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幕間-4.変態がモンスターと戦っている間に

 我輩は偉大な王である!!

 気が遠くなる様な遥か昔の時代にて。

 この世界にて生を受けてから、今の今まで。

 決して種を絶やすことなく残り続ける。

 逞しく生きてきた、我ら『チクチク族』。


 その中で、我輩はその頭目を務める者であり。

 一族最強に加え、王という頂点の称号を担う。

 この我輩こそが、『チクチクキング』である!


 先代の王より、その強さを認められてから。

 他の兄弟からも襲名されて、受け継いだこのキングという与えられた名に相応しい様な体格。

 同族でも多くの者が羨む、黒くふさふさとした立派な体毛に包まれた、猛獣に劣らぬ大きなこの体格も威厳を知らしめるための要素なのである。


 ……とまあ……こう誇示はしてみたのだが。

 実際の所は一部だけ違っており。

 丸くて小さい体が特徴のチクチク達の中でも、我輩は大柄に成長するタイプである特殊な王族の生まれである事も影響しているが……まあ、そんな些細な事は気にせずだ!


 他にだって特徴はあるのだ。

 人と言った他の生物から見ても、我輩が一目で王と分かる証拠は頭部にある装備品。

 この、とてもとても賢く。


 凄い我輩に相応しい、この頭に被せておる。


 光に当てれば美しい輝きを魅せる王冠であった。

 ここ数年は忙しく会えてはおらなかったが、友好的な人間達が我輩の為にと用意してくれた物で。

 王という偉大さを外見的に主張するにはもってこいともいえる、この太陽の如く煌めく冠こそ。

 今の我輩を王足らしめる象徴でもあった。


 そして……。

 しつこいながら……まだ最後に付け加えるなら。

 ただ王族の血統というだけで頂点に君臨するみたいな威張る事しか能が無い者とは違い。

 この王冠を被るに相応しく、民達からも慕われている立派な王様こそ、この我輩なのであーる!


 まあ要するにこうだ。

 デカい! 強い! カッコいい! 王冠!

 そんな要素に満たされていたのである。


【むむう……思っていたより遅くなってしまった】


 …………と、もっともっと長時間にわたり。

 次から次へと溢れ出る己の魅力を自覚し。

 話題を広げたい所だったが。

 ひとまず話を改めるとして。


 そんな偉大さのアピールをしたものの。

 これは……現在より前の事。

 時としては暮れ始めて間もない頃であった。


 その時の我輩は先の偉大な紹介通りに。

 己の余りの偉大さに感動を覚えつつも……。


【あそこまで時間がかかるとは。中々興味深い議論ではあったが……予想の数倍は伸びたな】


 一国を治める者としては。

 チクチク王国の統治者として恥ずかしい話で。

 別の大陸にて暮らしておる他種族の王との交友の為に、自国を一年程空けておったのであった。


 だから……だったのであろうか……。

 国事は一時側近に任せたうえで国を離れ。

 会談に集中する為と、一旦連絡を絶っていた我輩が長旅より久し振りにこの地に帰還した時には。


【今日は催し物がある日では無かった筈だが……】


 寄り道をする事なく、すぐさま故郷へと。

 可愛い民の待つ国へ戻り、門をくぐると。


【こう見ると何とも不思議な光景であるな……】


 驚くべき事に…………誰もいなかった。

 周囲を見回しても、何処にも見当たらず。

 大声をあげてみても木霊するのは己が声のみ。

 それどころか余りに静かすぎて。

 生活音らしき音すら一切聞こえなかった程だ。

 ……本来であれば民達からの歓声から始まり、王宮からの出迎えなどがあった筈だったのだが。


【明らかに異変なのである……】


 一体どうした事なのか。

 我輩を迎えてくれる国民どころか、住んでおる住民すら誰一人として存在しなかった。

 初めは、何かのサプライズかと前向きになったが、冗談にしては行き過ぎている節もあったうえ。


【別に戦いがあった訳でもなさそうであるし……】


 戦などの悪い方向に思考を移したとしても。

 国にはこれと言って襲撃された様子もなく。

 建物が崩壊した痕跡も見当たらなかった。


【うーむ、やっぱり何処にもおらぬか……】


 そうやって、我輩は状況確認を終え。

 廃村となった村を改造して創設されたこのチクチク王国を軽く一巡してきたのだったが。

 やはり……一匹の民も確認できずに終わった。


【ムッムム! 誰カ発見、誰カ発見!】


 ただ…………。

 たった……一人だけ。

 姿こそ我々とは違うけれども。

 民達の代わりに。

【オヤ、アノ大キナ体ノ方ハ……モシヤ!?】

 国民達の行方が分からずに、茫然としていた我輩を慌てて出迎えてくれたのは。


【ヤッパリ! 王様ダ! オ帰リナサイ。会談ノ為ノ長旅、オ疲レ様!】

「おおっ! 君だけはいてくれたのか!」


 その石で組まれた頑丈にして防御力の高い体を生かして。

 いざという時は我輩たちを守ってくれる国の門番であり。

 民達も信頼をされているプチゴーレム君だった。


「いやはや、久し振りだね。どうだい、ちょ――」

【王様、ゴメンナサイ。挨拶ヲスル前二聞イテ】

 しかし、我輩が彼との再会を喜ぶ前に。

 その発言を止められてしまった。

 そうすると……彼は、


【実ハネ、住ンデタ住民、皆イライラシチャッテ、コレ以上ハ酷イ事二ナリソウダッタカラ……】

 彼は我輩へ伝えるように民より託されたという。


【一時的二、ココヲ離レテ、今ハ、サイドノ町二降リテッタ……ダカラ、地図ノ、ココ避難場所】

 真っ先に伝えねばならぬ要件を告げていき、全く把握できておらぬ事情を教えてくれた。


【ふむぅぅぅぅぅ……イライラか……原因はよく分からんが、喧嘩でもしたのだろうか……】


 そうして我輩は民達の一斉失踪事件について。

 彼の口から簡単な概要を聞かされたのであった。


【ダカラ……王様早ク、行ッタ方ガ良イ。僕ハ……ココデ皆ノ帰リヲ、イツモ通リ待ッテルカラ】

【うむ、ありがとう。君も充分気を付けたまえ! 王であるこの我輩が責任を持って連れ帰ってくるからな! だから安心して待ちたまえ】

【ニコッ!】


 そうして国の入口を守護する門番らしく。

 非常に頼りがいがあり、王の我輩も認める。

 立派な心掛けを持つプチゴーレム君より。


【サイドの町であるな。では早速向かおう!】


 預かっていた同族からの伝言を受けてからは。

 急遽目的地を変更し、我輩は山道を下りた平地の方角へと向かって行ったのであった。



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