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幕間-3.変態は犯人を見つけました


 それから……。

 俺達が村長宅にて受注したクエストの内容を聞いて。

 彼の家を出てからはというと……。


【おやおや、貴方達がこの村を救ってくれるっていう人達かい? こいつはまた変わった組み合わせだねぇ。まああいつらは夜にしか来ないから、それまでゆっくりしていきな】


【村長から聞いたよ。アンタらがあのうざってぇチクチク達を追っ払ってくれるって。気を付けなよ、奴ら怒ると、体毛を針みたいにして体当たりしてきたり、飛ばしたりするからな。いてぇぞ】


【知っているかい? 実はチクチクって成長する時に脱皮するんだけど、その時の抜け殻が市場じゃあ結構良い値段が付くんだぜ。もし機会があったらで良いから、幾つか持って帰ってきてくれよ】


 件のチクチクが出没するという夜まで。

 まだ昼手前で余裕時間を持て余していた為。

 村の住民達と日常的な会話を楽しんだ。

 何気ない世間話もあれば。

 時々タメになる役立つ情報とかも。

 中でも夜に対峙するチクチクの新たな情報。

 抜け殻が良い金になるとかいう、村長宅で聞いた生態の話とまた別の内容だったりと。

 RPGロールプレイングゲームにとって常套手段の会話にて観光の名所や噂とか色々聞いた。


 あるいは……。


【はて……こんな石は見た事ねぇな……】

【ぐらんどすとーん? ああ、ダメダメ。そんな聞いた事も無い名前出したって、オバちゃんには分からないさ。昔宝石の加工やってた職人さんがいるから聞いてみな。あのオレンジの木の下さ】

【うーむ……こりゃあ……なんだ。確かにオラ、昔は宝石の加工をしていたし、石に関しちゃあ、それなりに知識はあるんだが……見た事ねぇな。ひょっとして新種のクリスタルか何かかい?】


 まあ、こちらについては空振りで。

 残念だが収穫は皆無だったが。

 グランドストーンの情報収集も兼ねて。

 村中を歩いて廻っていき時間を割いた。

 おまけにツルパゲ村長の善意により。

【いいのか、村長。飯まで御馳走になって】

【ハッハッハ! 良いんですよ。どうぞ遠慮なさらずに。こういった案件でもない限り客がないもんですから。どうぞ食べてください!】

 なんと食事まで御馳走になったりと。

 マジで至れり尽くせりなサービスを受けていき。


 色々と時間を費やす内に……。


「村の人と話していたらあっという間だったな」

「そうね。さっきまで昼ご飯を皆でワイワイとご飯食べていたのが嘘みたい。まだ味を覚えているくらいだもの。楽しい時は早く過ぎるわね」


 気が付けば日は暮れていき。

 今では月浮かぶ夜を迎えていた。

 それも、神経尖らせてモンスターを待つには勿体ない位に満天の綺麗な星達が輝いている。

 天体望遠鏡を持つ者であれば絶好の観測日和。

 キャンプとかなら盛り上がりそうな夜空の下。


「にしても……中々来ないな……」

「そうねぇ……『囮』もあるから、すぐ来るだろうって村長さんは言ってたんだけど、物音どころか他のモンスターの気配も感じないわ」


 俺達は村長の意向により。

 複数の罠が仕掛けられた村の端にある場所にて。

 身を隠せるような大きな岩の影から、対象のチクチク達が出没するのを首を長くして待っていた。


「それにしても、あの村長……一応被害を被っているのに、やって来たチクチク達はあんまり痛い目には遭わさないでやってほしいってか……優しんだか甘いんだが、分からないぜ」

「でも、村長さんの気持ちは分からないでもないわ。別に倒す必要が無いなら、無理な殺生は控えるべきだと思うし。私達だって強くなる為とはいえ、襲ってくるモンスターとかしか殆ど倒さないでしょ。それと同じよ」


