表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/62

幕間-2.変態はクエストを改めて受けました


「この度は村長の私が依頼しましたクエストを受けて頂き、誠にありがとうございます! 何卒っ! 今回はっ! ワシ達の村をっ! 助けてっ! くださいっ!」


 近い、近い、近い近い近い!!

 近いよ! 村長さん。

 発言毎に前へその顔を近づけてくるの止めて。

 美少女の顔なら嬉しいけど滅茶苦茶怖いから。

 いきなり中年のオッサンの顔のどアップなんて、アニメだったら開幕で電源消るからな!

 それに禿げ頭から反射される光も眩しいから。

「ち、ち、近い…………近いよ、オッサン」

 その余りの熱気に堪らず俺がそう告げると、

「おっ、おお! これは失礼致しました!」


 村長の男性は俺から何とか離れてくれた。

 …………ていうか以前の町の長もそうだったが。

 何? 管理職に付くと禿げるのか?

 住民から寄せられる無理難題とか、気遣いによるストレスかなんかで禿げちゃうもんなのか?


「ええ! お任せください。私はアナスタシアと申します。こっちは私の……使い魔のコモリです。悪さは多分しないので安心してください」

「多分って……流石にしませんけど!?」

 ま、まあ……とりあえず、一旦禿げの話題は脳の端にでも捨てて軽い自己紹介を向けた。

 何かアナスタシアが誤解を招きかけない冗談を交えてはいたが、ひとまず名乗った。

 対して村長さんも同じく。


「うむ! では遅れまして、ワシはこのドイナカ村の村長。名をツルパゲと申しますっ!!」


 離れたのにまだ熱気届く大声で名乗ってくれた。

「なるほど、ツルパゲ村長か」

 まだ覚えやすい名前で助か――


「…………へっ?」


 むう? きき……気のせい……かな?

 今、小学生の悪口みたいな名前が……。

 いつの間にか定着して卒業するまで、呼ばれ続ける様な変なあだ名が聞こえた気が……。

(い……いやいやきっと……聞き違いだろう)

 今一度……確認を……。


「ええっと、ツ……ツルパゲ……村長?」


 俺は語尾に疑問符を浮かべるようにして、失礼なのは承知だが一度名前を聞き直してみた。

 すると、彼は先と変わらず。


「はい! ツルパゲと申します!」


 眩しい満面の笑みで答えてくれた。


「あっ……はい。ツルパゲ村長ですね……」


 ああ、なんと悲しいかな……。

 とても端に放置できる話じゃなかった。

 それどころか俺をもっと見てくれ! と言わんばかりに、禿げの話題が俺の後ろを全力で追いかけ回してきやがった。

 いや……今はそんな追跡者よりも肝心の名前だ。

 ツルパゲって名付け親は悪意の塊が人の形を為した野郎だったのか!?

 遺伝で将来的に禿げるかもしれないからとか。

 禿げても傷つかない様にする気遣いなのか!?

 ある意味キラキラネームよりも質が悪いぞ!?

 親を恨んじまうレベルだぞ!


「因みに祖父の名はハーゲで、父の名はバーコードでしたぞ! 何やらよく分かりませんが、運命じみた名前だと自負しております!」


 ダメだ……一族全員が主犯だったみたい。

 ってか、受け入れちゃダメッ! そんな運命!

 なんでこの一族の男達は生まれた時から、毛根が死滅する運命を背負うのが確定してるんだ!?

 一族として背負うものが重すぎるわっ!!

 俺だったら泣きたくなるよ!!


