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幕間-1.変態は金欠になりました


「参ったな……」

「参ったわね……」


 ハアァァ……と。


 俺とアナスタシアは顔を向き合わせると、息を合わせるように、重たいため息を口から漏らした。

 旅としては一つ目のグランドストーンを入手して順調な滑り出しを見せた頃だったというのに。

 テーブルの上に置いた平たい麻袋を見ながら、


「……こうなるんだったら、アペティートさんからいくらか貰っておけば良かったな……」

「そんな事言っても、もうフォレスタ地方は離れちゃったし。きっと、アペティートさん達ももうドージエムから離れているわよ……」

「ですよねぇ……」


 また、ため息が漏らしては場に消えていく。


 さあて…………と、では。

 じゃあ、なんで俺達がこんな麻袋一つを眺めて。


「「ハアァァァ……」」


 元オタクのニートの悪魔と。

 勇者の女の子がハア……ハア……と。

 朝から息を洩らさねばならないのかというと。


 元々それには『大切なもの』が入っていたから。

 世界を冒険するなんていう、計り知れない。

 大規模な冒険をするうえで命綱とも呼べるもの。


 …………お金が入っていた。


「でもよ、まさか寝込みをやられるなんてな」

「全くだわ。コモリはともかくとしても、可憐な乙女の寝込みにわざわざやってくるなんて……なんて悪いモンスター達なのかしら。許せない」

「か……れん? あの、すいません。アナスタシアさん。俺の思う可憐な乙女っていうのは、怒りで顔を真っ赤にして、寝巻姿で犯人を追いかける奴だとは思えな……インッ!?」

「あら、ごめんなさい。手が滑ったわ」

「わざわざ握りこんだ拳がそう易々と滑るか!」


 まあ……とにかく、そんな感じである。

 この『サイドの町』にたどり着く前の昨晩。

 付近にあった宿で俺達が泊まった際の事。

 恐らく『アレ』はモンスターだったのだろう。


(うーん、あれはまた見た事が無い新種のモンスターだったな……ハッキリとは覚えてないけど)


 寝ぼけていた俺がギリギリ視認した形としては、まるで黒いマリモみたいな丸っこい奴らだった。

 ……んで、件のそいつらは寝静まった俺達の隙を見てなのか、空いていた部屋の窓から次々と侵入しき、気が付けば硬貨などを入れていた麻袋を頭に乗せて逃げていっちゃったんだ。


「でもさ、食料だけだったら分かるんだけどよ。なんであいつら金目の物も盗んでいったんだ?」

「……見当もつかないわ」


 また、そんなモンスターの盗みの最中に偶然目を覚ましたアナスタシアは俺を叩き起こしてから。

 その後はさっき俺が理不尽に殴られた話通り。

 彼女は寝間着姿で慌てて逃げるそいつらの跡を追ったんだけど、結局、最後の見つかったのは軽くなった財布一枚……空っぽの袋だったという訳。


「グスン……折角貯めていたのに」


 とまあ、そんなこんながありまして。

 こうして俺達は見事に無一文。

 幸いなのか、食料の一部は無事に残っていたが、金に換える訳にもいかずに素寒貧状態なのだった。


「まあまあ……そう落ち込むなよ」


 元糞ニートだった俺が言えば矛盾に聞こえるが。

 金が無くなったから旅が終わる訳でも無い。

 もしリセットボタンなんかがあるのなら。

 セーブした教会まで戻りたいけど……。

 リアル異世界は、そうは問屋が卸さない。


「それに……だから俺達は『ここ』へ来たんだろ?」

「むむううぅ……それは、そうだけど……」


 そう言って俺は。

 不満そうに頬を膨らます彼女を慰めつつも。

 金に困ったそんな俺達は今いたのは。


「おいおい……まだ朝だってのにいくらなんでも飲み過ぎだぜ、おめぇさんよ」

「ヒック! い、いいんだよぉぉぉ! 昨日、オレァ一日中依頼の品を探してたんだぁ……今日くらいは休ませろぉぉぉぉ」


 朝一から大勢の人達で賑わう『酒場』だった。


 いや、別に酒を飲みに来たわけじゃないぜ。

 金も無いのに酒なんて飲もうとしたらそれこそ冒険どころじゃなくなってしまうからな。

 まあ、でも確かに一部の席ではベロンベロンになっているオッサン達の姿や、


「どうだ! 俺の手はフルハウスだぜ!!」

「またかよぉ! もう勘弁してくれよぉ」

「じゃあ、今日の酒代はテリー、お前持ちな!」

「この中で一番負けてたからな、ヘッヘッヘ!」


 飲みつつ、ポーカーで遊ぶ人の姿もあるが。


 この酒場に立ち寄った本当の理由はというと。


「おう、受付のお嬢ちゃん! 久し振りだな! 今、何かオススメのクエストあるかい? 今日は昔の知り合いをいっぱい連れてきたんだ。多分Cランク位までなら余裕でいけるぜ」

「あら! 本当にお久しぶりですね! ええ分かりました! それでは少々お待ちくださいね……えーっと……そうですね……暴れたい人向けの皆さんでしたら……あっ、これがオススメですね! クエストランク【B】その名も『巨大アリ、ジャイアントの襲撃!』です!」


「あのー……私達みたいな女性だけのメンバーでも行けるみたいな、あまり戦闘が無い簡単なオススメのクエストってあったりしますか?」

「ええ、勿論ございます! こちらはついこの間来た依頼なんですが……依頼主の希望で、女性限定のクエストで――」


「にしても……凄い賑わいね」

「ああ。それに、多分だけどこの酒場も、どちらかと言えば飲む所じゃなくて、人を集める為に作られた場所だと思うぜ。町の掲示板にも『酒場にて協力者求む!』ってあったぐらいだしな」


