム君の伝言にあった『サイド』へと。

 かかった時間としては……そうであるな……大体数時間程経過してしまったであろうか。


「スンスン……こっちであるか?」


 補足として予想を超えた時間の経過としては。

 主な原因は道中で遭遇したモンスター達だった。

 まあ見事に全員コテンパンにしてやったが、狂暴な事で知られる牛型をした、あのブルホーンの群れに襲われなければまだ早かったであろう。


「おおっ! 匂いが近くなってきている。どうやらこっちの道で間違いないな……よしよし」


 それで、そんなこんなで時間がかかってしまい。

 目的地へとたどり着いた後の。

 即ち、まさに今の我輩の行動はというと……。


「スンスン……スンスン……」


 とにかく、そこいら中を『嗅いでいた』。

 我らチクチク族だけが認識できる『独特の匂い』を頼りにしながら、慎重に歩を進めている。

 満天の星煌めく、この夜空の下を彷徨っていた。


「スンスン……次は、あの草陰から匂うな」


 己の持つ嗅覚の全てを生かして。

「スンスン……スンスン……次は……」

 同族の痕跡と辿るようにして我輩は探す。

 香り残る地面、草むら、木、岩に至るまで。

 我々が腰を落ち着かせたり、休んだりする場所を手当たり次第に嗅いでは、進んでいく。

 それをひたすら何度も繰り返していき。

 今に至るまでずーっと、追跡を続けていたのだが。


 けれども……。


「うーむ、段々と近くはなってきているみたいだが、どうも夜風に流されてしまっておるな……」


 残念な事に、幾ら偉大なる王の我輩でも。

 非常に腹立たしい事なのだが、天がもたらす自然の摂理には勝てない事だって勿論ある。

 今夜は特に、その勢いもあってか余計に。


「……恐らくあとあと少し……あとほんの僅かという距離までは来ている筈なのだが……」


 匂いこそ感じてはいるが、風で散ってしまい。

 匂いの元へ近付くにつれ、まるで分かれ道の如く様々な方角から匂い始めてしまい。

 とても順調とは言い難かった。


「もう後僅かの筈なのだが……如何せん見つからぬものであるな。敗北はあり得ぬが、下手に声をあげてこれ以上面倒な獣に見つかるのも厄介だ」

 

 しかし、それでも。

 その後少しで手が届きそうな距離まで進んだ所で我輩は一旦休憩を挟んでいた。

 全く、もうそろそろ見つかるであろうという絶妙な地点だというのに、まだ発見出来ぬとは。

「むむむ……こんな感触は久し振りである」

 何とも、もどかしい感触に襲われていた。

 それ故に。

「少し体でも動かして頭をスッキリさせるか……」

 岩場で休憩していた私は思わずクネクネと。

 身震いする様にこのカッコいい体を左右に身を大きく振って、気を紛らわそうと動き始めた……。


 ……とそんな折……。


『ウニ……ウニウニ……〈右……右から……が〉』


 うんむ…………?

 ……すると、我輩の耳に小さな刺激が。


 それは複数ある匂い立つ方角の一角より。

 ある一つの声が届いたような気がした。


 …………聞き違いだったなのか……いや!

 この我輩の耳が聞き違いなどする筈が無い。


『ウーニウーニ!〈いいぞ! もっとやれ!〉』

『ウニョニョニョ!〈棘だ! 棘を使え!〉』

「むっ! やはり間違いない!」


 意識を集中させ耳を澄ませると、やがて鮮明に。

 ハッキリと『同族の声』を聴きとったのだ。

 そしてすかさずに!


「やっと見つけたのである!」


 身を振るのを即座に止めて、乗っていた岩場から飛び降りると、我輩は未だ消えぬ声が次々に飛び交う方角へと、直行したのであった。




 そうすると……。




「ウーニ!(これでも食らえ!)」

「うぎゃああああああああ!! 痛い痛い! めっちゃチクチクする! もう止めてくれ!!」


「ウニウニ! ウニウニウニッ、ウニウニィ!〈おい手が空いてる奴ら! こっちの魔法使う女の子の体をくすぐって、技を使わせるな!〉」

「ウニウニ!〈了解!〉」

「キャッ!? こ……こら! ど……何処に入り込んでるのよ! 早く出ていきなさい……フフ……アハハハハハ! 止めて! くすぐったいわ!」


 我輩のキュートな眼に入ってきたのは……。

「おお……なんと嘆かわしい事だろうか」

 まるで、感情に突き動かされるようにして。

 幼気いたいけな金髪の少女と、悪魔の子供の二人に襲い掛かる国民の姿であった……。


 それも、圧倒的な体格の差があるとはいえ。

 明らかな数の暴力で攻撃を仕掛けていくという。

 傍から見ていても、思わず失望したくなる程の戦い方及び、大人しかった筈の性格が変貌し、すっかり狂暴となった哀しき同族達の姿。

 その現実を、我輩は目の当たりにしたのである。


「ウニウニィ!〈それそれ、もっとくすぐるぜ〉」

「や……やめなさい……よ……アハハハハハ!」

 

「ウニニッ! ウニンニ二ッ!〈よくも、俺達の仲間をあんなに捕まえてくれたな! オラオラオラオラオラ! トゲトゲの千本ラッシュだ!〉」

「ひいっ!? なんでアナスタシアはくすぐりで、俺に対しては棘攻撃なんだよ。あれか! 女尊男卑ってやつか!? やっぱりお前らも可愛い女の子が大好きなのか!」

「ウ二ニ二! ウニニンニ!(うるせぇ! 俺だってあいつ等が羨ましんだよ!)」


「むむむう……本当にどうしてこんな事に」

 ……まあ、まだ幸いだった所はといえば。

 別段血生臭い戦いには到底及んでいなかった事。

 少女に関しては、我ら一族が連携して使う十八番技『全身くすぐりの刑』で大いに笑っているし。

 棘千本から逃げ回っている小悪魔については、殺傷能力を秘めた毒棘が使われておらず、刺さっても痛みの後に、むず痒くなる通常の棘だった。

 だが……しかし、とにかくだ。


「ウニニッ! チクチクチクチク! ウニウニ!〈おい、お前達何をやっておる! 今すぐやめぬか! 後はこの我輩に任せるのだ!〉」


 幾ら戯れに寄った可愛げのある戦闘とはいえ。

 明らかに和やかとは捉えにくい雰囲気の為。

 我輩は彼らを統括する王として。


「ウニ!? ウニョ! ウニウニ!?〈えっ!? まさか、チクチクキング様ですか!?〉」

「ウニュ!? ウニュニョ!?〈何!? ついに我らが王様がお戻りになられたのか!?〉」


 そのいざこざを諫めるべく。

「ウッニウッ二! ウニニン二……〈ああ、そうだ。だから今すぐその二人を襲うのを止めよ。とにかく今は王である我輩にこの場を任せてくれ! 両者ともに話はしっかりと聞くから〉」

 己が巨体をドスンドスンと動かし。

 小さな地鳴りを起こしながら、近づいていき。

 一喝で制止させた者達全員の方へと向かった。

 こうして冷静に仲裁させようと謀ったのである。


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