 そう俺が愚痴を溢したのはチクチクの対処法。

 それは人が良い村長らしい撃退の手段だった。

 あくまでモンスターを追い返すか。

 降伏させて見逃すという意図で用意されたのは。


「ええっと、俺はアナスタシアと違って、敵が来たらこの紐を引っ張ればいいんだったよな」

「そうよ、出来るだけいっぱい捕まえてね」


 アナスタシアの閃光魔法を込めた護符と。

 傷つけず捕獲する為の網や。

 残るは自力で捕まえる為の蓋つきの籠など。

 殺傷を目的とはしない仕掛けや道具ばかりで。

 そんな何が何でも動きを封じる為だけに用意された罠を設けた場にて、

「お前も頼むぜ。しっかりと連中を閃光で怯ませてくれよ。でないと時間取られるだろうし」

「任せて。私のありったけの魔力を込めたんだから、なんならちょっとした猛獣でも怯むくらいよ」

俺達は待機していたのだった。


 一応補足としては上手くおびき出す為の餌というか、囮と使用しているのは今日収穫された作物。

 または相手の金品や光物を好むという習性を利用して、村長が持っていた宝石を設置した。

 まあ……正直な所。

 一粒一粒が小さいとはいえ、あの宝石を持って帰った方が絶対に金になると思うんだけどさ……。


「いい? コモリ? あれは囮なんだからね。もし盗んだりしたら、どんな目に遭うか分かるわね」

「お、おう……言われなくても分かってるよ。いつもみたいに浄化するとか滅ぼすとか言うんだろ? 勇者が吐くセリフとは思えないけどさ……」


 同じ岩陰に隠れているアナスタシアからそう物騒な言葉で釘を刺されている為、そうはいかない。

 それに、俺も冗談の一環として考えただけだ。

 加えて飯まで御馳走になっておいて、今更とんずらしようなんて外道行為は流石にしないさ。


 性根こそ割とひねてる事は自覚しているけど。


 これから世界を救う英雄目指すなら、今は冒険再開の為に頑張らなくては、と。

 こんな悪魔を仲間にしてくれた勇者様を失望させない為にも、俺は自分に言い聞かせるのだった。


 でも……マジで、この真面目さが前世にあれば、もうちっと、まともな人生を歩んでいただろうに。

 大学も中退せずに、ちゃんと単位を取り卒業。

 将来は立派な社畜として、社会という馬鹿でかい歯車を回す使い捨ての一ピースとして、絶望の日々を謳歌していただろうに……。

 何とまあ……勿体ない事だろうか。




 ……と、そんな皮肉と後悔の念に駆られつつも。

 退屈を紛らわす会話を何度か挟んでからは。

「ヘッ……ヘックシ! グムム、まだか?」

「…………クシュン……そうね……もう結構経っている筈なんだけど……そろそろ来て欲しいわ」

 さらに時間が経過し。

 見回すといつしか村中の灯りが消えていた。

 時刻は、住民達が全員寝静まった夜更けへ突入。

 耳には静寂の中で歌う名も知らぬ虫達の鳴き声。

 肌には夜風がもたらす肌寒さを感じ始めた頃。


「ねぇ、一応聞いておきたいんだけど」

「ズビビ……うんっ? 急にどうした?」


 視線はしっかりと罠の方向へ向けたまま。

 横で鼻水をすする俺に、アナスタシアは一つの質問を向けてきた。


「私が思うに今回のクエストの対象って……」

「ああ……アナスタシアもそう思うか?」

「やっぱり気が付いていたのね」

「そりゃ……まあ……似た被害受けてるからな」


 すると彼女も。

 俺が感じた既視感を覚えていたのか。

 その問いの中身は今回の対象についてだった。

 それも俺が村長の話を聞いた時に、ふと脳裏に浮かんだ疑念と全く同じ内容だった。

 そう……似ていたのだ。

 俺達が先日出くわした奴らの行動と。

 だから俺は相槌を打つ様にして。


「多分……アイツらの様な気が――!?」


 口を動かしたのだが……。

 最後まで返答する余裕は無かった。

 何故なら……。


 ガサガサガサ……ガササササ。

 ゴソゴソ……ゴソゴソゴソと。


「どうやら、やっと来たみたいね」

「そうみたいだな」


 生い茂る草の影から物音が聞こえたから。

 気が付けば癒しだった虫の鳴き声も消え失せ。

 緊張感増す静寂が再び戻った最中に。

 草むらを揺らす者が現れたから。


 そして……案の定というべきだろうか。


 ガサガサガサ、ガサガサガサガサ……。

 ゴソゴソゴソ、ゴソゴソ……。


「おいおい……やっぱりかよ」

「本当に見つかって良かったわ……」


 瞬間、俺達の憶測が確信に変わった。

 音はやがてハッキリと聞こえる距離へと近づき。

 最後に揺れていた幾つかの草むらからは……。


「ウニ? ウニ二……ウニウニウニ」


 情報通りに複数で出現し。

 群れを為して現れてきたのは紛れもなく。

 昨晩、宿に泊まっていた俺達の寝込みに襲来し、挙句の果てには金を盗んでいきやがったアレ。

 そう、この村を脅かしていた『チクチク』とは。


「ウニ二……ウニニニニ」


 俺達の目撃した黒いマリモみたいな奴だった。

 ウニウニ……と一風変わった鳴き声に加えて、その小型の真ん丸ボディに目玉一つという。

 ツルパゲ村長の言葉通り、一目で分かるデザインのモンスター達なのだった。


「おっしゃあ! じゃあ、早速やるぜ!」

「ええ! ここで再会したのなら何としても捕まえて、盗まれたお金を返してもらいましょう!」


 そして!

 目標もとい泥棒を見つけてからというものの。

 俺達が取った行動は。


「おーら、よっと! チクチクの収穫祭だぜ!」

「えっと、護符に魔力を込めて! それっ!」


 バサササッ! バサリッ!

 カッ! ピカッ!


「「ウニニニニッ!?」」

「「ウニ!? ウニウニ二二ッ!?」」

「「「「ウニャニャニャニャ!?」」」」


 すかさず罠を発動させたのだ!

 まずはアナスタシアが放った護符から放たれた閃光で、その一つ目を眩まし。

 続けて俺は上もしくは下からは、事前に仕掛けた大きな網で、まるで小魚の収穫みたいに。

「おお! 予想以上に上手くいったな!」

 連中が固まった時を狙い、捕獲していった。


「ウニャニャ!? ウニャニャ!」

「「「ウニ二……ウニィ……」」」

「「ウニュニュ……」」


 そして……罠が無くなった段階で。

 小さなモンスターでも逃げられぬよう、細かい目で編まれた網に捕えたチクチクはそのままに。

 後は残りの閃光に怯んだチクチク達捕獲へと。


「よし、突撃だ! 残りを全部籠に捕まえろ!」

「ええ、任せて!」


 自分達も被害に遭った犯人が見つかった事で、クエスト受注前よりも俄然やる気となり。

 まだまだ数は多かったが、残党達も捕えるべく俺達は畳み掛けるように向かったのだった!

 


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