 所謂……集会場とでも呼べば分かりやすいか。


 この大きな酒場の内、半分以上を占める空間には多くの旅人や冒険者達の姿があった。

 対してそんな大勢の相手を対応するように設けられていたのは、受付嬢座る複数のカウンター。

 そう……この酒場は言ってしまえば。


「はい、受領いたしました。ではお気をつけて!」


 クエスト受注場所だったのだ。


 出された依頼の内容をクリアし報酬を貰う。

 よく俺が読んでいたライトノベルや。

 過去に軽く見ても500時間位はプレイした。

 モンスターをハントするゲームとかの。

 集会場として出てくるみたいな場所だった。


(でも……本当にこう言う場所ってあるんだな)


 思い返せば転生してきてからここまで。

 初めに立ち寄った町以外の酒場については、あまり立ち寄る事も無かったからな。


 それに……さらに言えばアナスタシアも、育ったのが田舎だった事もあり。

 こういった場所については疎く、全くと言っていい程知らなかった様で。


「あのー、クエストランクって何ですか?」

「あら? もしかして初めてご利用なさる方ですか? クエストランクというのは平たく言えば難易度の事です。SランクからFランクまでありまして、Fに近い程簡単という形になりますわ」

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ、因みにあそこの木のボードに留めてある紙もしくはカウンターにて色々聞けますわ。オススメのクエストも探していただけますし、一度ご相談なさっては如何でしょうか?」


 クエストを受けた者が次々と酒場を後にした後。

 カウンターの賑わいが若干治まった頃に。

 彼女は席を離れて、冒険者に尋ね回っていた。


 まあでも一応……。

 訪れるのは初めてとはいえ、似たような感じを体験した俺からすれば、大体分かるけれどな。

(転生してきましたって話をしてないからな……なんで知っているのかって聞かれたらキツイしな)

 そう考えて、俺は羽を動かし飛びつつ、ボードに貼ってある様々な依頼の内容を見る。

 えーっと、なになに……。


『クエスト名 怪蝶バナケモスの撃滅

 クエストランク【S】

 依頼主 とある国の王

 契約金 金貨五ま――』


 うん、無理だな、次だ、次。

 どう見てもこの雑魚悪魔コモリ様が太刀打ち出来る様な話でも無いし、契約金ある時点で無理だ。

 っていうか、明らかに名前からしてヤバそうな化け物なんですが……受ける奴いんのかよ……。

 まあ、ひとまず気を取り直して……次。


『クエスト名 爆発四散

 クエストランク【S】』


 ……スルーだな。


『クエスト名 絶壁の薬草

 クエストランク【S】』


 うん……?

 ま、まあ……スルー安定だな。

 気を取り直して次だ次。


『クエスト名 森が襲ってくる

 クエストランク【S】』


 な……なななな……。

 なんなんだ!? このSランク祭りは!?

 ここにはヤバいクエストしかねぇのか!?

 次へ次へと目をやれば、血の様な真っ赤な色で塗られたSランク表記のクエストばかりで。


「……仕方ない、カウンターで聞くか」


 ……と、流石にそんな無理難題の。

 高難易度クエストが続いていた為。


 若干ボードを見る事に諦めが入る。

 そんな時だった……。


「うん……これは?」


 カウンターに向かおうとした時。

 ボードの端にあった、ある一枚の。

 そのクエスト内容が俺の動きを止める。


「アナスタシアさん、アナスタシアさん」

「? どうしたの?」

「これ……なんかどうだ? とりあえず今日の分くらいは稼ぐのにいけるんじゃないか」

「何か良いクエストでもあったの?」


 俺はすぐに背後で相談してた彼女を呼び。

 端に貼ってあった一枚を見るように勧める。


「えーっと……なになに」


 そこに記載されていた内容はこうだった。


『クエスト名 ドイナカ村を救ってくれ!

 クエストランク【E】

 依頼主 ドイナカ村の村長。

 契約金 なし【緊急の為】。

 報酬 銀貨三枚 銅貨四枚。

 詳細 受付及び現地にて』


 ぶっちゃけ、さっきまでが異常だっただけで。

 パッと見はそこまで悪くなさそうだった。

 それも、さっきアナスタシアと話していた女性達の話では、難易度は下から二番目の【E】だ。

 具体的な内容こそ、ここには記されていないが、それなりにモンスターと戦えるまでに成長している俺達 なら多分なんとかなるだろう。


 それに、契約金無しなのに、報酬面も魅力的だ。

 銀貨ならば日本円で例えれば約一万円。

 例え銅貨であっても約千円だ。

 町を離れるにはまだ少し足りないけれど。

 成功すれば二、三日は宿で過ごせる。


「どうする? やってみます?」

「そうね。他に契約金が無いクエストも無いみたいだし。一度詳細を聞いてみましょう」


 それに、まあ……たまにはこうして。

 ちょっと寄り道もするのも冒険の楽しみだ。

 もしかしたら次のグランドストーンの有益な情報も得ることが出来る可能性だってあるしな。

 だからこそ、俺達はひとまず金を稼ぐために。


「じゃあ、とりあえずこれを引き受けますか」

「ええ! それにこれも人助けの一環だしね」


 そのボードにあった張り紙を外し、クエストを受ける為に。


「はあい! 次にお待ちの方どうぞ!」


 空いているカウンターへと向かうのだった。




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