「ゴホン! では、こんな門前で立ち話も何ですし、一旦私の家へ。受付で聞けなかったクエストの詳しいお話は中でしましょう!」

「あっ……はい。そうすっね……そうしましょう」


 だから、なのか……。

 まだ出会って三分も経ってないのに、


「? どうしたの、コモリ。泣きそうな顔で村長さんの頭ばかり見て、何か想う事でもあったの?」

「い、いや……なんでもないぜ。ただ……うーん、子供の運命って……生んだ親で決まる事もあるんだなって……ふと思ってさ」

「プッ、本当にいきなりどうしたの?」

「そ、そうだうな……ハハハハハ…………ハア」


 彼に既に哀愁を感じていたのだった……。

 …………と、まあ主に村長の毛根について。

 その、もう命宿らぬ荒廃した焼野原を見ながら。

 村訪問から初めの挨拶まで、心の中では怒涛のツッコミラッシュでえげつない事になりつつも。


「さあさ、どうぞ。お入りください。どちらにせよ夜にならねば『奴ら』は寄ってきませんから」

「「はい、お邪魔します」」


 こうして、そんなこんなで開幕から小さな茶番を挟んで、俺達はクエストの依頼元の村へと到着。

 クエストを受けたサイドの町から、馬車で送られていき、山なりの道を進むこと半時間程。

 その様子は如何にも名が体を表すように田舎で。

 周囲を覆う林を抜けた先にある平地にて。

 家屋としては木や石造りなどの一件屋が並び。

 余った土地には野菜を育てている畑や、リンゴなどの果物が育つ果樹園など自然に恵まれた地。

 そんなドイナカ村へと到着したのだった。


「温かいお茶も入りました。遠慮せずにお飲み下さい。茶菓子も良かったら、食べてください」


 そして、案内された村長宅にて。

「「ではお言葉に甘えて、いただきます」」

 まるで客人の様なもてなしを受けつつ、村長の奥さんが注いでくれた茶を飲み。


「ふむ、では……そろそろお話しましょうかな」


 受付ではそこまで深く教えてもらえなかった、今回のクエストの肝となる対象のモンスター。

 その詳細を伺っていた。


「時期としてはほんのごく最近ですかな。この辺ではあまり見ないのですが……『チクチク』という名前のモンスターが急に現れたんです」


 話としては、ドイナカ村を救ってくれ!

 ……とクエスト名の表記にあった通りで。

 案の定、村がモンスターに襲われているという。

 非常に単純明快でイメージしやすい話だった。


「それであいつらはワシらの食料でもあり、収入源でもある農作物を荒らしたりしていくのです」


 加えてその依頼の発端についても同じで。

 こちらについても、また何と言えばいいのか、異世界という現実離れした感触は全く無い。


(なるほどな……時々ニュースで見るアレか)

 それこそ前世の日本とかでも時々聞く様な話。


 野生の生き物が畑を荒らすという。

 大元の原因を探る為に、少し話題がずらせば。

 動物が住める土地を奪う人間が害悪なのか。

 それとも人という名の生物のテリトリーを荒らす生物が悪いのかみたいな、深く考えれば答えの出ない永遠の議論にも発展しそうな内容だった。

 まあとにかく、日本の例えを用いて要約すれば。

 イノシシとかの野生動物が、食い扶持を確保する為に山から降りてきては、野菜育つ畑や果物を食い荒らすみたいな話だったのだ。


「それでですな……次に、そのチクチクについてなんですが、まあ一匹二匹であればワシらでも何とかなるんですがな……どうも奴らは賢く、今では群れを為して行動しているようでして」


 次に姿形に関して教えて欲しかったが……。

 まあ見た目から見れば一発で分かるからと。

 特徴的な見た目でもしているのか、そう告げられて次は簡単な生態だけを教えて貰った。


「……というのがチクチクの一般的な生態です。本来であれば襲う様な事無く、大人しいモンスターの筈なんですが……何かあったのか、どうも気性が荒くなったみたいで……参りました」


 もともと山の麓あるいは山岳地帯などに生息。

 さっき村長さんが言った通り、気性は穏やかで。

 稀にだが、野生の動物とかと一緒に行動している所も見られるとかでとても人の住む場所を襲う様なモンスターでは無いと彼は言った。


「さらにですな……余計に困るのは、稀に民家まで押し寄せて、住民を傷つけるまでにはいかんのですが、金品を奪っていきよるんですわ。だから余計に資金繰りなどが厳しくなってしまって……」


 そうしてツルパゲ村長は最後に、農作物以外のもう一つの被害状況を俺達へ伝えて、終わった。


「なる程ねぇ……金関係は確かに困るな」


 確かに金が無くなるのは厳しい話だ。

 人助けにこそなるが、俺達の冒険のメインはあくまで闇の覇王というラスボスを倒す事だ。

 別にクエストを受けて最高ランクのハンターになる為に冒険をしている訳じゃないか……らな?

 うん? 待てよ……。

 金品を盗んでいくだって?


「どうか、この通りです。もうこれ以上何回も来られたら村は終わりです。何卒お救いくださいませ。報酬はしっかりとお支払いしますので!」


「ええ、どうぞ私達二人にお任せください! コモリも別に大丈夫よね?」

「うっ、うん? ……あっ、ああ、勿論だぜ!」


 ……と妙に引っかかる既視感。

 気になる点が無かった訳では無いが……。

 クエストの中身を再確認した後に。

 改めて俺達はその依頼を引き受けるのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